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  3. 月乃春水さんのレビュー一覧

月乃春水さんのレビュー一覧

投稿者:月乃春水

234 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本がまんのケーキ

2009/10/28 11:37

がまんってなに?3人(!?)の友情を通してわかる、そこはかとないユーモアただよう絵本

19人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

がまんのケーキ?ちょっと不思議なタイトルです。
表紙のケーキに覆いかぶさっている生き物(!?)は…なに?
すぐには判別できませんでした。こちら、こいのこいたろうさんとかめのかめぞうさんです。(5歳の三男は、こいたろうさんのことを「もぐら」と信じて疑っていないようですが…)

大きな2段のデコレーションケーキを前にしたこいたろうさん(ここではまだお名前はわかりません)、「ねえ もう いいんじゃんいかな~~ かめぞうさん」
タラタラとよだれが出ています。

「ならぬぞ、こいたろう。いま けろこさんは かいものに いっておる。かえってくるまで がまんじゃ」
(けろこさんってだれでしょう?)

立派な眉とひげをたくわえたかめのかめぞうさん、ぴしゃりとたしなめます。

がまんできないこいたろうさんと、かめぞうさんのやりとり。漫才みたいで笑えます。

こいたろうさん、ちょっと作戦を変えます。かめぞうさんに「共感」を求めるのです。
いちご、クリーム、スポンジ。それぞれのたとえがおみごと!なかなかやりますなぁ。
まんまとかめぞうさんを「うまそうじゃのう。ちょっと たべようかのう」と言わしめるのです。

台所にナイフとフォークを取りに行ったふたりが目にしたのは…冷蔵庫に貼り付けられた手紙。けろこさんがかめぞうさん、こいたろうさんにあてたものです。
(ここで、中表紙の机に向かっている後姿がけろこさんなのだとわかります。)

これを目にしたふたり。見開きのページに、ことばはありません。絶妙な間です。

「ああ ぼくは なにしてたんだろう」「わしもじゃ」と我に返ります。

そこへ帰ってきたけろこさん。(あら、こんなに色っぽいかえるさんなのね~…)

カバーの見返しのイラストにも注目です。
前にはかめたろうさんの横顔(ちゃんとした?かめに見えます)。「がまんじゃ!」後ろには、こいたろいさんの横顔。「がまんってなに?」

「がまん」ってどういうことか。どうしてがまんするのか。
かめぞうさん、こいたろうさん、けろこさんの友情を通してわかります。

全体を通して、そこはかとないユーモアが感じられる絵本です。


ところで、作者のかがくいひろしさんが9月28日に54歳でお亡くなりになっていたことを、きょうの毎日新聞「悼む」で知りました。

『だるまさんシリーズ』「が・の・と」(3冊化粧ケース入)で知ってとりこになり、大好きなおもちが主人公の『おもちのきもち』で笑い、ゴールデンウィークには、発売になったばかりの『おしくらまんじゅう』を買い求め、三男や二男(小2)とたのしんでいたので、あまりに驚いてしまいました。

50歳で絵本作家デビューされたということは、インタビューを拝見して存じておりましたが、今年3月に千葉県の特別支援学校を退職され、絵本作りに専念し始めたそうです。

「その半年後、猛烈な吐き気と痛みに襲われ、救急車で運ばれた。末期がんと告げられてからわずか2日後の死。仕事場にしていたリビングのカレンダーには、来年春までのスケジュールが書き込まれている。」(毎日新聞2009年10月28日「悼む」より)

以前から絵本を拝見していたのに、書評というかたちで、生前に感謝をお伝えできなかったのがとても悔やまれます。ご本人がご覧になる、ならないに関わらず…

かがくいひろしさん独特のユーモア、あたたかい人情(登場人物は人ではないのですが。)を、絵本を通して、これからも親子で感じ、存分に味わっていきたいと思っています。


個人ブログ□□本のこと あれこれ□□

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紙の本

豪華!充実!読書人必携の『NHK週刊ブックレビュー』20周年記念ブックガイド

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

NHKで放送中の『週刊ブックレビュー』20周年を記念して、初の「番組発」のブックガイドです。
1991年~2011年、20年間の放送の特集バックナンバー全リスト掲載はもちろんのこと、20年間それぞれの「この年の読書界」「年間ベスト10」「文芸以外の話題作」「主な受賞作」が掲載されています。
特集としてゲスト出演した人については、年1人をピックアップ。再録が掲載されています。拡大版もあります。

2011年に関しては「特別増刊号」として、寄稿と再録で充実の内容になっています。
【本読みプロの2011年この3冊】【ことしいちばん旬な本!】【こだわり読書人たちのおすすめの3冊】【司会者5人が選ぶ!ことしの注目本ランキング】【全国の本屋さんに聞く!番組から話題になった本】など。

データベースとしてだけではなく、太田光スペシャルインタビュー、司会者座談会(藤沢周×中江有里×室井滋)、永江朗ブックレポート「本と本をめぐっての20年」などもあり、読み物としてもたのしめます。

本の広告も多数掲載されています。
何か読みたいけれど、何がいいかな?というとき、過去に話題になった本を探したいときなど、この本をめくればすぐにみつかりそうです。

わたしは自他ともに認める(!?)本好きですが、この中に紹介されている本は、読んだもののほうが圧倒的に少ない!
なんだかあれもこれも読みたくなって、うずうずしてきました。

巻末にあるカラーページ「追悼"ミスター・ブックレビュー"児玉清 番組と歩んだ18年間」も充実しています。作家から児玉さんへの手紙「拝啓 児玉清様」は、しんみりと、同時にあたたかい気持になりつつ拝読しました。

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紙の本

紙の本マイマイとナイナイ

2011/11/16 04:35

画期的で極上の絵本シリーズに拍手!マイマイとナイナイ姉弟の行く末は…

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「怪談えほん」シリーズの一冊。宇野亜喜良さんの、幻想的で時代も国籍も超越しているような絵と皆川博子さんの不思議なストーリーが完璧なほどにマッチし、極上の絵本になっています。
文字は少なく、その分、絵が雄弁。一体全体これは…?と想像力がかきたてられます。

マイマイという名の女の子と、かあさんにもとうさんにも見えない弟、ナイナイの物語。はじまりは
「おとうとを みつけた。 ちいさい ちいさい おとうとを みつけた。」

唐突です。不思議です。理屈で考えたらいけません。先を読み進めましょう。

弟をくるみのからに入れたマイマイは、大きな森へ花つみに。
そこから先に登場するのは
白い馬、壊れた目、部屋、夜の夢。

マイマイとナイナイは…?

最後は、めでたし、めでたし、ではありません。
マイマイをたすけて。それは読者に託されているのです。


ああしたら、こうなる。こうだから、ああなる。
世の中、世界で起こる出来事や現象はそんなふうに簡単に割り切ったり決めつけたりできるものではありません。

絵本を通して、摩訶不思議で一件落着で終わらない、わけのわからないおはなし─いわゆる怪談に触れるのは、子どもにもおとなにも、とても貴重な経験です。
絵本を読んでいる時間、そして読んだ後にゾクッとした感覚を含めて余韻にひたるのは、豊かで贅沢なひとときになるように思います。

岩崎書店と東雅夫さんが企画・監修し、豪華な作家と画家が全力で生み出してくれたこの「怪談えほん」シリーズ。
画期的な絵本の誕生に感謝し拍手を送るとともに、続刊もたのしみにしています。

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紙の本

古代ローマと現代日本。大真面目で職人気質の風呂設計技師ルシウスがタイムスリップ…!必読の「マンガ大賞」受賞作品。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この表紙!目に飛び込んで来ますよねぇ…。わたしも書店でバーン!とご対面。こ、こ、これは読まねば…という衝動に駆られて購入しました。

ギリシャ彫刻かと見紛う表紙のこの方(手に持つは風呂桶に赤い手拭い、それともアカすり!?)、建国から約八百年、紀元128年のローマに住むルシウス・モデストゥス、職業は設計技師(風呂限定!)。
公衆浴場の建設案は古い、今のローマが求めているのは斬新さだ、と切り捨てられてしまいます。
屈辱に震え、悩むルシウス。これがまた、彫刻そのものような、彫りの深い顔で苦悶するものだから、読者も悶絶してしまいます。

明るく気さくな友人マルクスとひとっ風呂浴びに行き、風呂に潜り込んだルシウスは、排水溝に吸い込まれ、息も絶え絶えにぷふァッ!と水面から出てみれば、そこは現代の日本の銭湯であった…。

驚愕するルシウス。それも当然…!そして妙に人懐っこくやさしく親切な「平たい顔族」日本人。

壁に描かれた富士山(ルシウスはポンペイのヴェスビオス山と勘違いするのですが)、黄色いプラスチック製の洗面器、壁に張られた広告ポスター(ルシウスが言うには「催し物の告知」)、着替えを入れるカゴ…ひとつひとつを驚きの目で見てはチェック。
さらには「さァさァ遠慮しなさんな!」と差し出されたフルーツ牛乳の美味さに「この世の物なのか!?」とまたもや驚愕して、夢心地。
そして気づけばローマに戻っている…

大真面目なルシウス。クソ真面目と言うべきか、とても仕事熱心な職人なのです。見て経験したものをさっそく新しい浴場に取り入れて、大繁盛。

…というのが第1話。

話ごとに挿入されている作者のヤマザキマリさんの解説エッセイがとてもいい。
古代ローマの排水溝、下水道、作中に登場する金属製のストリジルというアカスリなどの写真もあります。背景や当時の様子がわかることで、この漫画の味わいも深みも増す、というもの。感謝したくなります。

第2話以降、ルシウスの設計した、まさに「斬新な」浴場の評判を聞きつけての依頼、そこでルシウスがまたもやハプニングでタイムスリップ…というパターンなのですが、バリエーションに富んでいます。そこが笑いつつも唸ってしまうところ。

これは「ギャグマンガ」に分類されているようですが、読者を笑わそう、という意図のものではなく、主人公のルシウスの真面目な探究心が、日本に暮らしているわたしたち日本人読者には結果的に笑えてしまう、という、じつはとても深い仕組み(!?)になっています。

これ、外国語に翻訳して外人が見たらどうなんでしょうね?まずはやはりイタリアで?それとも作者が暮らすポルトガルで?なにはともあれ、まずは英語?
読んだ人の反応をぜひ知りたいです。

『マンガ大賞』2010年受賞作品。当然でしょう!おめでとうございます。


本についてのよもやま話。□□本のこと あれこれ□□

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紙の本

心地いい母乳育児は赤ちゃんとの対話から。自然な子育ての秘訣、母乳育児に迷ったときにぜひ読みたい。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

赤ちゃんとおかあさんにとって「心地のよい」母乳育児へ行き着くための道案内をしてくれる本です。
わたしは長男が3か月のときにこの本に出合いました。
読んでみて目から鱗が落ちたどころではなく、生き方までをも根底から変えた、運命の本です。
出産前、「出るようなら母乳をあげたいけれど、生まれてみないとわからない」くらいの認識しかなかったわたしは周りの人の言うことに右往左往。
「ほら泣いてるよ」「ほんとに出てるの?」「足りてないんじゃない?」
粉ミルクを足しながら、だけどほんとに出てないのかしら、飲んでるのは確かなんだけど…と疑問が膨らんできたときに読んだのです。
赤ちゃんと同じように、母乳育児にも個性がある。
様々なおかあさんの例が紹介されています。
飲みやすいおっぱいもあれば、飲みにくいおっぱいもある。それってホント?そんなの産院では聞かなかったけれど…
母乳の色や味の違い、赤ちゃんのしぐさでわかる母乳の状態にはびっくり。おかあさんの食べた物やからだの状態がおっぱいに出るのです。
主食(穀物・粒食)を大切にし、副食よりも多く食べ、主食で腹八分目のときおっぱいもおいしくなる。それは赤ちゃんの様子でわかります。
赤ちゃんがからだをよじるとき、いきむとき、うなるとき。そのしぐさの意味とどう対処すればいいのか。
赤ちゃんの授乳間隔・リズム、粉ミルクと併用する場合、次の妊娠を考えるときなど、母乳育児のはじまりから、卒業まで、とてもわかりやすく書かれています。
さらに周囲の人とのコミュニケーションの仕方について。
母乳育児に関する価値観は世代の差、職業上の立場によりまちまちなので、善意で言われたことがおかあさんを傷つけたり、重圧になったり、不安な気持ちにさせたりする。
その人たちとの受け答えはどうすればいい?これはかなり参考になります。
赤ちゃんの皮膚の荒れ、湿疹や便秘、目ヤニ、なみだ目、鼻水、咳、イライラなどの対処法、手当て法もあります。
医療に頼りすぎることなく、家庭でおかあさんが出来ることもたくさんあることがわかります。
この本のサブタイトルは『マニュアルより赤ちゃんとの「対話」を』
赤ちゃんがおっぱいを飲んでいる様子や飲んだあとの変化をよく見て、つまり赤ちゃんと対話することで、どうすればいいかがわかってくるのです。
おかあさんのおっぱいの状態と、子どもの様子。それぞれ違っているから、親子の数だけ母乳育児のやり方があるはず。
ところがマニュアルや「権威ある立場の人」(産院の看護婦さんや保健センターの保健士さん、さらに実母をはじめ育児経験のある年上の人も含まれると思います)の言ったことを信じて右往左往してしまう…
『本当は「権威ある立場の人」はおっぱいを飲む赤ちゃんなのです。』
このことばを読んで、はっとしました。
『自分の中で腑におちない、「ちょっとおかしい」というもやもや感を整理することも大切』
そうなのか。それでいいのか。
これまで自分は「誰かがやってくれるだろう」「誰かが教えてくれるだろう」という受身の姿勢で、自分自身の目でものを見て考えるということをしてこなかったのかもしれない…
その気づきが、わたしの子育ての姿勢、生きていく姿勢を大きく変えることになりました。
妊娠中の母親学級や育児雑誌では得られない、おばあちゃんの知恵的な情報が詰まっています。
わたしたち今の母親世代は、マニュアルに頼り「こうでなければ」と思いがちですが、母乳育児は赤ちゃんとの対話。もっと自由でいい。
心身の本当の健康についても、考えさせられる。
とても大切で、素晴らしいことを教えてくれる一冊です。

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紙の本

紙の本教科書に載った小説

2008/06/13 05:06

「面+白い」とはこういうことか。佐藤雅彦氏が編んだ12篇の小説。一篇、一篇を堪能。たのしめること、請け合い。

10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あの佐藤雅彦氏が編んだ本。
これは、なにかあるにちがいない…とことばにするまでもなく
もうこれは読まねば、と反射的に手にとりました。

高校や中学の国語の教科書に載った小説が12篇。

収録作品一覧

わたしはこれまでに、どの小説にも出会っていません。

『まずは読み始めていただきたいと思う。』と「はじめに」にあったので、その通りに。
2日にわたり、じっくりと堪能しました。

どの作品も、「はっ」と、息を呑む瞬間が、必ずあります。

『「面+白い」とは、こういうことか。』

これは帯に書かれたことばですが、12篇、それぞれちがった面白さ。

『「「面+白い」というのは、新しい事象や関係性を発見することによって、目の前がぱっと明るく開ける状態を語源としている。悲しい物語なのに希望が感じられたり、救いようのない現実が我々の身近に存在することに気づいたり、そんな新しい面白さがこの本の小説を読み進むに従って姿を現してくる。』(「はじめに」より)


わたしにとって、「面白い」とは、「はっ」と息を呑む瞬間があること。
そんなことにも気づかされました。

「面白い」小説にはいままでも出会ってきていると思うのですが、
これまでの感覚とはなにかがちがう。
「面白い」といっても、かなり奥深いということなのか…?


なぜ、佐藤氏が、このような「教科書に載った小説」という特殊な編み方をしたのか。
「あとがき」に書かれているのですが、小学生時代のある出来事に起因しています。
そのときの状況が目に浮かぶようで…いい話聞いたな、そんな気持ちになりました。

有名で、多くの人に読まれた、というわけではない作品。
教科書に載ったこれらの小説群の立ち位置について、佐藤氏が感じ、
言語化するのは難しい、といいつつ書かれていることにも「はっ」としました。


小説の一篇、一篇、さらにこの本が編まれた背景も含めて、たのしめること、請け合いです。

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紙の本

食べるよろこびが満ち満ちている…地に足のついた暮らしと食のマンガ。生きる力が湧いてきます!

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

リトル・フォレスト——東北地方のとある村の中の小さな集落“小森”での「暮らし」と「食」が主役のマンガ。わたしが最高に気に入っている作品です。
小森から街に出たものの帰ってきたいち子。ひとりで、もと住んでいた家に暮らします。
いち子があれこれ試行錯誤しながら作るのは、グミのジャム、ウスターソース、ぬてら、ひっつみ、なっとうもち、あまざけ、ばっけみそ、つくしの佃煮、キャベツケーキ、ストーブパン、ミズとろろ、くるみごはん、栗の渋皮煮、えび餅、しょうが餅…
レシピ本を見ながらではなく、自分で工夫したり、ご近所さんが作るのを見たり、聞いたり、子どもの頃、母が作っていた姿や言っていたこと(「料理は心をうつす鏡よ 集中しなさい」)を思い出したり。
手間ひまかけて、汗かいて作ったスローフードはほんとうに美味しそう。
「いただきまーす」のあと、最初のひと口。
どうだろう…読みながら一緒に味わう気分。真似してやってみたくなります。
ふたたび小森に戻って、地に足のついた暮らしと食の中で、いち子は自問自答していきます。これまでの母との生活、小森に帰ってきた理由…
いち子は「なんでも自分でやってみないと気がすまない、コトバはあてにならないけど わたしの体が感じたことなら信じられる」、
いち子の後輩で街で就職した後、戻ってきたユウ太は「自分自身の体で実際にやった事とその中で自分が感じた事、考えた事、自分の責任で話せる事はそれだけ、そういう事をたくさん持っている人を尊敬し、信用もする」と言います。
ふたりのつぶやきの中に小森での暮らしの豊かさ、魅力の秘密が隠されているような気がします。
緻密な美しい線で描かれた絵には魅了されてしまいます。
本編の合間には「小森の住人たち」(昆虫、鳥、動物や植物)のイラスト、実際に作ってみた食べ物のイラストや写真、エッセイ、風景も載っていて、ふくらみのある充実した内容になっています。
生きていく力が湧いてくるようなこのマンガ、見つけて読んで小躍りしたくなってしまいました。それほどに素晴らしい一冊!
食べることって、こんなによろこびあふれるものだったんだということが、最初はじんわりと、読むにつれじんじんと伝わってきます。

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紙の本

極上コメディ!「バカ枠」採用のテレビ報道記者、雪丸花子のはちゃめちゃな活躍ぶりに大笑い

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

抱腹絶倒、そして仕事に役立つ!(かもしれない)マンガです。何度も吹き出しながら一気読みしました。

札幌のローカルテレビ局、HHTV北海道☆(ホシ)テレビに「女子枠」ではなく「バカ枠」で採用された雪丸花子、22歳。採用会議で『「バカ枠」にしたってあれはないだろう!』『いやいやあれこそ「バカ枠」の真骨頂でしょう』などと議論が交わされたことなどつゆ知らず、本人は「一般職」で採用されたとばかり思っています。

報道局に記者として配属になった初日にアクシデントで、川が増水している現場から中継することに…

「しっかりしろ!
ギリギリの場面で腹が据わっているかどうか─
それが明暗を分けるんだ!」

とは、デスクが雪丸にケータイで話したことば。
かくして、デビューがめでたく「猿報道」となるのです。…なんじゃそりゃ!?と思われましたら、ぜひご一読を!

おなじく報道部に配属された、同期のソツのない優秀な山根一とのからみもおもしろいっ。おもしろいどころか、重要なカギとなっているのです。
「来るな!おまえの「変」が伝染するんだ!俺の近くに来るな─!!」(山根一、心の叫び)

「あいつ、なにかひっかかるだろ?バカだけど」
とは、いつもなにかを食べている情報部小倉部長。彼の「バカ枠」定義には、ビジネスのみならず人生におけるちょっとしたヒントが隠されている…(かもしれない)!

わたしは「動物のお医者さん」も「おたんこナース」も「Heaven?」も未読なのですが、佐々木倫子さんの次から次へと繰り出される絶妙な技にシビれました。まさに「極上コメディ」です!

テレビ報道内部事情も含めて、今後の展開(=雪丸のはちゃめちゃぶり)に大いに期待します。


□□本のこと あれこれ□□

   

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紙の本

紙の本精霊の守り人 愛蔵版

2008/10/01 06:22

至極の愛蔵版。価格以上の価値あり。『守り人』シリーズの世界をより広く、深く味わいたい人にぜひ。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

21cm×15cm、厚さ4cm。まるで辞書のようなボリュームのある本です。税込で2800円。既刊のコミックス3冊分 の倍以上になりますが、それだけの、いや、それ以上の価値があります。まさに「買い!」「買ってよかった!」という一冊。

上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』を読み終わり、作品がアニメ化されているのを知りましたが、見るのを躊躇しました。挿絵の二木真希子さんの描く、主人公のバルサやチャグムなどの登場人物と、さらに自分の中でふくらんでいるイメージがあり、その余韻が残っていたからです。

藤原カムイ氏がマンガ化していると知った時も、やはり「見てみたいけれど、どうだろう?」という気持ちがあり、気になりつつもしばらくそのままにしていました。

その間、「軽装版」で守り人シリーズを読み進めていくうちに、この世界にどっぷり浸ってしまい、別の目から見て描かれたもの見てみたい、という欲が出てきました。

それに追い打ちをかけたのは、みなとかずあきさんの書評『CGを使いながら、「水」は「水」なんだ』です。
藤原氏のマンガを見たことがないわたしにとって、みなとかずあきさんが論じている「描き方」について知ったことは新鮮でしたし、とりわけ『精霊の守り人』でキーポイントとなる「水」の描き方を藤原氏は得意としているとのこと。これは見てみたい!


最近いろんなマンガ作品が「愛蔵版」として発刊されていますが、雑誌掲載時のカラーが再現されているだけではなく、『精霊の守り人』愛蔵版だけの究極の表現がされている部分があります。

物語で描かれているふたつの世界。目に見えるこの世、「サグ」に対して、普段は目に見えないもうひとつの別の世界「ナユグ」がある。ナユグはいわゆる「あの世」ではなく、サグとナユグは同時に同じ所に在る。
これが重なり合う景色が、トレーシングペーパーを使って表現されているのです。場面はそれほど多くありませんが、物語のキモとなる部分であるのはまちがいないところ。

「あとがきと設定資料」には、藤原氏が『精霊の守り人』の仕事を引き受けるにあたって出した条件が、この本(表現方法)になったという舞台裏も書かれています。
人物の描き方にしても、原作の挿絵に近いものもあれば、遠いものもあるけれど、なるべくアニメよりは挿絵のイメージに寄るよう、心掛けたとのこと。

『文字から喚起されるイメージは十人十色!! 正解などありゃしません。』

まさにそのとおり。
正解などなく、いろんな答え(表現)があることを自分の目で見てみるのもいいのではないかと思います。

ところで、アニメについては、わたしはまだ見る決心がついていません。
というのも、いま、『天と地の守り人第一部』を読み始めたばかり。シリーズすべてを読了して、堪能したあとからでもいいかな、と思っています。

この軽装版の解説で、井辻朱美さんが「アニメ」と、「それまで抱いていた上橋菜穂子の世界」のイメージの違いについて、書かれていたのを非常に興味深く読みました。
それは、キャラクターや服装、調度の設定のことではなく、「空間の感触が違って感じられた」とのこと。
さらに物語を描写する「視点の動線」の考察は「ナユグ」と「ザグ」のふたつの世界までにつながっていき、『守り人』シリーズに対して、わたし自身が感じている魅力がいみじくも表現されていて、これだ、とおもわず膝を打ちました。


余談になりますが、アメリカで発行された『精霊の守り人』の翻訳本『MORIBITO』を見たところ、挿絵にはびっくり仰天。オリジナルの挿絵、アニメ版、このマンガ版とはまったく別の次元で描かれています。
まさに、藤原氏の言うところの『正解などありゃしません。』(なのかもしれない…)
興味を持たれた方は、ぜひ見てみてください。


なにはともあれ、マンガ版を読んでみるなら、この『トレーシングペーパーを駆使し、書籍表現の限界挑む━…。』『至極の愛蔵版』(帯文より)をおすすめします。

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紙の本

紙の本アンナの赤いオーバー

2010/12/15 15:00

手間のかかる大切な、母から娘への贈り物。アンナの赤いオーバーができるまでの豊かな時間。終戦直後の実話絵本

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

毎年12月に小学3年生に読み聞かせしている絵本です。クリスマス前にぴったり。
「戦争が終わったばかりの頃のお話です。いまとは、ちょっとちがうので、見てみてください」とはじめに言ってみました。

「戦争が終わったら、あたらしいオーバーを買ってあげようね」と、アンナに言ったお母さん。けれど、戦争が終わっても、お店はからっぽ。オーバーはもちろん、食べ物だって、お金を持っている人もいない。
そこでお母さんは考えます。おじいさんの金時計とか、すてきな物で、オーバーの材料が手に入るのではないかと。

おひゃくしょうさんのところで、羊毛をたのむのですが、春になって、羊の毛を刈るまで待たねばなりません。
アンナは冬の間、羊たちと仲良くなります。春になって、羊の毛を刈るときには、おひゃくしょうさんのそばにいて質問したり、手伝ったり。

次に行ったのは、糸つむぎのおばあさんのところ。夏には、お母さんとコケモモをつんで、糸を染め、毛糸だまにします。そうしてはたやさんのところに行き、布地にしてもらう。

次は仕立やさん。出来上がった頃には、もうすぐクリスマス。
今年はちょっとしたお祝いができる、というお母さん。とっても素敵なクリスマスになるんです。呼んだ人たちは、いったい誰でしょう…?

羊たちに会いに行ったアンナの様子が描かれています。最後のことばに、前列で見ていた男の子がにこっとほほえみました。

二男は今年、別の担当者(現在小学3年生の息子がいる母)から読んでもらいました。
「どうだった?」と聞くと「みんなをクリスマスに呼ぶんだよね。」と印象的だったシーンを教えてくれました。

ものができあがるまでには、いろんな人の手を経て、時間がかかる。現代では、そんなことあまり気づくことなく、なにげなく、手にしています。
アンナの場合は、ちがいます。

お話を通じて、ものできあがるまでにかかる時間や手間、人と人とのつながりを感じられたら、いいですよね。人の手を借りること、仕事について、プレゼントの本質って?など、いろんなことをあらためて考えさせられます。
そして、アンナのまわりにも街にも若い働き盛りの男の人…アンナのお父さんを含めて、まったく見当たらない。そのことにも注目したいと思います。

ちなみに、これは実話なのだそうです。献辞には、このように書かれています。

 事実に基づいた本はその生きた材料を提供した
 人びとに捧げられるが最もふさわしい

 何か月も新しいオーバーができるのを待ちつづけ
 そして、そのオーバーを約25年後に私に見せてくれた
 インゲボルグ・シュラフト・ホフマン博士と
 今は亡き彼女の母親―最初は自分の決意と
 ねばり強さ以外は何もなかったにもかかわらず
 結局はすばらしい贈り物を形にした―
 ハンナ・シュラフトにこの本を捧げる 

       ハリエット・ジィーフェルスト


<ブログ> 産後の読書案内

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紙の本

アルコール依存症という「病気」について、家族・当事者の立場から語る。切実な思いと願いが伝わってくる必読の書。

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アルコール依存症という「病気」について、元夫がアルコール依存症だった漫画家・西原理恵子と青年期に若年性アルコール依存症になった月乃光司の二氏が、家族と当事者という立場から語りあう、タイトル通り「まじめな」そして誰にとっても「必読な」話です。

アルコール依存症は、自分の意志では飲酒をコントロールできなくなる病気。
本人はやめたい、飲みたくないと思っているのに、やめられなくなるところが怖い。多くの人にとっては単なるお酒が、覚せい剤ぐらい強い依存を引き起こしてしまう。
自堕落なお酒の飲み方を見て怠け者だ、意志が弱い、性格に表裏がある、と攻撃するのでばなく、専門の病院に連れて行かなくてはだめ。

アルコール依存症は当時者だけではなく、家族や周囲の関係者を混乱と不安に巻き込み、翻弄させてしまう。
病気について、正しく知り、どうしたらいいのか。強力な道しるべとなっている本です。

巻頭には西原理恵子さんのカラー漫画、「まえがき」にかえて、続いて第1章「酔っぱらいの家族として」。
元夫でフリージャーリストの鴨志田穣さんは腎臓がんで四十二歳の若さで亡くなりましたが、何年もの間、お酒を飲み続けて命を縮めてしまった。結婚六年目にして西原さんが離婚を決意すると、事態は変わり、家族が大好きな鴨ちゃんは家族を失って初めて本当にお酒をやめたいと言い出した。そして専門の病院で治療し、何年もかかってお酒から戻ってくる。壮絶な体験談、家族としてどうすればいいのか。そして現在の願い。

第2章は若年性アルコール依存症を患い、数度の精神病棟入院や自助グループへの参加などを経て、現在は文筆・タレント業で活動するまでに回復した月乃光司さんの「わたしのアルコール依存症カルテ 現在・過去・未来」。
お酒を飲みはじめたきっかけ、抗うつ剤と酒の併用で病状が進み、コントロール不能になり、アルコール病棟に入院する様子が順を追って書かれています。
なぜこんな病気になってしまったのか。この病気との上手なつきあい方は?
ページ左側には体験談とは別に、説明文が掲載されています。

 アルコール中毒とアルコール依存症
 アルコール依存症は否認の病気
 若年層と女性に増えているアルコール依存症
 アルコール依存症はどのように進行していくのか
 アルコールの離脱症状
 アルコール依存症の特異な言動
 日本のアルコール依存症者は80万人
 イネーブラーとアルコール依存症の関係
 家族のためのカウンセリング

第3章は「アルコール依存症という病気」について、二氏の対談。
あのとき、どうすればよかったのか。どんな助けが必要だったのかを振り返っています。

1章と2章のあいだには、コラムもあります。
 お酒の適量を知っておこう
 飲んだ量だけ酔っぱらう
 アルコール依存症の自己判定法─新KAST

巻末付録は治療相談先のお役立ちリスト。公的機関の相談窓口、アルコール依存症の専門医療機関、自助グループ・その他のサポート団体が掲載されています。

誰もがかかりうるアルコール依存症という病気について、ちがう立場、側面から体験したふたりの思い、そしてエイズやうつ病のように病気の理解が広まることで、家族の中に憎しみが生まれないようにしてほしいという願いがびしびしと、せつせつと伝わってきます。

家族としてのありかた、女性が仕事をすることについては、特に感じるところがありました。依存症者が身近にいる、いないに関わらず、スタンスは共通しているように思います。

InBook.jpで、印象に残ったところを引用しています。


本についてのよもやま話。 <ブログ> 本のことあれこれ

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紙の本

紙の本おやすみ、かけす

2010/04/06 05:28

なんていうことのないストーリー、なのにものすごく魅了される秘密は…ブックデザインも秀逸な、素晴らしい絵本。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

マリー・ホール・エッツが79歳のとき、1974年に発行されたこの絵本。日本では2008年に刊行されています。
東京ブックサポートが主宰する第3回「書店員が選ぶ絵本大賞」第3位に選ばれたそうです。

なんていうことのないストーリーなのですが、なぜかものすごくこころに残る。なぜこんなに魅了されてしまうのだろう…としばらく考えてしまうほどに素敵なのです。

登場するのは、かけす、ぴょんぴょんがえる、やぎ、のらねこ、男の子、ならの葉、牝牛、おかあさんとあかちゃん、おんどり、犬。

生きものたちが鳴く姿。男の子が歩く姿。
たったひとつの場面の描写なのですが、これがものすごくうまい。巧み、というとちょっとちがう気がします。
動きがある。たしかに、音が聞こえる。

一場面、一場面、切り取られている生きものたちが、たしかに息づいている。動いている。時を刻んでいる。
それが、しっかりと伝わってきます。

最後には、男の子が生きものに語りかけて、おやすみ…となります。

この世界で息づいているものたち。たしかに存在している。時が経ち、一日が終わる。
そんなひとめぐりを、ページをめくるだけで感じさせてしまう。
なんともみごと。

濃いブルーの絵、文字も同じ色。ブックデザインも秀逸です。


わたしは十年前に長男が生まれて以来、絵本の魅力にとりつかれてしまったのですが、マリー・ホール・エッツは特に好きな作家となました。
そのときには発売されていなかったこの絵本。今回、知ることができて、ほんとうによかった。

おやすみまえのひととき、子どもと。
一日を終えるときに、ふーっと深呼吸しながら。
ページをめくると、穏やかなぬくもりを感じることができそうです。
それは、きっとあかちゃんや動物を抱いたときにかんじる、いのちのぬくもりとよく似ているのではないかと思います。


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紙の本

紙の本クリスマスのおくりもの

2009/12/19 14:22

おじいさんサンタが苦心の末、ハービー・スラムヘンバーガーにプレゼントを届けます。人としての姿勢について考えさせられる、おすすめのクリスマス絵本。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

わが家のクリスマス定番絵本です。
おじいさんサンタがいろいろな人の力を借りて、苦心してプレゼントを届ける、というおはなし。
届け先は、ロリー・ポリー山のてっぺんのちいさな家に住む、ハービー・スラムヘンバーガーという男の子。

人と人とのつながり、ひとりひとりの役目、なんてことを考えさせられる、素敵な絵本です。

クリスマスイブの夜にクリスマスのおくりものを届けてきたおじいさんサンタ。
トナカイたちもとてもくたびれています。
やっと休もうと思ったら、大変!
ハービー・スラムヘンバーガーへのおくりものが残っていたんです!

おじいさんサンタはハービー・スラムヘンバーガーの住むロリー・ポリー山のてっぺんに向かって歩き出します。
かなり大変な道中、おじいさんサンタは様々な人の助けを借ります。このセリフを繰り返しながら。

「もうしわけないが、てつだってもらえまいか。」
 
「わたしのなまえは サンタクロース。クリスマスのおくりものが ひとつだけまだ わたしのふくろのなかに のこっているのだよ。
ハービー・スラムヘンバーガーへのおくりものなんだが ハービーのいえはずっと ずっと とおくはなれた ロリー・ポリー山のてっぺんにあるのでいそがないと まにあわないのだよ。あさになれば もう クリスマスになってしまうのでね。」

何人もの人に出会うので、おじいさんサンタのおきまりのお願いは、ことば遊びに変身してしまいそう。
詩人の長田弘さんならではの名訳、名調子が活きています。

出会い、手伝ってくれる人たちが素晴らしい。
「いけるところまで ごいっしょしましょう」 
しかし、ハプニングが起こり…。だけど次の人にちゃんと引継いでいくんです。

ジョン・バーニンガムの作品には、こうしたお手本となる行動をする人が出てきます。
決して「道徳的」な絵本ではないのですが、おもわず感心してしまう。
そして考えさせられます。人としての姿勢について。
わたしの大好きな絵本、『ガンピーさんのふなあそび』でも強く感じたことです。

クリスマス前になると、あちらこちらでたくさんのクリスマス絵本が目に入ります。
どれを選んだらいいか、迷ってしまうこともあるかと思います。

この絵本は、自信を持っておすすめしたい一冊です。


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紙の本

紙の本げんきでいるからね

2009/11/04 13:28

大切な、身近な人がいなくなったら… 犬のポケの受け止め方は?

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

山の中の道端に捨てられていた犬のポケの視点で語られる絵本です。
おもわず涙が出てしまいました。

ポケが拾われてきたときには、ルポちゃんという犬はすでにうちに住んでいました。

「チビすけ、ここは、わしがボスだからな」

「ハイイ、わかりましたー。よろしくおねがいしまあす」

ポケは家を作ってもらい、ルポちゃんのとなりに住むことになります。
ポケとルポちゃんの毎日。

「ぼくは すこし おおきくなった。
ルポちゃんは すこし おじいちゃんになった。」

それからしばらくしたある日。ルポちゃんがいなくなります。
ポケには、理由がわかりません。

「どこ いっちゃったの ルポちゃん。
 かえって おいでよ、ルポちゃん。」

ポケのとまどいとさびしさ、ルポちゃんがいなくなってしまった世界が絵本の空間に、とてもよく表現されています。

そこへ鳥がやってきて・・・。

ポケは強く、たくましくなります。


どこにも「死」という文字はありません。ルポちゃんがいなくなった事実が描かれています。

身近にいた、大切な誰かがいなくなってしまったら、どうするのだろう。どう受け止めるだろう。

この絵本を読んで、犬のポケの様子を見て、子どもたちはどう感じるのでしょうか。

作者の鈴木まもるさんは、鳥の巣研究家でもあるそうですが、
まさに、鳥の巣がとても効果的な小道具(?)として使われているのも印象的です。


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紙の本

紙の本予定日はジミー・ペイジ

2009/01/24 17:57

プロの手による、リアルなマタニティ「小説」。実用書よりお役に立つかも…

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

マタニティ「小説」です。エッセイではありません。
新聞広告でこの本の発売を知ったとき、てっきり角田光代さんがご懐妊、もしくはすでに出産されたものと思ってしまいました。が、ちがいます。書き下ろしの小説なのです。

もともとこの本の終わりの部分だけが短い小説として、四年ほど前に朝日新聞に掲載されたのだそうです。すると、きれいなカードや花がぞくぞくと届き…つまりわたし同様、てっきり角田さんが出産されたものと思いこんだ、久しく会っていない編集者がいたのだとか。
かくして(詳細はあとがきに書かれています)終わりの部分だけがあったものに、そこに至る経緯を遡って書かれた小説というのが、この本となっているわけです。

日記形式で書かれています。
『4月×日 性交した。』からはじまり『1月9日 いちばん生まれてほしくない日に兆候がきた。』まで。出産する直前に終わる、まさにマタニティ日記です。


天才ロックギタリストの誕生日に母親になる予定の「私」こと、マキちゃん。
「私、ひょっとしたら子どもができたの、うれしくないかもしれない」
とまどいながら、妊娠・出産に関する本を買い、一冊の妊娠本に書かれていた「日記をつけましょう」という項目のとおり、ノートに日記をつけはじめます。

本によると、日記に書く項目はたとえば

○ 今日(この一週間)どんな気持ちだったか
○ かなしかったこと
○ 赤ちゃんに対して思ったこと
○ うれしかったこと
○ 今日(この一週間)食べたもの
○ 食べてはいないけれど食べたかったもの
○ 悩んでいること
○ パートナーに対して思うこと
それから、検診について、
○ 検査の結果・体重・血圧など。

それを見た夫もノートを買ってきて
「このノートは、一週間ずつ交換しよう」

以下、夫婦の会話。妻の言葉からはじまります。
「交換日記?」
「うん、まあ、そういうことだね」
「なんのために?」
「なんのっていうか、まあ、相互理解」
「じゃあ今見せて」
「だめじゃん、交換するまで見ちゃだめなんだよ、絶対に見せない」


マキちゃんは、よく夢を見て、その内容がこと細かに描かれています。
わたしも妊娠中は妙な、そして現実かと混同してしまうような夢ばかり見ていたことを思い出しました。

妊娠、出産はともすると美化して語られてしまうこともありがちです。
が、しかし、その間のからだの変化に伴う不安や悩み、夫やまわりの人との行きちがい、ところどころで感じる違和感etc.さまざまな気持のうねりがあるのです。いいことばかりじゃありません。
その部分を角田光代さんは見事にすくい上げ、なんともリアルな「小説」に仕上げています。これぞプロの技。あっぱれ!です。


以下、この小説の中で拍手モノのフレーズを挙げてみます。

近所の病院で行われる母親学級に出かけてみたマキちゃん。

● プレママってなんだ、と思い、ああ、ママ以前ってことかと理解したとたん、なんだか猛烈に腹がたった。なんだプレママって。なんだこの飾りつけ。なんたこのわくわく感。馬鹿にしてんのか。妊婦授業とか、母親学級でいいじゃないか。
 こういう突発的な、理不尽な怒りには慣れている。なんだか妊娠してから私は怒りっぽいのだ。放っておけばすうっと落ち着く。(P135)


この母親学級で出会った妊婦にお茶に誘われ、語るマキちゃん。

● 「世のなかでもっともすばらしいことなのです……なんて、すごいよねえ。私、なんか出産って美化されすぎていると思う。こういうクラスにくくれば、みんなこれからお産しようって人ばかりだから、なんていうの、もう少し原寸大というの、等身大というの、つまり美化されない出産を学べると思ったんだよね。でもプレママクラスだもんなあ」(P139)

● うるせえ、うるせえ、うるせえ、うるせえ。心のなかで何度も言いながら、よたよたと駅に向かった。知ってるよ、全部知ってる、母親が不安だったらよくないって、怒ると酸素が届かないって、産みたくないなんて思ったら赤ん坊にもろばれだって、何度も何度もどっかで読んだし聞かされた、そんなこたあ知ってんの、だけど私は機械じゃないんだもん。子どもができた瞬間にメンテナンス万端の子産みマシンじゃないんだもん。それにほかのだれでもないんだもん。(中略)赤ん坊できた瞬間に、おだやかでたおやかでゆったりした寛容な女になれるわけなんかないんだよ。なりたいけど、そんなの、仮面ライダーにしてくださいっていうくらい無理なんだもん。(P141)


昔の恋人、好きで好きでたまらなかった男、しげピーに会いに行って。
向かいに座ったしげピーをこそこそと盗み見て、だれかを本当に思うことを、本気で必要だと思うことを、私に教えたのはこの人だ、と思いつつ、はっと気づくマキちゃん。

● 私のおなかの子ども。この子どもは、きっとそういうものでできている。だれかを好きだと思うこと、必要だと思うこと、失うのがこわいと思うこと、必要だと思うこと、笑うこと、泣くこと、酔っぱらうこと、少し先を歩くてのひらにてのひらをからめたいと思うこと。神さまお願いだからこの人を守ってくださいと思うこと、この人が笑っていられますようにと思うこと。しげピーのことだけじゃない、今までわたしが、いや私だけでなく、夫もまた、幾度もくりかえしてきた、祈りみたいなそういう気分。私がこれから産み落とすのは、そういうものだ。(P177)

● 子どもを産むということは、時間を手に入れることかもしれない。
時間っていうのはいつもいつも流れているんだけど、子ども産んだとたん、それが目にみえるようになる。(P193-194)


妊婦の方々、元妊婦の方々、これから妊婦になるであろう方々にぜひ全文をお読みになっていただきたいと思います。

あとがきのことばに、深くうなづいてしまう方も多いでしょう。
『書きながら、母の、祖母の、友人の、ありとあらゆる母親たちの、それぞれの出産を思い浮かべた。言うまでもなく私たちがここにいるのは、だれかがどのようにしてか、私たちを産み落としたからである。そこにはきっと、いくつものストーリーがあり、いくつもの悩みと笑いが、いくつもの迷いと決定が、詰まっていたのだろう。』

妊娠に関する実用書よりも案外役立つのは、この小説かもしれません。

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