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久我忍さんのレビュー一覧

投稿者:久我忍

6 件中 1 件~ 6 件を表示

紙の本

紙の本

2008/03/09 08:40

呆れるほど緻密な構成

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 子供向けなのかな、と思って読むといい意味で裏切られる作品。

 空から降ってきたスニーカーのせいで無実の罪を着せられた少年、スタンリーは、グリーン・レイク・キャンプという名の、少年強制施設へと入ることになる。
 見渡す限りに続く焼けた大地。緑のないグリーン・レイクにて彼を待ち受けていたのは、毎日一つ──直径1.5メートル。深さ1.5メートルの穴を掘るという過酷な労働だった。
 穴を掘るのは何のためか? それは人格形成と、根性を養うためであるらしい。にもかかわらず、『何か珍しいものや面白いものが出たら必ず報告するように』という言葉が、穴掘り作業が何かを見つけるための作業であることを示唆している。
 本書ではキャンプにて穴を掘り続ける主人公スタンリーの日々と中心に、その他幾つかのエピソードが断片的に語られていく。
 例えば110年前のグリーン・レイク──街にただ一人の教師キャサリン・バーロウと、たまねぎ売りのサムの恋。
 雨が降らなくなった街で生まれた、西部で心底恐れられることになる一人の無法者。
 大金持ちだったスタンリーの祖父が身ぐるみをはがされ、荒地に置き去りにされた後、無事に助け出されたときに発した言葉。
 穴を掘り続けるスタンリーとは全く関係ないようなエピソードの数々は、やがて奇跡のような瞬間へと集束していく。
 息を呑む、という表現があるが本作品のラスト近くでまさにそれを体験した気がする。
 断片的なエピソードたちが最後にはきっちりと一枚の絵に、それも無駄なところが全くない完成度の高い絵に仕上がる構成の緻密さからも、この作品を『子供向け』であると言うことは出来ない。むしろ子供に喜ばれるような要素を持ちながらも、多くの年代の人々が気持ちよく読める作品だと言えるだろう。

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紙の本

紙の本君のための物語

2008/03/01 22:46

出会いと喪失

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 表紙買いした一冊ではあるけれど、いい買い物だったと思える本。文体も読みやすくさらりと読めるが内容は決して軽くはない。悲劇もあれば本文では語られない戦いの過去もある。それでも本作の読後感が温かく感じられるのは、「救い」があったからだろう。
 

 主人公の「私」はある冬の日に、身投げしようとしているセリアという少女を助け、何故か結果的にレーイと名乗る不思議な青年に命を助けられることになる。
 レーイは徹底的な秘密主義を貫いていた。だが新聞に掲載された美術的価値の高い手鏡と櫛を自分のものだと言い張る老婆や、歌姫パレオロッタとの係わりによって主人公はレーイが老いることなく、見かけよりもとても長く生きていること、そして人ならざる不思議な力を持っていることを察する。
 だがそれでも、二人の関係に変化はなく、やはりレーイは気まぐれに主人公の家を訪れてはお茶を要求した挙句、お茶の淹れ方を学んだ方がいいなどと憎まれ口を叩く。この関係の維持が、お互いを信頼した結果のものならばそれはレーイにとっても主人公にとっても幸運だっただろう。だがこの時点では、二人の間にあったのは信頼ではなく壁のようなものだった。関係が変わらないのは必要以上に互いのことを詮索せず、上辺だけのつきあいだったが故だ。
 だがトゥリスという少女の登場によりこの関係に変化が生じる。


「彼は私の友人だ」


 上辺だけの付き合いを続けていたと思うことはあれど、けれど見捨てることが出来る筈もない知り合いという立ち居地から明らかな友情へと。
 主人公はレーイとの出会いによって一つの喪失を経験すると同時に、一つの失い難いものを得た。けれどそれはレーイにとっても同じだろう。友人だと、断言できる関係というのは容易く得られるものではないし、老いることがないために人々を遠ざけ、一箇所に定住することを避けていたレーイには普通の人々よりも手に入れることが難しいものだ。
 二人が失ったものはとても大きい。
 だがレーイを助けた温かい光は、その主はきっと、この結末を心より喜んでいるのだろうと思う。そしてその救いの存在こそが、私がこの作品を好きな理由なのだろう。

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紙の本

紙の本幼年期の終わり

2007/12/01 20:45

孤独だったのは人類なのか

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 物語は、巨大な宇宙船が地球を訪れることに始まる。
 地球人より遥かに高度な知能と文明、技術力を持った異星人たちはオーヴァーロードと呼ばれた。彼らは人々を、人類だけでは成し得ることが出来なかった戦争や貧困のない平和な時代へと導いていく。


 SF小説というジャンルが苦手な私だったが、かつて何の気まぐれか、『旧版』を読んだことがあった。SFといえば宇宙船が登場し、異星人と戦って──という印象しかなかった私にとって、この本との出会いは衝撃だったことを記憶している。その作品が、光文社古典新訳文庫のラインナップに加わったとのことで早速『新訳版』を読んでみた。


 内容は三章に分かれる。
 第一章『地球とオーヴァーロードたち』では、国連事務総長であるストルムグレンと、オーヴァーロードの代表である地球総督カレランの交流が描写されている。
 人々は、オーヴァーロードによる緩やかな支配と平和を享受しつつも、人々の前に姿を現すことをしない彼らの秘密主義に抵抗を試みる集団が小規模ながら各地に存在する時代。オーヴァーロードたちは50年後、人々の前に姿を現すと約束する。
 そして第二章『黄金期』において、その約束は守られた。
 だが彼らが地球を訪れた本当の目的が語られるのは、第三章『最後の世代』だ。


 地球人たちはオーヴァーロードとの出会いによって、人類は宇宙という広大な空間で決して孤独ではなかったことを悟った──人類はもはや孤独ではない、と文中でも語られている。だが詳しく描写される人々の心象とは対照的に、オーヴァーロードたちのそれが語られることはとても少ない。明確に語られないその部分においては、読者は想像することしか出来ない。けれど孤独だったのはオーヴァーロードたちだったのだと私は思う。
 全編を通して登場した地球総督カレラン。彼にとっては一つの任務が終わるまでの、短くはないが生涯が終わる程の時間ではない期間は、人間にとっては50年以上に渡る世代が変わるほどの長い時間だった。そんな二つの種族の間に育まれた、決して形として表には出されることのない友情に似た感情が胸に残る本だった。

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紙の本

紙の本太陽の塔

2007/12/16 22:44

ひねくれものたちの青春小説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 太陽の塔を見たのはもう何年も前になる。
 当時同じ仕事をしていた友人と、やはり仕事の関係で向かった大阪で、初めてあの独特のフォルムを見たとき、
「かっこいー!」
 と声を上げて駆け出した友人のことを思い出して、そしてこの本を読んでみようと思った。


 主人公である「私」は交際していた当時から続けていた「水尾さん研究」を、彼女に袖にされてからも根気よく続け、その成果は14のレポート(原稿用紙に換算して240枚)を完成させるに至った。だがその後も彼の研究は続く。
 ふられてから1年近く彼女をつけまわす姿は明らかにストーカーだが、主人公はそれを「水尾さん研究」のためであると言い訳をしつつ、けれど恐らく、自分の行為が客観的に言えば「ストーカー行為」であるということを理解している。要はひねくれているのだ。主人公がひねくれているならば当然彼の独白で綴られる地の文も半端でなくひねくれている。そして主人公をとりまく周囲の仲間たちも、主人公と同じように水尾さんをストーカーする男もひねくれている。


 12月に入り街を浸食していくクリスマスに怯えつつ徹底抗戦の構えを見せ、夢玉を開いてみては「夢をなくしてしまった」と嘆き、他の大学生たちが送る「享楽的な生活」を嫌悪し、けれど時折、かつてはそんな幸福を求めた自分たちがあったことをふと思い出す。


 しかし、時には型にはまった幸せも良いと、我々は呟いたこともあったのではないか。


 主人公の独白があまりにひねくれているが故に、唐突とも思えるタイミングで挿入されるそんな一文がひどく寂しさを感じさせる。
 馬鹿馬鹿しくも続く日常。近づくクリスマス。水尾さんをストーカーする男との不器用な交流。ひねくれた主人公はそれらを乗り越えて、ひねくれたままではあるが幾つかの、それまではどうしても認められなかったものたちを認められるようになる。要は、ひねくれた大学生の青春小説というヤツなのかもしれない。

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紙の本

紙の本死神の精度

2008/02/23 21:07

ミュージックを愛す死神の物語

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 伊坂幸太郎の作品はどれもとても好きなのだが、いつもいつもどのジャンルにカテゴリすべきか悩むものが多い。そして今回読んだ『死神の精度』もまたそんな印象だ。


 短編という形で雑誌掲載された『死神の精度』『死神と藤田』『吹雪に死神』『恋愛で死神』『旅路を死神』『死神対老女』の六編を収録した一冊。短編それぞれも出来はいいが、やはり一気に全部を読んでこそ、だと改めて実感した。
 主人公は『死神』である。とはいえその単語から連想されるファンタジックなイメージと主人公が重なることもないし、作品がファンタジーなのかといえば少し悩む。本作品に登場する死神は、『職業』といった意味合いの方が強いようにも思える。とはいえ人間なのかといえば、殴られても痛みは感じない、味覚はない、そして死神の中でもこれは主人公だけの特徴だが──彼が仕事をするときはいつも雨が降る。
 彼ら死神の仕事は、死を予定されている人物の調査だ。死神は対象が何故選ばれたのかなど知らない。ただ与えられた仕事を──調査対象の死期一週間前に当人に接触し、その人物が本当に死ぬべきなのか否かを調査し、『可』か『見送り』という報告を行う。そして『可』という報告をした場合のみその死が実行されるのを見届ける。
 そして人の生死を左右する調査もかなりいい加減なものだ。彼らは調査期間ギリギリまで地上のCDショップの視聴器にかじりついて愛すべきミュージックに触れるために、たいていは『可』という報告を行う。


「死んじゃいたい」と呟くクレーム処理係の女性。
「弱気をたすけ、強気をくじく」という言葉を信じ続けるやくざ。
「俺は人殺しなんだっての」とあっけらかんと告げる逃亡者。
 そして主人公を『人』ではないと見抜く美容師の老女。
 さまざまな調査対象や、さまざまな人物との出会い──それを見つめる主人公の視点は冷めているようにも見える。人の生死を決定するという仕事に従事する主人公は他の死神と同じく調査結果はほとんどが『可』だ。
「人の死には意味もなく、価値もない」
 そう独白する冷めた印象の死神は、出会う人々や調査対象に人や死についての質問を繰り返す。もしかしたら死というものの中に意味や価値を見出したいのは主人公なのかもしれない。


 そして、私が仕事をするといつも雨が降る──そうぼやく死神はこれからも、淡々と降り続く雨の中でじっと愛すべきミュージックに耳を傾け、対極にある渋滞を毛嫌いし、そして淡々と死を間際にした人々のありようをその目に留めてゆくのだろう。
 

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紙の本

閉ざされた牢獄と外界の華麗な反転

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『アリア系銀河鉄道』に続く宇佐見護博士のシリーズ。
博物学者である宇佐見博士は趣味であるお茶を楽しんでいる時、彼が生きる世界とは全く別の世界に意識のみ飛ばされてしまうことがある。
 この本はそんな博士の五つの飛ばされ体験先での謎とその謎が解かれるまでを綴った一冊。
 収録作品は『エッシャー世界』『シュレディンガーDOOR』『見えない人、宇佐見風』『ゴーレムの檻』『太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)』の五編。
 表題作である『ゴーレムの檻』においては、1630年代のイギリスに飛ばされそこで名前も経歴も全てを消され、神に見捨てられた牢獄に囚われたままの『ゴーレム』と呼ばれる男の存在を知ることから始まる。
 石で埋めつくされ、溶けた鉄を流し込んで固めた錠。幾つもの鉄の帯で封印された牢獄。だがゴーレムは到底脱出不可能とされる場所に囚われているにも関わらず、封印を解く日が近づいていると脱獄を示唆する発言をし始め、ついにそれを成功させてしまう。
 ゴーレムは言う、自分はこの檻の外側に立ち、外の世界を己の中に収縮させることで外と内とは反転すると。そしてゴーレムが予告通りに脱獄したその時、彼の言葉通り彼は世界の外側に立った──。
 ゴーレムが予言のように発する詩的ともいえる言葉。そしておそらく伝説となったであろうゴーレム。これはゴーレムの言葉と、彼を恐れる人々の恐怖によって始めて完成を見た謎の物語。おそらくそのどちらかが欠けたとしても、きっとこの『謎』は『謎』として完成しなかったのではないかと思う。

 この作品を言葉で説明するのは難しいかもしれない。それはおそらく作者が言葉とそこから生み出される見えない力の可能性をこの作品で書こうとしたからなのかもしれない。

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