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YKさんのレビュー一覧

投稿者:YK

384 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

大手マスコミが触れたがらない「南京事件」の真相に迫るノンフィクション

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日中戦争において日本軍が南京で中国の一般市民を虐殺したとされる南京事件。未だに「中国のねつ造だ」「中国のプロパガンダだ」と主張する人も多く、某大手新聞社もその見解を支持しています。著者の清水氏は従軍兵士の日記を基に可能な限り「事実」を追い求めて取材を進めています。そのプロセスは理詰めで飛躍がなく、非常に説得力のあるものです。本書を読んだ個人的な印象としては南京事件は”あった”と言ってよいのではないでしょうか。
南京事件の取材の延長上に、日清戦争で起こったもう一つの虐殺の件にも触れています。日本では教科書にもほとんど取り上げられることのない出来事であり、私も初めて本書を読んでその存在を知りました。
太平洋戦争を顧みる報道では「原爆・空襲・沖縄戦」などが多く、これは戦争によって被った被害者の視点と言えますが、日本が加害者となった事象についての報道はまだ数少ないのが現状です。その状況に一石を投じる一冊であることは間違いないと思います。次の一文が印象的でした「どれ程に長い時間が過ぎ去って、加害者側からはもはや消し去りたい歴史であっても、被害者たちは決して忘れることはない。戦争とは、つまりそういうことなのであろう」

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紙の本

紙の本罪の声

2020/01/14 18:19

ノンフィクションと思わせるほどのリアリティー!

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

グリコ森永事件を題材に、著者オリジナルのストーリーを重ねた小説です。
京都でテーラーを営む曽根俊也は、母親の部屋から古いカセットテープと黒革の手帳を見つけます。そのテープにはあの昭和の食品企業恐喝事件の犯人による警察への指示に用いられた子供の声が。そして、それは俊也自身の声でした。
なぜ自分の声があのテープに録音されているのかという疑問、身内があの事件に関わっていたのではとの疑念に揺れる俊也と、未解決事件を追う新聞記者の阿久津英士。二人は夫々が事件の真相を追っていることを知らないままに、わずかにつながる手がかりを手繰っていきます。そして物語後半で二人は出会い、なぜ俊也の声が犯行に使われたのかの真相を掴みかけるのですが…
実際のグリコ森永事件は、警察の大規模な捜査にもかかわらず未解決のままです。そこに著者オリジナルの展開を盛り込み、緻密な伏線の張り方や、複雑に絡む人間関係の描写などのリアリティの豊かさ、「実際の事件の真相はこうだったんじゃないのか?」と思わされるほどの完成度です。
お菓子に毒物を入れるという凶悪な犯罪をモチーフにしていますが、結末は非常に切ない展開で締めくくられ、フィクションではありますが、重厚なノンフィクションを読んだような印象でした。文庫本で500ページを超える大作ですが冗長な印象は全く無くて、グリコ森永事件を知っている方なら誰でも読んでいるうちに引き込まれて読み終えることができるのでは。最近読んだフィクションでは断トツの一番かなという気がします。

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紙の本

身近にもこんな人がいると思うと、恐ろしい

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005年長野県の丸子実業高校バレーボール部に所属する高校生が自殺する事件がありました。その原因をめぐり、生徒の母親と学校側(校長、担任、部顧問他)、教育委員会、バレーボール部員の保護者間で訴訟が繰り広げられたのですが、その経緯を追ったノンフィクションです。
本書によれば、自殺に先立つ生徒の不登校に対しては学校側、教育委員会ともに懸命にこの生徒が登校できるように配慮していますし、バレーボール部の部員達も生徒の登校をずっと待ち望んでいたのです。生徒の母親は「いじめが原因だ」と一貫して主張していますが、学校関係者や部関係者の誰にヒアリンをしても「いじめ」と判断されるような事実はなく、自殺した生徒自身は一貫して学校に行きたがっていたというのが実情で、学校と生徒との間に強大な壁として母親が君臨していたというのが真実でした。
生徒の母親の異常とも思える言動に翻弄される関係者の様子。校長は母親からの殺人罪の刑事告訴の事実を知った時、「一体どうして、こうなるんだ…」と茫然自失となり、いじめの加害者として名前を挙げられた生徒は「えっ?俺?何で…」と信じられない気持ちになったと描写されています。生徒を救おうと親身になって懸命になった人ほど、理不尽な避難を母親から浴びせられるという状況になっていました。
この事件は母親側と学校側やバレーボール部の保護者間で複数の訴訟が入り乱れ、最終的に母親側の全面敗訴が決定しました。
しかし、「いじめ→学校側が悪い」との思い込みから、マスコミには相当偏った報道をされ、それに乗じて多数の抗議電話が殺到した結果、学校関係者が精神的にかなり追い詰められたり、何よりも何の罪もないバレーボール部の部員達が目標としていた大会に出場できなかったりと、深い傷を残す結果となりました。
本書前半は母親が学校関係者に理不尽な言いがかりをつけて事態が混乱する様子が、後半は訴訟の進展に伴う状況が詳細に描写されています。自分がもしもこの母親の攻撃の対象となる立場だったらと思いつつ読んでいると、本当に恐ろしいというか、薄気味悪い気がしました。
真摯に対応しようとする学校関係者の労力が、この様な人物への対応に浪費される状況がないように祈るばかりです。

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紙の本

まさに調査報道の真骨頂!是非ご一読をおすすめします

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

幼女誘拐殺人犯として誤認逮捕された菅家さんが2009年に釈放されました。17年におよぶ刑務所生活からの解放です。実はこの釈放の背景には、真犯人が他にいるとの信念のもとに取材を続けたジャーナリストの存在がありました。そのジャーナリスト本人が、いかにして菅家さんが冤罪であるかを突き詰め、そしてついに検察、裁判所までを動かす大きな波を起こしたのかを辿るノンフィクションです。著者の「真犯人を野放しにさせない」との執念が結実した1冊です。まるで推理小説を読んでいるかの如く引き込まれます。菅家さんを自供に追い込んだ当時の警察の取り調べの状況、一旦下った判決への疑念に対する取材への警察の抵抗、そして事件の報道とは誰のためになされるべきか等、読みどころ満載で、書評サイトHONZでも高評価なノンフィクションです。昨年「文庫X」と書名を敢えて隠して発売され話題にもなりました。

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紙の本

紙の本ノモンハン責任なき戦い

2020/11/04 18:27

ノモンハン事件の背景を分かりやすくまとめた1冊

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争開戦の直前、満州とソ連との国境で発生したのがノモンハン事件です。”事件”という名称になっていますが、わずか4か月で日本側約2万人、ソ連側約2万5千人の戦死者を出すほどの”戦争”だったのです。
太平洋戦争では日本軍が情報軽視、補給軽視、精神主義などの悪弊によって特攻や玉砕などの悲惨な戦いを繰り広げましたが、ノモンハン事件にもそのすべての要素がすでに見受けられています。
ソ連軍の物量に関する情報を軽視して安易に攻勢に出ようとする関東軍、それを明確に止めようとしなかった参謀本部、兵力の逐次投入(兵力を小出しに投入すること)などの行動原理で大きな被害を被る結果となりました。さらにこの”戦闘”を主導した軍幹部は軽い処罰で再び軍の要職に復帰しているにもかかわらず、現場指揮官の多くにその責任が転嫁去れると言う歪んだ人事も横行していました。
しかもノモンハン事件終息後の軍内部の研究会では、兵力の近代化の遅れや情報軽視などの要因を指摘する幹部が存在したにも関わらず、必勝を期する信念の不足が敗因であると結論付けられました。もしもこの時にきちんとした敗因分析が行われていれば、太平洋戦争の展開も違ったものになっていたかもしれません。
本書はノモンハン事件をテーマにしたNHKスペシャルの取材班が番組取材の過程についてまとめたものです。上述したようなノモンハン事件に関する詳細なデータや、関係者へのインタビューなどを交えて非常に読みやすく、昭和の転機となった歴史上の出来事について押さえるべき点を理解することができます。

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紙の本

紙の本首都崩壊

2016/04/18 16:58

首都遷都を題材にした災害フィクション小説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「M8」で首都直下型地震、「TSUMANI」で巨大津波、「東京大洪水」で巨大台風による都市災害を災害シミュレーションとも言えるリアリティで描き切った高嶋氏が本書で描くのは、災害リスクによる経済の破綻です。
『東京を首都直下型地震が襲う可能性が5年以内90%以上という研究成果が発表されます。このリスクに対して効果的な対策が講じなれなければ、日本国債の暴落、極度の円安、そして株価の暴落が引き起こされ、日本がデフォルトとなる現実が目前に迫ります。この機に乗じて国際ファンドや某大国が日本への経済的攻撃を仕掛けて来る中、首都直下型地震のリスクを回避するには首都遷都しかないと、官僚や政治家が動き出します。果たして彼らの遷都プロジェクトの進捗は、国債ファンドの仕掛けによる国家破綻と、首都直下型地震の発生に対して間に合うのか…。』
本書の中でも指摘がありますが、阪神大震災、東日本大震災からの復興は必ずしも迅速ではなかったにせよ、首都機能に大きなダメージが無かったことが救いとなって進めることができたことは否定できません。今ほど東京に政治的、経済的、文化的なウェイトが集中している状況で、その首都機能が壊滅したら…という想定に対して首都遷都という回答が決して現実離れしていない選択肢であると納得させられます。
国際金融の裏舞台をこの小説を通じて垣間見ることができる、リアリティー十分な大作です。

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紙の本

旧日本軍大型爆撃機の開発計画を通じて日本の航空産業の歴史をたどる大作

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争の後半、日本はアメリカのB29による空襲で都市や工場に著しい被害が出ました。当時、戦局を打開するためにB29を上回る規模の超大型爆撃機が計画されており、それが「富嶽」と名付けられていました。計画を進めていたのは当時の日本の航空機生産を担っていた中島飛行機。日本を飛び立ち、太平洋を無着陸で横断してアメリカ本土の軍事施設や主要都市を爆撃し、そのまま大西洋を横断してドイツ占領下のヨーロッパに着陸するという途方もない計画で、想定された機体の規模は航続距離17000km、エンジンは5000馬力が6機で計30000馬力、高度1万メートル以上を巡行して最高速度は680km/時という性能を全幅65m、総重量160tの機体に収めるという物でした。これは現在の大型旅客機B777に匹敵する大きさです。
当時日本の航空機は世界的な水準にかなり肉薄したとは言え、エンジンは2000馬力がせいぜいで、双発(1機の機体にエンジンが2基)機までしか実用化されておらず、4発機でさえ実用段階には達していない状況でした。
このとてつもない計画を立案したのが中島飛行機の設立者である中島知久平です。全編で400ページ超の上下巻というボリュームのうち、上巻では中島知久平が中島飛行機を設立し、戦時の社会情勢から主要メーカーへと発展させるまでの経緯を数多くの元設計者などの証言や文献を元にたどります。
単なる兵器もの、戦記物ではなく、航空機産業の歴史をたどりつつ、航空機産業が発展するにはどのような歴史的背景があって、何が必要であったのかを丹念に辿っています。本書の著者はかつて某大手重工業メーカーに勤務してジェットエンジンの設計にも携わっており、航空機だけでなく船舶や車などあらゆる分野の産業史に造詣が深く、それだけに本書も技術的な裏付けや記述が非常に正確かつ読みやすく書かれています。本書は1990年代に発刊された後に絶版になっていたのですが、ようやく草思社文庫から復刊となり、すぐに購入して読みました。期待を裏切らない情報の量と深さに400ページを一気に読んでしまいました。

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紙の本

紙の本独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

2020/11/04 18:26

さすが岩波新書と言わしめる独ソ戦の背景を簡潔にまとめた1冊

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太平洋戦争での悲劇的な事実は特攻や玉砕など多くの書籍で紹介されていますが、ヨーロッパを主戦場とした第二次世界大戦に関してはそれ程多くありません。
本書はドイツとソ連との攻防を深堀し、かつ予備知識の乏しい人でも読み通せる貴重な1冊です。
独ソ戦と太平洋戦争との違いはその規模、戦争の目的に顕著に表れています。太平洋戦争での日本の戦闘員の戦死者は約230万人、非戦闘員の死者は約80万人と言われ、合わせて300万人もの人々の命が失われました。十分に悲惨な数字ですが、独ソ戦の犠牲者は桁が違います。ソ連側の戦闘員戦死者は1000万人超、非戦闘員の犠牲者も1000万人を超え、ドイツも戦闘員は500万人、非戦闘員は200万人以上が命を落としました。
ここまで犠牲者が増えた遠因として、次のように解説しています。
ヒトラーとスターリンという歴史的に見てゆがんだ世界観を持った指導者による戦争であったことから、戦争の目的が相手国の軍事力にダメージを与え、後に外交努力によって自国の主張を認めさせる「通常戦争」ではなく、敵国の土地や食料を収奪する「収奪戦争」、さらに相手の民族自体を根絶やしにする「世界観戦争(絶滅戦争)」へとエスカレートしたこと、当時の独ソ国境線が数千キロにもおよび、そのあらゆる領域で戦闘が行われたことなどです。
戦闘の推移を解説している部分は、やや冗長な印象も受けますが、ドイツ、ソ連の政治体制や軍事に対する考え方等が簡潔にまとめられており、非常に参考になりました。これらを裏付ける様々なデータや歴史的事実を分かりやすく紹介している本書、さすが岩波新書だなという印象です。

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紙の本

ホーキング著、青木薫訳という贅沢な組み合わせによる自然科学系読み物。期待どおりの充実の内容!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2018年に亡くなられたホーキング博士が生前に書きおろされた最後の本。「神は存在するのか」、「宇宙はどのように始まったのか」、「宇宙には知的生命は存在するのか」、「タイムトラベルは可能か」、「人工知能は人間よりも賢くなるのか」、「ブラックホールの内部にはなにがあるのか」等々、10の難問に対するホーキング氏の見解が述べられています。
ホーキング氏はこれらの問題の「正解」を読者に与えようとするのではなく、敢えてちょっと過激な見解を述べることで、多くの人々にこれらの問題に関心を持ってもらい、自分なりの見解を持ってもらうことを望んでおられるように感じます。
「ビッグバン以前には”時間”そのものが存在しないのだから、”神”が宇宙を創造する時間もなかった。故に神の存在を問うことは無意味だ」、「コンピューターウィルスは生命であると考えるべきだ」、「核戦争、あるいは気候変動により次の1000年のいずれかの時点で地球は人間が住めない環境になるのは避けられないのではないか」、「人類は地球を離れて宇宙に目を向けなければ絶滅の危険にさらされる」、「人間が制御可能なAIでなければ、増大するテクノロジーの力とそれを利用する知恵との競争に敗れてしまう」など、警鐘を鳴らす見解が多いです。
AIにしても温暖化にしても、多くの人の無関心が最も危険であり、「科学を理解し、勇気をもって解決に向かて力を注ぐ世代が必要だ。勇気を持とう。知りたがりになろう。確固たる意志を持って困難を乗り越えてほしい」という一節が本書を通じて一番伝えたかった事ではないかと思います。
非常に広い分野にわたる問題を扱った本書の翻訳は青木薫さん。自然科学系の翻訳だったら、この人しないない!と思える人です。ホーキング氏と青木薫さんという組み合わせの本書、期待通りの内容でした。

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紙の本

異色の宇宙本。高校生、中学生に是非読ませたい!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宇宙に関する新書は多数出版されています。本書を読んでもそれらの他の著作と比較して、目新しい事実が紹介されているわけではありません。しかし、本書は他の自然科学系の新書とは全く異なる視点で書かれています。
人類が現代まで宇宙開発を継続してきたその動機が人間が持つ「イマジネーション」であるとし、そのイマジネーションは読者の誰でも持っていると語りかけます。宇宙を含む自然現象への理解の進展が、純粋に知的好奇心に突き動かされた数多くの研究者のリレーによって成し遂げられ、知的好奇心は誰もが持ち併せているという著者の言葉に勇気づけられる読者も多いのでは。次の一節が非常に印象的でした。
「我々はどこからきたのか?我々はひとりぼっちなのか?もちろん、その答えを知ったところで誰の暮らしも物理的に豊かにはならない。飢えた子供を救えるわけでもない。その答えを追うことは無意味だろうか?もし、無意味と断ずるならば、物質的豊かさのみを追求するのもまた、人類の生き方だと思う。でも、僕は知りたい。あなたも知りたくはないだろうか?きっとまだ人が科学を知るはるか以前から、人は星空を見上げて自らに問いて来たのだ。我々はどこからきたのか、と。そして、人はイマジネーションの中で気づいていたのだ。その答えが、星空の中にあることを」
著者の文章にはどんどん引き込まれる不思議な力があるように感じました。理系の研究者で、これほど文学的な雰囲気を持つ文章が書けるとは。本書のどの章を読んでも面白いですが、何といっても地球外文明の探査に触れた5章が著者の素晴らしさがダントツに凝縮されている印象でした。
もちろん、著者はNASAの研究所で火星探査ロボットの開発に携わる第一線の研究者なので、5章以外の部分も素敵な文章の中に科学的な事実や、分かりやすい解説もちりばめられています。
これを高校生ぐらいの時に読んだら、自然科学系の大学の学部に行きたい、と考える学生が出てきそうな気がします。

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紙の本

原因不明の遭難事件に迫ったノンフィクション。妥協しない科学的検証は秀逸

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1959年、冷戦下のソ連・ウラル山脈で起きた遭難事件。キャリアを積み重ねた9名の大学生パーティーの全員が不気味な死に様で発見されました。極寒のウラル山脈の山麓であるにも関わらず、9名全員がまともに防寒具も身に着けず、靴も履いていない状態で、しかもその内の3人は頭がい骨骨折、1名は舌がないという状況でした。
当時、直ちに捜索隊が結成され、遭難の原因が追究されたのですが、明確な原因は特定できずじまいで当局が下した結論は「未知の不可抗力」によるものでした。それ故に様々な原因が独り歩きする状況となりました。雪崩、突風、地元少数民族の襲撃、野生動物の襲撃、武装集団の襲撃、ソ連軍の核実験の巻き添え、隕石の落下、雪男説やUFOが関与しているという突飛な説まで…。
そのどれもが説得力を持ちえず、50年近くの間に渡って「謎の遭難事件」として語り継がれてきました。
筆者はこの謎の遭難事件の原因を科学的に究明しようと遭難現場にまで足を運び、そして見事に科学的に説得力のある原因を同定しています。その原因が何かというのはネタバレになるので割愛しますが、読了するまで全く予測していないものでした。
遭難するまでの9名の動向、遭難後の捜索隊の動向、そして筆者による調査の3つの時系列によってこの事件の真相に迫る、読み応え十分のノンフィクションです。結構なボリュームですが、どんどん引き込まれて読み進めることができます。

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グリコ森永事件を俯瞰する決定版とも呼べるノンフィクション!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

昭和59年、グリコ社長の誘拐から始まったグリコ・森永事件。犯人グループに肉薄した焼肉「大同門」での現金受渡しの現場、キツネ目の男が捜査員の前に姿を現した丸大食品脅迫事件でのJR京都線高槻駅や京都駅での現場、そして名神高速道路を舞台に犯人グループに迫ったハウス食品脅迫事件での現場の3つの局面をクローズアップし、当時の捜査員からの証言で当時の現場の状況を克明に描き出しています。
その上で現場捜査員や、捜査の指揮をした警察上層部に至るまで、さまざまな立場の元捜査員からの証言でこの一連の事件の推移を描き、なぜ犯人をとらえきれなかったのかという点にも力点をおいて触れています。
怪人21面相という自称と、マスコミ、警察への挑戦的な手紙で強い印象の残っているこの一連の事件について、「当時の現場ではこんなことになっていたのか!」と改めて感心したり、多府県にわたる捜査で警察組織が現場と指揮層の上下において、各県警同志の縄張り意識・ライバル意識での横方向においても一枚岩になりきれなかった問題点など非常に興味深い事実も描き出しています。
この事件を俯瞰するとき、この1冊がまさに決定版と言える印象を受ける読み応え感満載のノンフィクションでした。

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紙の本

福島第一原発事故の生々しい記録

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

島第一原発の事故については多くの本が出版されていますが、本書は現場に居合わせた現場作業員の方の証言をメインに集めて事態の推移を描いた本です。
東日本全域が人の住めなくなる状況となるような最悪の事態を避けられたのは事故発生からの数日間に現場の方々の文字通り自らの命を顧みない作業のおかげであったことを改めて知ることができます。
しかしその現場がいかに過酷であったのかが読み取れるのは、本書に登場する多くの作業員の方が現場で感じた命の危険や恐怖を正直に語っておられる証言です。以下に抜粋します。
「怖かったです。でも原子炉建屋に入るってことは半端じゃない被ばくをするってことです。死ぬかもしれない。やっぱり行きたくなかったですよ。家族のことが頭をよぎりました(原子炉建屋に入る作業員を募る際に挙手できなかった時の心境)」、「完全に戦意喪失でした。『死を覚悟した』なんて言うけど、俺は死ぬって覚悟もないまま実際に死にかけた。あと10秒早く車に乗っていたら車ごと潰されていた。目の前に『死』があった(3号機建屋の水素爆発の際、飛散したコンクリートの塊で作業車両が破壊された作業員)」
他にも生々しい証言が多数収められています。忘れてはならないのは2名の方が地震直後の点検作業中に津波によって原発内でお亡くなりになっている事です。
技術的な説明は極力抑えて、多くの人の証言から事態の推移を描いているので非常に読みやすく、何よりあの時に現場がどのような状況であったのか、その過酷さの一端が伝わってくるノンフィクションでした。

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紙の本

国防について今だからこそ読むべき本

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1993年日本海で北朝鮮の不審船と自衛隊イージス艦「みょうこう」とが遭遇した時、艦橋に航海長として任務に就いていた著者が自衛隊や、軍事行動の本質について述べる本。タイトルからはちょっと過激な思想の本かという印象を受けますが、それはいい意味で完全に裏切られます。
自衛隊は軍隊ではないとか、スーダンは戦地ではないとか、建前論に終始する政治家の言葉とは異なり、自衛隊や軍事行動の本質を単刀直入に切り込みます。著者が自衛隊は戦闘行動を目的とした組織である事を認めた上で述べる次の一文は建前論ではなく、すっと腑に落ちました。「軍事行動とはあらゆる解決策を模索し、懸命に和解を企図したにも関わらず、万策尽きてなお、国家としてどうしても譲れないと判断した事柄についてのみ発動されるもの。どんなに美しい言葉で飾ったところで、国家がその権力を発動し国民たる自衛官に殺害を命じ、同時に殺害されることをも許容させる行為。ゆえに権力発動の理由が『他国とのおつきあい』や『〇〇大統領に言われたから』などというものであってはならず、日本の国家理念に基づくものでなければならない」
部下の隊員の命を預かる幹部自衛官の心得を垣間見ることができる本でした。
冒頭に触れた北朝鮮不審船事件の際の艦橋内における緊迫のやり取りを収録した本書前半部も読み応え十分です。

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紙の本

紙の本シンクロの鬼と呼ばれて

2016/07/27 19:48

オリンピックに臨む井村さんの心意気が伝わる本!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

シンクロの名コーチ井村雅代さんが、40年におよぶコーチ歴で経験した8度のオリンピック(6回は日本のナショナルコーチとして、あと2回は中国のナショナルコーチとして)すべてでメダルを獲得したその舞台裏、中国のナショナルコーチを受諾した時の周囲との衝突の真実、ご自身の支えとされてきた心情などを語ります。とにかく伝わってくるのは「この子を何とかして上達させてあげたい。そしてオリンピックという素晴らしい舞台に立たせてあげたい。その最高の舞台でメダルを取るという経験をさせてあげたい」という選手への深い愛情です。琴線に触れた箇所に付箋を貼って行ったら、付箋だらけになりました。いくつか抜粋します。
「五輪はスポーツの天才の集まりではなく、五輪に出たい、出たいと強く思い続けて努力し続けた人の集まりだ
」、「自分ができない時、才能がないからできないのではなく努力が足りないからと思える心の才能がないと進歩しない」、「練習は最悪の時やしんどい時にするもの。試合は元気な時にするもの」、「子供の集中力、やる気が持続しないのは、やることの意義、動機づけを大人がきちんと伝えていないから」、「試合でプレッシャーを感じて当たり前。とことん感じて、それを突き抜けて開き直るぐらい追い込まれないとダメ。そのためには”やれることは全てやった”という自信が必要」などなどです。ちょっと古いタイプの考え方かもしれないし、違和感を感じる方もいると思います。ですが、単なる精神主義や勝利至上主義ではなく、また悪しき平等みたいな綺麗事で片付けない、こういう考え方は大変共感できました。語り口調が大阪弁なので、親近感もありますし、読み終わって何かすっきりします。

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