楓 さんのレビュー一覧
投稿者:楓
2002/02/17 13:04
ようやく救いを手に入れる、大人になった英二の物語
13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
タイトルどおり、『BANANA FISH』のアナザ・ストーリー。
(1) アッシュの少年時代。後の親友ショータに刑務所で出会い、初めて友情を体験する話。
(2) これだけは、アナザ・ストーリーというよりも、『BANANA FISH』の完結編といった感じ。アッシュの死後7年。N.Y.で永住権を得て、写真家として活躍する英二のもとに、伊部(英二の恩師)の姪・暁が遊びにやってくる。英二はシン(英二の友人。BANANA FISHを参照)とほぼ同居をしながらも、アッシュの面影に囚われ続けていた。シンはそんな英二を救いたいのだがなす術がなく…。そこに暁が現れて、シンと英二の胸にわだかまっていたアッシュとの思い出が、静かに溶け出しはじめる。
(3) これもアッシュの少年時代。彼は「先生」であるブランカ(殺し屋)と、レッスンを通して友情に似た交流を通わせる。彼の天才ぶりが描かれている。
(4) 吉田秋生のエッセイ漫画。BANANA FISH製作秘話。
(5) 英二の高飛び選手時代の話。絵が古いです(『河よりも長くゆるやかに』の時とほぼ同じ作風)。
どれも、『BANANA FISH』を全巻読んだ後に、読んでほしいです。(2)を読んでいると、アッシュと英二の命をかけた戦いや、アッシュの孤独、そしてついに手に入れた友情…などが思い出され胸がつまります。英二の心情にシンクロしながら読むと、もう、涙を堪えられません!
それから余談ですが、実は、(2)に出てくるシンが、現在、別冊少女コミックで連載中の『YASHA 夜叉』にキーポイント人物として再登場しているのです。そこで、シンは暁と結婚した模様です(?)…『YASHA』も、吉田氏の素晴らしい作品です。少女コミックですが、もちろん誰でも楽しめます。是非読んでみて下さい。
紙の本ONE PIECE (ジャンプ・コミックス) 108巻セット
2002/02/09 15:40
泣ける男の冒険コミック
8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大人気のこの漫画、少年漫画といって馬鹿にしていた年配の方も、読んだらはまってしまうと言う、麻薬的なコミックです。
ストーリーは、ひとりの少年・ルフィーが伝説の海賊王G・ロジャーが残した「ワンピース」を目指して、「グランドライン(と言われる最強の航路)」を航海するというもの。ルフィーは「悪魔の実」を食べてしまったために、全身がゴムのように伸びるゴム人間(でも、カナヅチ)というファンタジーな設定。
同じくジャンプに連載されていた「ドラゴンボール」が努力の漫画だとしたら、「ワンピ−ス」は勢いとアイディアでココまで来たって感じです。
主人公には大きな目標があり、それを実現させるために怖いくらい一生懸命。堅強な意思があり、それ以外の邪念を一切切り捨てているところが格好いい。
また、見所は一癖も二癖もあるキャラクター。主要なのは、まず船長・ルフィー。天真爛漫の天然BOYで、いつも面倒を呼ぶのですが、やるときにはやってくれる、頼れるカリスマ。
世界一の剣豪を目指すロロノア・ゾロ。三刀流を使いこなし、いつも体を鍛えている。お馬鹿なキャラクターの中で辛辣な発言(ジョーク?)し、場を引き締めるしっかり者。
航海士・ナミ。辛い過去を乗り越えつつも、ついに自由を手にし、世界地図を書くことを夢としている美女。何よりもI love MONEY!!!
狙撃手・ウソップ。おっちょこちょいで臆病者だけれど、狙撃の腕前には天賦の才能が。コック・サンジ。女好きでナミLOVE。足技でびしばし敵を倒す欠かすことのできない戦闘員でもある。
そしてDr.チョッパー。青鼻のトナカイ。医者の腕前は一流。和みキャラ。
みんな、やさしい訳でもなく、いいひとなわけでもない。しいて言えばいいやつ。気持ちのいいかけがえのない関係なのだ。泣けるシーンも多いけれど、お涙ちょうだいと言う感じではなく、ひとりのひとの生き様を深く掘り下げ、飾らない言葉で描写する。作風も個性的で、ギャグゴマとマジなコマとが同じ顔でかかれるのに、感動するのは著者の力量。
TVアニメかもされていますが、スピード感などを考えると、断然、コミックをお勧めします!
2002/02/05 19:05
現代社会に必要な歌
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
初のベスト版を発売したミスチルの記念すべき詩集。この人たちの歌う歌詞は、時に恋愛という形で、また時に希望という形で、社会に向けてあるメッセージを送っています。読んでいただければ、そのメッセージのひたむきさ、前向きさ、強さを感じることでしょう。…曲を聞いていた当時の自分が甦る、思い出の詩集。ミスチルファンには勿論、ミスチルを知らないという方にもお勧めできます。写真も綺麗で贈り物にも最適。
紙の本裏庭
2002/02/05 19:22
ムーミンの世界に似ている
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
双子の弟と死に別れ、共働きの両親と暮らす少女・照美。イギリス人一家の別荘だったというバーンズ氏の秘密の「裏庭」で、彼女の孤独な魂の物語が始まります。自己救済、という重めのテーマを子供にもわかるように説いた長編。著者の傑作だと思います。異世界と現実世界を主人公・照美の内と外になぞらえて進んでゆく物語は、どこかムーミンの世界を思わせる優しさを併せ持っています。しかし、重い作品なんです。読んだあと、救いとは誰によってなされるものなのか、と考えさせられてしまいました。
紙の本見城徹編集者 魂の戦士
2002/02/15 00:46
なんて大袈裟なタイトル…と思ったけれど、読めばすんごく納得です。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
NHK『課外授業 ようこそ先生』での授業、未放送分などを加えて再構成したものが、これ。毎週違ったゲストが、母校を訪れ、後輩たちに授業をする、といった趣旨の番組です。実はその放映(ちょうど見城氏が出ていたした)を見ていて、ひどく心を揺さぶられたのでこの本も読んでみました。
本がどうといか、この見城徹という人間がいかに素敵な生き方をしているか、あるいはしようとしているのか、に惹きつけられました。彼はひとことで言うと格好いいのです。文句なしに、こういう大人になりたいなあ、と感じさせる素晴らしさを持った方だと感じました。なにが素晴らしいかというと、このほんに収録されているインタビューをよんでいただくとわかるのですが、選ぶ言葉にてらいがありません。直球なのです。格好いいといっても、飾り気があるのではなく、とても誠実な形で自信を持っているのだと感じました。
見城氏は編集が生きがいであることなど、編集者という「生き方」について熱く語っておられますが、人生の指針として、この本に出会えたこと、見城徹氏の生き方に触れられたことは、私にとって人生の財産になったと確信しています。
ひとりでも多くの人にこの本を知ってほしいです。
紙の本優雅に叱責する自転車
2002/02/13 17:08
奇妙、でも納得、の才能
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
文庫本くらいのサイズの抹茶色の品の良い本です。何と言ってもゴーリーの絵が魅力的です。神経質で、不正確。可愛らしい訳ではないのですが、デフォルメのやり方や、一本の線にも、味を感じます。読み返すときはストーリーよりも、一ページ、それだけでも額に入れて飾りたくなるような「絵」に注目してしまいます。本国には彼の私版絵本の熱狂的コレクターもいるそうですから、知名度の高い作家なのでしょう。
ストーリーは二人の兄弟がへんてこな自転車に乗って旅に出るというもの。旅の途中で二人は様々怪しげなものに出会います。そして、奇妙なラストにはなんとなく教訓めいたメッセージがあるように思うのですが、それがどういったものなのかは曖昧です。その「よくわからん」という部分がこの作家最大の魅力だと私は思っています。読めば読むほど、何かが伝わってくると思います。
タイトルの原題は「The Epiplectic Bicycle」と言うらしいのですが、これは廃語で、こういった馴染みのない言葉を使うのがゴーリーの特徴だと訳者は後書きで語っています。訳者の柴田さんはどの本でもそうですが、その本の良さを言い尽くしています。だから、まず彼のあとがきを読み、それを信用してから本文を読んでみると良いと思います。ちなみにこの本は開いて左が英語で右が訳となっているので、二倍、楽しめますよ(?)。
紙の本スカイ・クロラ
2002/02/05 23:33
静謐感漂う完璧な心象描写
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
撃墜と死と隣り合わせの日々を淡々と(ほんとうに淡々と)送る戦闘機パイロット、カンナミ・ユーヒチ。彼の出生には大きな秘密が隠されている。そのために彼はどこか投げやりで、人間的な感情に乏しい。そんな彼の心象風景を透明感ある文章で綴ったSFともファンタジーともつかない作品。
まず無駄がなく美しい表紙に惹かれるが、それで購入しても絶対に損はしない。著者の新境地ともいえる傑作だ。
紙の本あかね空
2002/02/19 12:47
時代小説ってこんなに面白かったんだァ!
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
今まで、「時代小説」と呼ばれるものには一切手をつけていませんでした。登場人物がやたらと多くて覚えられないし、固有名詞のいちいちが理解できなかったからです(私の読解力のなさが原因なのですが…)。それが、この『あかね空』を「歌川広重の表紙が素敵だな」・・・なんて思って読んでみると、もう、これが面白すぎるのです! すっかり虜になって、この360ページほどの厚い本を一晩で読み終えてしまいました。
内容は、永吉という京都からやって来た若い豆腐職人が、江戸で成功してゆく様を描いた話。当時の江戸の経済事情を取り入れ、しかもそれを「豆腐屋」という庶民の視線で書いているので読者にも分かりやすいです。
また、人々の助け合いが見所ですね。困った時にはお互い様だ、という現代にはほとんど見られない家族やご近所の姿勢には学ぶものがあります。腕はあるのに豆腐が売れない永吉を支える人々の姿には、涙するかも。とくに、永吉の妻となるおふみの健気な姿にはじ〜んときます。豆腐屋の行く末に、休むまもなくはらはらどきどきし通しでした。
この物語は2部立てで、家族が崩壊してゆくシーンで終わる第一部の後、家族再生の第2部へとつながります。先に、永吉の成功の話と紹介しましたが、もっと深いところにある作者の意図は、そう、(作品紹介の文にもある通り)江戸で生きる家族の絆を描くことなのだと思いました。
紙の本ハチ公の最後の恋人
2002/02/17 13:15
愛の話です。ギリギリの、それも最後で本物の。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
吉本ばなな氏が繰りかえし、ひとつのモティーフとして書かれてきた、「オカルト」という分野の先端に位置する作品でしょう。
内容は、マオという少女とハチという青年のラブストーリー(いろいろ訳ありで期間限定の恋)ですが、オカルト的要素が強いです。ハチというのは、インドからやって来て、僧侶になるためにもうすぐ出家する身の飄々とした男。一方のマオは閉鎖的な宗教集団の中で成長してきた子供。彼女は必死に救いを求め、ある時、霊能者の祖母の予言どうりに、ハチが彼女に手を差し伸べるのです。物語の1ページ目で、二人の恋がこんな風に表現されています。『陽に向かって、ぐんぐん大らかに、伸びてゆく』、と。
吉本氏の文章は、わりとすらすらと読めてしまうと思いますが、この話のテーマは深く、全体としてはじっくりと読める気がします。
ところで、本の半ばに、若木信吾氏(ミュージックやファッション界を中心に、大人気活躍中の写真家)の海の写真が付いています。一面波の、表紙によく似た写真です。どろどろとした、重い話の中にその写真があると、そこで一息つけるというか、ぱあっと目の前が開けてきます。なかなか、味のある、効果的な演出でした。
吉本氏は『ひな菊の人生』で、奈良美智氏(世界的な人気絶頂のアーティスト)とコラボレーションをしたり、『SLY』などでは一風変わった旅行記のようなものに挑戦したり、常に、新しいものを読者に向けて放っているという感じがします。やはり、さすがです。
2002/02/17 13:08
今を生きる人たちのために作られた短歌なのかもしれない
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この本は1997年に出版された『てのりくじら』と『ドレミふぁくしょんドロップス』の収録短歌を一冊にまとめて再構成し、新タイトルをつけたものです。前半はピンク色の写真と一ページにひとつの短歌が載っています。後半は水色です。写真は池田信吾氏。
作品集も多く、TV出演などもなさる枡野浩一氏の才能は今や疑いようもありません。しかし、実は私は、枡野氏の『ハッピーロンリーウォーリーソング』に出会うまで、現代短歌というものにほとんど触れたことがありませんでした。ですから、短歌=風流でなくてはならない、という思い込みがあったので、この作品集は衝撃でした。
枡野氏は、根性や絶望といった感情を、積極的に歌のテーマとして取り入れています。ひとつここに紹介してみましょう。
「こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう」
この歌に込められているのは、単なる希望ではないのです。あくまでも、今を生きる現代人のために作られた短歌なのだという気がします。
紙の本食べちゃえ!食べちゃお!
2002/02/17 13:06
好きな人と一緒にごはんをたべることのハッピー
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解説で、料理研究家・ケンタロウ氏が「好きな人とおいしいものを食べること以上に、人生で素敵なことなんてない」と書かれています。これは、野中柊氏の、好きな人と料理についてかかれたエッセイです。
エッセイのタイトルはすべて料理の名前で、目次を眺めているだけで涎が出てきてしまうそうです(笑)。ジャーマンお好み焼き風オムレツ、タピオカ入りココナッツ汁粉、鰹の手こね寿司、イカリングフライ…日本料理に中国料理にフレンチ、アメリカの家庭料理まで、何でもござれ。
どのエッセイも素敵でした。読んでいて、ああ、誰かと一緒に食べる御飯って、ほんとうにいいものだなあと感じました。今どきの若い人は、コンビニなどでお弁当を買って食事を済ましてしまうことも多いでしょうが、是非、これを読んでほしいです。たまには恋人と一緒にキッチンに立ってみようかな…という気になるかもしれませんよ。
2002/02/15 00:44
文章に対して責任を負うことができるという真摯な態度で挑んだ評論
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特に評論は、読書経験が浅い読者にとっては取っ付きづらい分野ではある。文章が美しくても、美しくあればあるほど、晦渋になってゆく観は否めないという気もする。
しかし、柳美里氏の書く文章は、そういった点ではまったく身構える必要がない。氏の文章は、小説でもエッセイでもそして評論でも、一貫して透徹した感じの美しさを感じる。一文も長く、一見、意味を取り難いように思うのだが、実はとても読みやすい。意識的に、読者への配慮がなされていると感じる。
今人気の評論は、あまりにも飛躍しすぎた主張が多いという印象が私にはある。しかし評論は社会に対する主張なのだから、その文全体の責任を著者がとらなくてはならない。そういった点においても、氏の真摯な態度が見て取れる。
ひとつの題について、根本まで掘り下げ、最終的には上手く消化させるという、気持ちのいい文章の展開が、読みやすさにもつながるのかもしれない。
紙の本火花 北条民雄の生涯
2002/02/09 15:41
壮絶な命の物語
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自らの壮絶な人生と独特の生命観を綴った『いのちの初夜』でベストセラーを生み出した作家・北条民雄。T3年に生まれた彼は、19歳でハンセン病を発病。川端康成など当時の大文豪の高い評価を受けながら、23歳で無念の死を遂げた。本書は、そんな彼、ペンネームとハンセン病者であったという以外は謎に包まれていた北条民雄の生涯を描いたドキュメンタリー。大宅壮一ノンフィクション賞・講談社ノンフィクション賞受賞の秀作。
印象深かったのは、病棟での描写。姿かたちが変化すると言う凄まじい境遇に、北条民雄がどう耐え、どう生きたのかには感動させられる。それとともに、ハンセン病の患者たちがいかにアンダーグラウンドな人生を強いられたかと言う点では衝撃をうけた。
紙の本体の贈り物
2002/02/05 23:42
人生の形成のための数々の葛藤
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エイズ患者と介抱士とのふれあいを描いた連作短編集。エイズ患者? と聞いて引いてしまう人、ちょっと待って! 訳者・柴田元幸氏があとがきでこの本の素晴らしさを語り尽くしていますが、この本は生と死についてを問い詰めるというような重過ぎる話でもなければ、お涙ちょうだいの人情話でもありません。語り口はいたってクール。比較的短い文章で語られるのは主に正確な風景描写で、心理描写はほとんどなされていません。それなのに、エイズ患者と介護士、双方の悲しみや切なさや悶えなどの気持ちが浮き彫りにされています。見事に。
並々ならぬ力量を感じさせる著者レベッカ・ブラウンですが、本国アメリカでの知名度は今ひとつらしいです。逆に、この本を日本に紹介した訳者の慧眼には相変わらず感心してしまいます。柴田元幸氏にとっても、代表作になった作品。
2002/02/05 23:38
「エッセイ」ではなく「随筆」と呼びたい
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新聞・雑誌にのった随筆を集めた随筆集。印象深いのは、川上弘美氏の好きな、本・漫画について書かれている箇所。氏は本当に本が好きなんだなあ、としみじみかんじさせてくれます。また、氏のまるで小説の中とオーバーラップするかのような日常も垣間見え、ファンにはたまりません。あの、淡々とした川上テイストで、一気に読んでしまえます。