8823さんのレビュー一覧
投稿者:8823
2 件中 1 件~ 2 件を表示 |
紙の本女王陛下のユリシーズ号
2004/02/23 00:39
男なら、読め
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「ナヴァロンの要塞」など、超大作戦争アクション映画の原作者として有名なアリステア・マクリーンが初めて書いたベストセラー小説。
時代は1943年ごろの北大西洋。ヒトラーの攻撃を受けて苦戦するソ連への援助物資を、イギリスからアイスランドを経由する嵐と極寒の海原を抜けて運ぶ、連合軍の「援ソ輸送船団」が物語の舞台だ。もちろん敵は気象条件だけではない。海面下にはドイツのUボートが船団を待ち構え、さらには敵の爆撃機や巡洋艦も牙をむいて襲い掛かる。男たちの必死の戦いにもかかわらず、次々と沈んでいく輸送船や護衛艦。そして敵巨大戦艦ティルピッツまで出撃してくるとの情報に、事態は最悪のものに…。
この作品は単なる戦記小説とは異なる。北極圏の嵐が増幅する過酷で激烈な戦闘シーンは確かに圧巻で、凶暴とも言える迫力で読み手の心臓をつかんで引きずり回す。だが戦いの経緯とか最終的な勝敗の帰結は作品の核心ではない。物語に登場する乗組員の男たちの互いへの信頼、献身、そして自己犠牲といった精神の崇高さを、彼ら一人一人への心からの共感を込めて描き切っていることこそが、本作品を際立ったものに仕上げている。
「病を押して出撃し乗組員に感謝しながら死んでいく艦長」や、「炎上して船団を危険にさらす父親の船を、自ら魚雷を放って処分する水兵」「船を救うためハッチを外から閉めて水の中に沈んでいく機関員」。物語の男たちは皆、絶望的な運命の中で優しく美しい。
戦争という異常な状況下でまさに人間の真価が問われるとしたら、ユリシーズの乗組員たちに私はその至高のものを見たような気がするのだ。
紙の本フューチャー・イズ・ワイルド 驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界
2004/02/21 15:02
どっこい!生きてる
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「ディスカバリーチャンネル」の人気番組から単行本化された、人類滅亡後の今から2億年後の地球と生物たちの姿を描いた一冊。
人類が自ら招いた環境破壊と天然資源の収奪によって滅びたあと、地球とそこに存在する生き物たちが、500万年後、1億年後、そして2億年後にどのような姿に変貌していくのかを、最新の地球科学や生態学などの知見をフル動員して、きわめて実証的に描いている点が特徴的だ。
「高さ7メートルでゾウの24倍も体重があるカメ」「空を自由に飛びまわるようになったタラ」、さらには「2億年後、地上に進出して知的生命体の頂点に立ったイカ」まで、年代と共に進行する大陸移動・気候変動に対応して、一見ユーモラスだがたくましく変貌をとげていく生物たちの精密なCGイラストにも目を奪われる。
またこの本が指摘しているのは、いま人類が「地球環境問題」だと騒いでいる環境汚染や地球温暖化、エネルギー資源枯渇などは、あくまで人類という固有の種だけのごく至近の問題であり、地球全体あるいは地球生物全体の大きな流れとは、また次元がちがう話だということでもある。
このまま人類が暴走を続けて滅びようと、それは種の滅亡という地球にとってはごくありふれた出来事にしかすぎないし、残った生物たちは本書に出てくるような驚異の姿をとりながら地球上に存在しつづける。また人類が地球と折り合いをつけながら持続的に生きる道を選んだとしても、大陸移動や地球規模の気候変動の中で、人類もその姿を必然的に変えていかざるを得ないかもしれない。(そうした生物の消長を繰り返した後、地球はやがて膨張した太陽に飲み込まれて存在そのものが消えていく‥。)
そう考えると、ただ性急に地球環境問題対策を叫ぶのではなく、もっと深く地球あるいは生命の本質ということにも想いをめぐらせながら、問題点にじっくりと取り組んでいこうという気にさせてくれる、そんな本であったと思う。
2 件中 1 件~ 2 件を表示 |