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  3. 求道半さんのレビュー一覧

求道半さんのレビュー一覧

投稿者:求道半

279 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

司書の願い

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作は謎の図書館で働く女性司書と主人公の少年との出会いが、少年のその後の人生を大きく変える、本に関わる人々の物語であり、かつ想像上の生物や異形の種族、また不思議な書物が登場するファンタジーである。
 第一巻を最後まで読めば、謎の図書館の成立過程やその背景が読者に分かる構成となっており、その途中では、特に、本の修復に携わる司書の手仕事が、丁寧に描写され、最終頁まで読者を飽きさせる事はないであろう。
 作中では司書の仕事だけではなく、主人公が暮らすアムンの村やその周囲の自然も緻密に繊細に活写されて、中近東風の地理や習俗には実在感が宿り、作中に登場する本やその存在意義にも、説得力がある。
 主人公は読書が好きだが、所属する社会的階層の違いにより、自由に本と触れ合う機会がなく、更にその特異な容貌が、村人との軋轢の原因となり、社会的にほぼ孤立している。
 そのような状況下で、本の都アフツァックから村に派遣された司書の一団が主人公と知り合い、少年は未知の世界の一端を知る事になるのである。
 タイトルに「大魔術師」が含まれるので、本と魔術との関係が気になる読者もいるだろうが、それも第一巻を最後まで読めば、明らかとなる。
 本作には、本を渇望する者の気持ちが、詰まっている。
 書物への愛も溢れている。
 司書の役割は重大である。
 主人公は司書になれるのだろうか。

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紙の本

諜報の手引

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

一編が六十頁程の分量の四つのエピソードとエピローグで構成された本作は、漫画版を読んだ事のある読者であれば、容易に、文字が絵に変換されて、情景が頭に浮かぶであろう。
 しかし、未読であれば、時系列を正確に掴めず、本編とノベライズ版を絡めて、各エピソードを味わい尽くすのは、困難であるに違いない。
 副題に則り、ちち、はは、アーニャ、ボンドの三人と一匹で構成されるフォージャー家の面々が、パーリント市内の各地において、一家と関わりの深い多くの人物と、一時を過ごす事により、それぞれの性格が、漫画版と寸分違わぬ形で、描き出される。
 喧嘩するほど仲が良いと言えるのか、アーニャとダミアンは。
 血の繋がらない姪と叔父は、家族に成れるのか。
 恋多き男の前に現れた女の正体は。
 仮初の一家の休日の過ごし方とは。
 この四つの疑問に答えた後、フォージャー家が、スパイ活動の産物であるとは知らない市井の人々の、この家族に対する寸評が語られて、幕が下ろされる。
 この僅か数頁のエピローグが蛇足ではなく、点睛となって、四つのエピソードを纏め上げており、工作員黄昏とその一家の行動原理は、余す所なく、読者に理解されるであろう。
 アニメ化されれば、これらの挿話は、本編との落差を、視聴者に全く感じさせないものとして、古参の読者にも、好意的に、迎え入れられる筈である。
 アニメ化の前に、漫画化してほしい、出色の短編群だ。

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紙の本

聞き分けの良い駄々っ子

9人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

身寄りのない幼女を施設から引き取った若い男は、敵国のスパイである。その男は行き遅れた女性と偽装結婚をして、三人家族を装っている。
 娘の名はアーニャと言い、未就学児だが、就学年齢に達しているのかは不明でありながらも、父親から小学校の入試を受けさせられて、数々の不正な手段を駆使して、名門校へ入学させられそうだ。
 アーニャは、スパイが活躍するアニメの視聴者で、スパイに憧れており、父親の正体を知っている。
 父親のコードネームは黄昏で、彼は精神科医のロイド・フォージャーと名乗り、複数の任務を掛け持ちする。
 アーニャは父親の事を「ちち」と呼ぶ。
 母親の事は「はは」と呼ぶ。
 母親のヨルが、容姿端麗でありながらも、独身であったのには、それ相応の理由がありそうだ。
 アーニャは、母親が暗殺者である事を知っている。
 アーニャには超能力があるので、両親の隠し事は、娘に筒抜けとなる。
 しかし、アーニャは幼女だ。集中力や体力、知力や学力は発達途上であり、他の受験生と比べると、聡明さや語彙の豊富さの点で、劣ると言わざるを得ない。
 但し、根気強さは、認められる。
 アーニャは馬鹿ではない。
 幼いのだ。
 幼さは美徳である。

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紙の本

母の半生

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

未亡人と一人息子の母子家庭に潜む、亡き父親に由来する謎の現象と秘密を、漫画家である母親と高校生の主人公の日常生活に自然に溶け込ませて、それを読者に不道徳とは感じさせずに楽しませる、断じて、成人向けではない特殊な作品である。
 あとがきの作者の告白を真に受ければ、この題材を扱いたくなかった漫画家が描いたとは思えない、緻密な背景や小物、そして何よりも、ヒロイン大蜘蛛ちゃんこと鈴木綾の年相応の女らしさの表出に対する気合と情熱の籠もった描写は、不思議で、不可解であり、読者は本人の知らぬ間に作品の虜となるであろう。
 作中においては、過去と現在の三組のカップルの恋の進展状況が断片的に、反復的に、映し出されて、共鳴する。
 更に、そこへ、実在する映像作品のオマージュや自作のパロディが絡んで、読者の倫理的な嫌悪感や反発を巧みに和らげる仕掛けが働き、本作は娯楽性の高いラブコメディとなる。
 話の展開は緩やかで、登場人物も多くはなく、結末は見通せないものの、最初に尋常ではない状況さえ受け入れられれば、最後まで読み進めるのが困難な作品になるとは思えず、各読者で受ける印象の異なる、扇情的な描写の有無や多寡のみで、購入の是非を判断するのは避けるべきである。
 主人公、鈴木実は悩んでいるのだ。

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紙の本

学際的比較文明考

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

下校途中の女学生が目にする光景、放課後の待ち合わせ、秘密の共有、逢引、などと書き連ねると、いかがわしい雰囲気が漂い始めるが、それらを昭和の事物に絡ませて、変質者まがいの異星人との交流を描く連作や短編を収める本作は、言わば変奏曲であり、似たような展開、背景、登場人物の微妙な差異こそが、意識されない、言語化できない魅力の源泉であろう。
 核兵器と少女のヌードが、ある程度、平然と、日常的に並置され、謎の電子機器と地球外に由来する文明の利器が平穏な市民生活の背後で、その使用と回収を巡る諍いを生んでいるとは、作中人物も読者も、知る由がない。
 だが、その経緯は明確には提示されず、断片的な情報の収集と解説を兼ねたあとがきで読者が想像する他なく、未完成、或いは中途半端と感ずる読者も多いのではなかろうか。
 ここが作者の狙い目である。
 語弊を恐れず、作者の意図を推し量れば、全て方便である。
 女子中高生の裸が見たい。変な生き物と戯れたい。機械いじりを楽しみたい。セーラー服、スクール水着姿のおさげの少女への憧れ。欲望ではなく願望をオブラートに包まず、SFという隠れ蓑で、包み隠さず、直截に違和感なく表現する手法上の制約だと考えれば、一から十まで描き切らない事が大切で、この微妙なバランスが崩れれば、ただの欲望まみれの他人が読めない、独り善がりの排泄物に変質するのは間違いない。
 あとがきで作者が分かりやすさの度合いを図示しているが、「たぶん惑星」や「いないときに来る列車」を読んでから、或いはその逆でも、制作年代によるニュアンスの違いを把握した上で再度、本作や他作品に触れれば、作者の一貫した姿勢と意図が自ずと理解出来、後を引くのは確実で、静岡に縁もゆかりもない多くの国民も、昭和を知らない世代も、作者が関心を持ち続ける事物に対する親近感と殺風景な日常に潜む驚くべき未知なる存在への関心が高まるかもしれない。

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紙の本

連理の秩

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

司書正は官職名である。
 本作品は漢字文化圏をモデルにした王朝物語であり、書籍に関わる役所で働く少女の務めを中心として、某国の歴史や周辺諸族の風物が描かれる。
 蛮族の出であるキビは、数ヶ月前から、司書正の近辺で働き始めた。
 少女に任せられた仕事は、司書正の雑務の処理ではあるものの、書物に関する事務的な作業ではなく、秘書と言うより、下女と呼ばれるべき肉体労働を伴うものでありながらも、その由一無二の立場から、余人には認められない事柄でも、キビにだけは許されている事がある。
 司書正は、通常の図書館とは異なる権能を併せ持つ、この国独自の部署の要職である。
 歴代の王に重用された司書正だが、現国王からは冷遇されており、その処遇に対する懸念や異論が、臣下から噴出しても、王は態度を軟化させず、後宮における王の寵愛を巡る争いに端を発した政変の兆しも見られて、政権の基盤が揺らぎ始めているのが、この国の現状である。
 唐風の架空の国の歴史小説を前にして、全く食指が動かない読者には、この話は退屈だ、と思われるかもしれない。
 多少なりとも、漢籍に触れた事のある読者であれば、随所に見られる漢文の書き下し風の叙述や語彙、官僚制度や風俗等に、唐様の命脈が強く感じられて、徐々に、この国への関心が高まるであろう。
 本作品は、ノンフィクションの様な、漫画ではない。
 伝奇的な出来事が、国の命運を左右する様な、娯楽的な要素が多い漫画である。
 他のハルタの掲載作品と同様に、本作品の単行本は、装丁に気を配っており、電子書籍では味わえない、本を愛でる喜びが、紙では間違いなく得られるが、本作品では、それが、他作品よりも、顕著に、感じられるであろう。
 カバーにも、本体にも、凝った意匠が施され、舶来の書画骨董を思わせる、貴重な一冊に仕上げられている。
 代々、司書正の任期は短かった。
 天帝の意図する所は、人知の及ばざる領域に属し、卜占の結果に納得せずとも、政道を歩まねばならぬのが、王の定めである。
 キビは働く、司書正の為に、真心を込めて。

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紙の本

無謀な少年

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

物語の主人公に憧れるだけの読書体験から脱却して、現実と向き合い自分の人生を主体的に生きる事の大切さを司書から学んだシオの、難関の司書試験に挑むための本の都への旅が描かれる第二巻では、第一巻に登場した人物の大半が姿を見せず、旅の途中で出会う人々との交流が話題の中心となり、壮大な序章とも言い得る第一巻の結末から話が継続していても、各巻の独立性は高いと言える。
 仮に第一巻を全く読まずに第二巻から読み始めたとしても、本を巡る作品の根幹は当然、維持されている上に、第二巻の方が作中世界の歴史や地理、本の都に関する情報が多いので、ビブリオファンタジーと言うジャンルに馴染みのない読者が、本と魔法の組み合わせで面白い漫画が成立するのか、と考えて本作を敬遠するのであれば、手始めに第二巻から読むのは間違った行為ではない。
 第一巻の構成に度肝を抜かれた読者の中には、二巻目以降との落差を読む前から懸念する人もいるであろう。
 しかし、気を回しすぎだ。
 第二巻の冒頭から、あの感動が蘇り、第一巻とは異なる形での話の締め括り方を確認すれば、再度、その構成の妙に舌を巻く事となる。
 第二巻は受験編の一部であり、合否は判明しないものの、第一巻では描かれなかった司書と別れた後のシオの行動や、成長して凛々しく、逞しく、より賢くなった被差別民の、単なる処世術とは異なる、知識の実践の仕方に、読者は多くの場面で感銘を受ける筈である。
 どうか、本を題材にした作品だから、書物に愛着が湧かない読者は楽しめない、と、決め付けないでほしい。
 恐竜のような獣や謎の生き物が暮らす世界においても、耳長と呼ばれて蔑まれるシオの特異的な風貌は、約百年前の惨事と無関係ではなく、その出来事への魔術師の関わり方が、本の都アフツァックを中心とする知的空間を産み出した。
 本作における本の役割は重要だが、政治的な背景も、同程度に、物語の基盤となっている。
 シオの住むアムン村はヒューロン族の自治区であり、世界には多くの他民族が存在する。

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紙の本

女優の想像力

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

中学生の時、同い年の若手清純派女優に恋をした高校一年生、玉梨大地は、本人は知る由も無いが、憧れのその人とSNS上で文字だけの会話を交わす仲である。
 一方、皐月菜乃花は、相手が自分のファンであるとは知らずに、自ら、連絡を取り、常に共通の趣味について語り合える事に喜びと安らぎを覚えている。
 身体的な側面と精神的な側面の両面で劣等感に苛まれる少年と、自身の虚像と実像との乖離に悩む少女とが、仮初の知己として、互いを励まし、共に成長する物語に、更にもう一人の少女、大地の幼馴染である高峰真麻が恋愛面で絡んで三角関係になりつつあるのが第一巻の概略だ。
 学園のアイドルと売れっ子女優が、冴えない男子を巡って、間接的に張り合う様は、双方に恋心の自覚がなく、まだ、恋の駆け引きとは言えないものの、険のある物言いや態度がそれぞれから看取されて、今後の展開が楽しみだ。
 共学高校を舞台にしている以上、男女間の性的な騒動も起こり、主人公がそれに巻き込まれる事で、周囲との関係に変化が生じるのも、読者の期待に少なからず応えようとする作者の姿勢が垣間見えて好ましく、本作の評価を高める一因となる。

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紙の本

脇目を振ったら

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

スポーツ推薦で入学した本屋の娘と公立高校に落ちた定食屋の息子が通う石川県の私立高校を舞台にしたコメディーである。
 この爽やかな青春物語は、中学では疎遠になった幼馴染が、学期末試験の勉強をガリ勉の男の子に手伝ってもらうことで旧交を温める、肉付きの良い女の子の片思いの物語であり、ムッツリスケベな男の子の苦悩と葛藤の日々の記録でもある。
 スケベだが少年は誠実で、勉強の妨げとなる豊満な胸、肥えたお尻、見え隠れする上下の下着を堪能した上で、直接、彼女に申告する。当然、羞恥心の裏返しである暴力的な返礼を毎回、受け取るわけだが、誇張されたタンコブは痛々しさや不快な感情を伴わず、これがなくてはコメディーが成り立たない。
 「まーくん」の目の届かない女子更衣室では、女友達が女子ならではの特権を活かして戯れ、プールでは破廉恥な特技を披露して「天野めぐみ」の素顔を読者に届ける。それに伴い、必然的に他の女子生徒の下着姿や水着姿も楽しめ、ありふれてはいるが、なくてはならない場面が目白押しである。
 部数回復の起爆剤に選ばれた新人の作品としては申し分ないが、人体各部のバランスの悪い描写が複数あり、多少、目を瞑らなければならないが、一巻目にしては上出来だ。
 男勝りな活発な少女が小学生の感覚で気安く接し、無邪気な色気を発散する中で、自身の目標の実現に向かって勉学に励む少年の過去と現在は、実は肉欲との戦いの過程に他ならず、度々、打ち負かされるその様子から、いつまで耐えられるか目に見えているが、二人はまだ高校一年生で、夏休みの真っ只中でもあり、焦らず、じっくりと親睦を深めるのが読者の理想である。

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紙の本

紙の本いないときに来る列車

2015/09/30 23:18

隣人の性癖

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

世紀末、核戦争、人類滅亡の恐怖を肌で感じた東西冷戦時の記憶を少しでも持つ読者は、肩透しを食わされる、張りつめない緊張感の中での妙な居心地の良さが味わえる、あっさりとした短編が、連作も含めて、多数、収められている。
 何故、宇宙人は女子中学生の生態に興味を抱き、大規模な仕掛けを施して、その裸体を覗き見ようとするのか、と、疑問を抱いてはいけない。宇宙人の嗜好は人類とは異なり、人類でさえ、少女の水着姿やヌードに、美を見出してきた歴史を知る者にとっては、無粋な、自明の理である。
 昭和の後半を舞台にする事で、一昔前の機械や風俗に対する知識を実体験として保持する者の意表を突く、腑に落ちながらも微かな違和感を残す、その違和感が不快感や否定的な感情を催さない、郷愁とは異なる親近感に似た感情が、きっと、湧き上がるであろう。平成以降に生まれた読者の興味も必ず引く趣向に満ちた、少しずつニュアンスの違う物語の中を、一度でも覗いた途端、何かが心に引っ掛かり、また、その世界に浸りたくなる中毒性が宿っており、注意が必要だ。
 名立たる出版社の発行する夥しい漫画の中で、似たり寄ったりの作風が氾濫し、現状に飽き飽きしている読者こそ、新たな読者になる資格を備えていると言える、堅苦しくない、芯の通った、SF作品集の体を装っていると誤解されるかもしれない、紛れもなく、女の子と謎の生き物が活躍するSF漫画である。

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紙の本

有償の愛

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

名門校に通う事で、父の仕事のお手伝いに励むアーニャであったが、就学年齢に達していないハンデを克服するのには、あらゆる面で相当な努力が必要であり、当分の間、父ロイドの胃痛は改善されそうに無い。
 母ヨルの弟で優秀な外交官である叔父のユーリは、最愛の姉を奪った義兄を憎んでおり、その娘である姪っ子のアーニャに対しても、心中穏やかならず、邪険な態度で接している。
 だが、親戚関係が発生したからには、姉の婚姻関係の破綻を望んでいたとしても、義兄の家に出向き、姉から頼まれれば、姪っ子の学力の向上に一役買わねばならない。
 表向きは市役所勤めのヨルの同僚に対しても、ユーリの冷淡な姿勢は変わらず、至高の存在である姉を貶める行為は、処罰の対象であり、たとえ相手が女性職員であったとしても、ユーリは容赦はしないであろう。
 幼い時に母親を亡くしてから、姉弟は、それぞれ、相手の事を想い、支え合って、生きて来た。
 姉は弟に言えない秘密を抱えている。
 弟も、姉に隠している事がある。
 だが、新妻でさえ知らないフォージャー家の秘密を知る者は、案外、多く、存在する。
 花嫁は、夫のロイドと娘のアーニャが実の親子ではない、とは誰からも知らされていない。
 精神科医のロイド・フォージャーの周囲では、敵国で暗躍するスパイが、目を光らせてはいるものの、所属や正体が不明のスパイとロイドが鉢合わせする事もないわけではなく、ロイドは片時も気が抜けない。
 最近、フォージャー家には、来客が多い。
 もじゃもじゃは姿を見せない。
 えーじぇんとぺんぎんは命を狙われている。

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紙の本

地母神の行在所

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人殺しの女性でも、父子家庭に嫁いで、継母として、義理の娘の教育に携わる事が出来る。しかも、ヨルさんは公務員でありながら、結婚後も、罪を重ねている。
 しかし、ヨルさんは快楽殺人の虜ではない。
 弟を養い、国の平和を守る為に、幼い頃から、苦界に身を投じて、身を粉にしている。
 弟は姉の秘密を知らずに成長し、成人した弟も姉に隠し事をする奇妙な間柄だが、二人は仲良しだ。
 弟は姉を溺愛していた。
 弟が夫と初めて対面する事となり、ヨルさんと夫のロイド、娘のアーニャは、彼を新居に招く準備に余念がない。
 実は、夫と義理の娘は血の繋がりのない後腐れのない関係なのだが、その事について夫からも娘からも、ヨルさんは知らされておらず、ヨルさんの方も自分の素性を急拵えの家族に対して打ち明けてはいないのであった。
 何せ、ロイドの職務は敵国での諜報活動であり、急遽、嫁の成り手を探す事になったのであるから、任務に差し障りのない未婚の女性を厳選して、更に偽装結婚の申し出に応じてくれる奇特な女性を、適切に見出せる方が奇跡であろう。
 フォージャー家は、当事者の運命的な出会いと、支援者による配慮、そして、若干、楽天的な家風によって維持されている、いつ何時、崩壊しても不思議ではない、冷戦下の産物である。
 幸いにして、娘のアーニャは義理の母親に懐き、ヨルさんから体術の特訓を受ける程に彼女の事を信頼している。
 夫との関係は、時々、気まずくなる事があるものの、娘の存在が夫婦関係の修復に大いに作用して、新婚家庭の秩序と安寧は保たれている。
 新妻の目下の悩みは、夫の方が料理の腕が上の事であろうか。

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紙の本

虚空のマトリョーシカ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

和歌山県の沖合いにある島では、島民は自分に瓜二つの者を見る事があるそうだ。
 主人公の網代慎平は、夏祭りの日に、神社の境内で、同様の体験をする。
 慎平の幼馴染の小舟潮も、潮の妹の澪も、別の日に、他の場所で、似たような現象に遭遇する。
 菱形窓は慎平の親友で、窓の父親は医者であり、菱形家は医者の家系である。菱形家が経営する病院の山中にある旧病棟に忍び込んだ慎平と潮と窓は、薬品や書類等の杜撰な管理体制を知り、驚愕する。
 その島に、本土から着た一人の男性刑事が現れて、窓の妹の朱鷺子と澪に話しかける。
 島には、不真面目な警官が一人いる。
 島では、スーパーを営む一家が失踪する事件が発生した。
 島内の情勢は不穏である。
 これらのエピソードが断片的に、時には時系列に沿って、作中で語られる。
 物事には因果があり、凶事には元凶がある。
 ベストセラー作家の南雲竜之介は帰島し、何かを探る。
 慎平は潮の葬儀に参列する為に、南雲と同じ船に乗り、船中で、破廉恥な行為に及ぶ。
 南雲の見た目は女性である。
 島では混乱が生じている。

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紙の本

ポストルネサンス

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ダビデ像は裸である。
 ダビデ君は高校の制服を着ている。
 しかし、時々、裸になる。
 ダビデ像の股間は開陳されているが、ダビデ君の一物は公にならない。
 厳密に言うと、あるマークで性器が隠される。
 小便小僧は裸である。
 小便小僧くんも裸である。
 そして、どちらも小水を放つ。
 西洋美術や神話を題材にしたキャラクターが数多く登場する本作では、ヒロインのヌードが作中で描かれていても不思議ではないが、第一巻ではダビデ君の妄想の中においてのみ、ヒロインの愛欲の女神は裸にされるものの、現実的にダビデ君が目にするのは、海水浴での水着姿に止まる。
 本作は、堅苦しい美術談義を、たとえ漫画であったとしても読みたくない人でも、第一巻を笑いながら読むだけで、ルネサンス期の精髄のごく一部を、手軽に身につけられる作品である。
 また他の時期の美術品についても知る事が出来る。
 イタリア語についても詳しくなれる。
 ダビデ像に似た高校生の男子が抱える悩みの数は一つではなく、誰もが一度は経験する学校での失敗や家庭における問題、恋や友情についての懸案の、ギャグならではの解決策を査定しつつ、読者は他人事のように笑い飛ばせる。

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紙の本

紙の本たぶん惑星 愛蔵版

2018/09/06 23:51

社会基盤としての地球外生命体

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

間もなく訪れるであろう昭和時代の終焉を、日本人が意識しているとは思われない世界において、日本列島上には存在しない謎の空間で生活する人々の暮らしを、本土からの移住者の少女の視点で描いた本作は、もっと昭和が続くと思っていた読者だけではなく、平成になってからこの世に生を受けた若人にも、カルチャーショックを与えるであろう。
 当時のサブカルチャーに染まらなかった読者からすれば、コンピュータやパソコン通信、漫画の同人誌の執筆を趣味とする人物が身近にいる環境は異世界のものである。
 その上、多分、どこかの惑星の生態系に属する変な生き物やそれ以外の宇宙人と主人公は共生するのであるから、それらの相乗効果により、本作の特異性は、常人には計り知れないものとなる。
 少女の腰蓑姿を好む原生生物や他の知的生物が街中に現れては騒動を巻き起こし、常に何者かによって見張られている異界での生活は、それらとは別の存在を頂点とする緩やかな支配体制によって維持されてはいても、慣れれば本土にいるのとさして変わらず、快適なものである。
 そこでは、夏休みには本土と同様に学生は宿題をこなさなければならないが、海水浴にも出掛けられ、お祭りもあり、地球上では体験し得ない不思議な出来事が頻発しても、騒ぎは一過性のものである。
 しかし、それらは確実に更なる異変の前兆である。
 作中では昭和六十四年の話題だけではなく、平成元年の世界情勢も描かれており、また、その惑星のテレビ電波の受信状況は静岡県の西部に依拠するので、本作の舞台が歪な時空であるのは確かだが、読者は作中に漲る昭和の雰囲気と世相を騒がせた風俗を満喫して、昭和六十四年の夏を過ごせば良い。
 粟岳氏の作品に頻出するスクール水着姿の少女や半裸や全裸の少女は、水郷地帯を連想させる惑星の居住区域の場所柄も手伝って、本作においても登場する場面に事欠かない。だが、昭和の象徴とも言える愛好家の垂涎の的だけに読者は目を奪われてはならず、もちもちと呼ばれる個体差により形状が大きく異なる種族や毛むくじゃらの生き物の社交的で愛くるしい生態も注意深く観察しなければ、本作を味わい尽くしたとは言えない。
 愛蔵版には旧版の欄外の注やおまけの漫画やイラストも再録されているが、カラーの口絵はなく、第一巻と第二巻のカバーのイラストもモノクロで巻末に収録されているので、あまり愛蔵版らしい体裁ではない。しかし、全二巻の作品を一冊に纏めたので、読み応えは増している。旧版の後書きにも記されていた連載終了についての読者の疑念は、愛蔵版の後書きを読めば、一層、深まるであろう。だが、本作は全一巻で完結したと考えても全く差し支えない。続編の可能性についても後書きで言及されてはいるが、実現しても、それが昭和何年の話となるのかは現時点では誰にも分からず、六十三回目の夏の日々を過ごせただけで十分であろう。
 駒草出版での刊行時期は他の単行本より遅いものの、粟岳作品のエッセンスを一冊に纏めた入門書的な側面もある本作を読めば、先に出版された他の短編群を理解するのが容易くなるのは間違いない。
 本作は各話で主人公が異なる断片的な短編の寄せ集めによる連作集ではなく、同一の主人公による直線的な時系列で構成された全十五話の長編である。

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