しろくまさんのレビュー一覧
投稿者:しろくま
紙の本ペスト 改版
2015/08/23 16:31
自分だけの言葉を見つけてください
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
これほど深い感動を味わった小説はありません。カミュを独特の難解さというものはありますが、不条理といかに戦うべきか、その術を身をもって教えてくれます。それは戦い続けるカミュ自身に重なっても見えます。決してはぐらかすことはせず、正々堂々、正面突破。カミュの肉声が詰まっている、そんな印象を受けます。
「異邦人」よりも本作を薦めたほうがファンが増えると思うのですが…。もっとカミュの長編を読んでみたかった。
紙の本ファウスト 改版 1
2015/08/23 16:17
読書の重層化!?
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
古典ではありますが、臆せずにまずは読んでほしいです。1巻は物語が展開するので、どんどん読めます。2巻に入ると少々様相が変化し、少し難解に思えるかもしれませんが、ゲーテの大きな想像力の翼に身を預けてみてください。やがて人間全体を飲み込まんとする大きな光が待っています。
ファウストは作品そのものを楽しむことはもちろん、読後にあらゆる場面でファウストが引用されていることに気が付きます。
紙の本狭き門 改版
2015/08/23 16:09
時間は馬のようには駈け出さないけど…
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
狭き門をめざすことのジレンマを描かれていますが、それにもまして、一人の人間として自分が成長していく過程で、本当に大切なものは何なのかをもう一度問い直すきっかけを与えてくれました。
そうそう人と人とはこんな風につながって、でもやっぱりこんな風にうまくいかなくて、それでも無情に時間だけは確実に進んでいって、もうあんな風に生きることって難しくなってしまった。
登場人物と境遇は違えど、読者にもそれぞれ違った点で共感する部分があるのではないでしょうか。
紙の本変身・断食芸人 改版
2015/08/25 18:19
断食芸人も興味深い
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「変身」はいわずとしれた古典ですが、そのスリルと結末は、読者を必ずや魅了してくれるでしょう。
「断食芸人」もかなり面白い。ゴーゴリに似た雰囲気を持つ短編。
カフカは読んでいていつも思うのですが、当の本人(主人公)が案外自分の運命に対して他人事みたいなんで、なんともブラックなんですよね。
電子書籍海市(新潮文庫)
2015/08/30 21:18
海市
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「海市」とは蜃気楼のこと。まさにこれしかこの作品を表す言葉はないのではないでしょうか。ユニークな構造を持つ作品ですが、決して破たんすることもなく、美しい恋愛小説とまとめ上げられた作品。力作ではないでしょうか。
たしかに、登場人物は身勝手かもしれません。でも、恋愛って時にそういうものでもあるというのも、事実。
村上春樹の「国境の南、太陽の西」が好きな方は、きっと気に入るはずです。
紙の本箱男 改版
2015/08/30 21:04
箱男
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
読んでいく過程で、自分はどこから読んでいるのか、分からなくなってしまう。覗いていたはずが、いつの間にかずっと覗かれていた、そんな不思議で、難解な作品。
でも、そのくらくらするほどの眩暈に会いたくて、また読み返してしまう、何度読んでも魅力の尽きない作品です。
紙の本外套・鼻 改版
2015/08/28 17:22
くせになる味わい
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「外套」は世間の隙間で生きる弱者に対する温かい視線が感じられます。ドストエフスキーは「我々は皆ゴーゴリの『外套』から生まれ出でた」と言っていますが、まさにドストエフスキーの「貧しき人々」にも通じるものを感じました。一方、「鼻」はシュールで想像力フル回転といった作品。
いずれもそれぞれゴーゴリらしさを味わえることができます。
紙の本千年の愉楽
2015/08/25 17:44
縦横無尽
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
こういう小説の可能性も存在するのかと深く感動しました。
不思議な文体がつぐむのは、広くて深くて濃い物語。
こんなに力強い物語にはそうそう簡単には出会えません。
何度も読み返したくなる作品。
紙の本魔の山 改版 下巻
2015/08/17 17:25
「下山もまた登山なり」
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人間をまるごと放り込んだような作品。
難解だという前評判から、いつかは読んでみたいと、しばらく「登頂」する機会を探っていたのですが、いざ読んでみると、愛すべきキャラクターばかりで、楽しく読め、深く感動しました。
確かに、上巻と異なり、下巻に入ると当時のヨーロッパの論点を網羅せんとした議論(政治、法学、政治学、歴史学、芸術、音楽、天文学…)が続き、果たして今小説を読んでいるのかと道に迷いそうになるかもしれません。しかし、あきらめず歩を進めてください。その道中、マンはすてきなエピソードをたくさん用意しており、小説の可能性に対する大いなる希望と人間の本質に迫らんとする彼の気概が感じることができるはずです。
そして、作品全体を貫く深くて暗いテーマを抱えながら、物語はやがて最後を迎えるのですが…、私自身、あの最後でしか最後たりえないのではないかと思います。
多くの人に「魔の山」を読んでほしい、そして、あの頂からの景色を見てほしいと思います。
人生の宿題にすることなく、ぜひすぐにでも読み始めてほしいです。
紙の本MONKEY vol.7(2015FALL/WINTER) 特集古典復活
2016/01/31 14:45
ボリュームたっぷり 村上春樹ファンもそうでない人も満足できるはず
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「古典復活」と銘打っているものの、ほぼ村上春樹特集です。
「対談 村上春樹 + 柴田元幸」「復刊してほしい翻訳小説100」は、すでに新刊としては手に入りにくい文庫について、お二人があれも読みたい、こっちの翻訳はおもしろい、というような、とても興味深い対談となっています。加えて、私のように翻訳小説に明るくない読者にとっては、カイドブックとしても使えそうです。
「『職業としての小説家』刊行記念 村上春樹インタビュー
優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない
聞き手:川上未映子 」も、同書の延長線上という位置づけは間違いないでしょう。村上春樹ファンは押さえておいて損はないと思います。ちなみに、
「写真ー荒木経惟」とされているのは、同書の表紙の写真掲載に際して断りを入れている程度なので、村上川上両氏のツーショットを期待して購入した私は、ちょっとがっかり。
紙の本錯乱のニューヨーク
2015/09/18 16:42
摩天楼は未だ道半ば
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
建築には暗いわたしにも、面白くどんどん読めました。技術的な話はほぼ皆無なので、臆せず読めました。写真、図版も豊富かつ興味深いものばかり。誕生から、未だ形成途上にあるマンハッタンに、大変魅力的な切り口から挑んでおり、目から鱗の連続でした。
読めばマンハッタンが昨日までより輝いて見えること間違いなし。
紙の本狂人日記 他2篇
2015/08/28 17:14
併録の「肖像画」はもっと面白い!
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
徐々にぶっ飛んでいく「狂人日記」も面白いし、楽しく読めるのだけど、併録されている「肖像画」のほうが面白いように思えました。ストーリーのつくりも凝っているし、なんといっても怖い!
紙の本日本近代文学評論選 明治・大正篇
2015/08/20 16:39
当時の文士の息遣いが聞こえてくる
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
文学に対する純粋で熱い思いが伝わってきます。
また、意外にも読みやすくて驚きです。
親切にも見出しが逐一つけられており全体の流れが把握しやすくなっており(これを読むだけでも大変参考になります)、また内容もバラエティに富んでいるので、読んでいて飽きることがありません。なかなか手に入りにくいものも盛り込まれているので、文庫一冊で読めてしまうことを考えるととてもお買い得。
紙の本密会
2015/08/19 14:53
「地獄への旅行案内」
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
安部公房は、この作品について、「地獄への旅行案内を書いてみた。」と言っています。
この言葉の意味を手掛かりにして読み進めてもよくわかりません。
知らぬ間に真っ暗な霧に包まれたような、簡単に抜けられると高を括って入り込んだ迷路で迷い込み、必死に出口を探す。そして、ようやく逃げ切れたと思った瞬間、すぐそこに仄暗い地獄の入り口があることに気付く…。
読後に、心と体が引き裂かれるような気持ちにさせる安部公房の世界はくせになります。
本作はあまり話題に出ないのですが、彼の作品で一番好きな作品です。
ぜひ読んでほしいです。果たして安部が用意した地獄から逃げられるか!?