秋山真志さんのレビュー一覧
投稿者:秋山真志
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紙の本職業外伝 正
2005/03/27 03:15
著者コメント
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拙著『職業外伝』のあとがきにボクはこう記した。
「動植物に絶滅危惧種があるように、職業にもそれがあると思う」
この20年間に絶滅したとおぼしき職業は、他にも門付け芸人、ラオ屋、鋳掛け屋など枚挙にいとまがない。いまの若い人たちは、こうした職業の何たるかも知らないだろう。そして、いまも多くの職業が現在進行形で絶滅しかかっているのである。これはぜひとも記録して、後世に残したいと思った。取材の対象条件はただひとつ。「現役で、その仕事の収入で暮らしている人たち」。
本書はそうした観点から日本で最後の見世物小屋、東京で最後の街頭紙芝居師、日本で最後の真剣師(賭け将棋屋)、日本で5人しかいない幇間、京都・西陣の100歳の能装束師など、下は25歳、上は100歳まで計12人の方々を取材させていただいた。
彼らの壮絶な生き様を「職業」を切り口としながら、存分に書いた。筆者の思いとして願わくば「跡を継いでくれる人が現れないか」と愚考しながら、夢中に書き綴った。「万物は流転する」のは世の倣いだが、ボクはこうした日本の伝統職を根絶やしにしてはならないと思っている。
以下、再び、「あとがき」から引用する。「天職」という言葉をたびたび本書で用いた。「天職」を意味する英語の「vocacation」は、ラテン語に由来しており、そもそもは「神様からの呼びかけ」という意味だったようだ。以下はボクの勝手な類推だが、「天職」とは地位や金や名誉とかそんな次元の問題ではなく、「神様から呼びかけられて、どうしても断れなくて、その職に就いた」ぐらいの深い意味があるのではないだろうか。
本書で取材させていただいた12人の人たちは、紆余曲折はあれ、みんな「天職」にたどり着いた稀有な方々だ。読者ターゲットはこうした職業人をリアルタイムで見知っている中高年層だが、筆者としてはむしろ若い人にこそ読んでもらいたい。単なる懐古趣味や好奇心からではなく、働くとは何か? 職業を通して、生きることの意味を探ってほしい。そして、なろうことなら自らの手で「天職」を掴み取ってほしい。
本書は後世へ残す記録の書であると共に、若い人が日本の国と自分たちの将来へと希望を繋げる書であるようにと、切なる思いを込めて書いた次第である。
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