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  3. プラチナ若葉さんのレビュー一覧

プラチナ若葉さんのレビュー一覧

投稿者:プラチナ若葉

34 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

普段は地味、だけど絶体絶命時には助けてくれるスーパーマンのような一冊

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

キャンプ・アウトドア用品を売っている店をみると、その魅力的なラインナップに思わずキャンプデビューをしてしまう人もいるのではないだろうか。
そして、新品のテントをいざ組み立てよう、と思った時に気付くのだ。
いくら新素材の素晴らしいテントでもそれをしっかり固定するには、一見素朴で地味ではあるが効果的なロープの結び方を知らなければならないということを。
この手の本は、アウトドアクッキング系の本が多種多様あるわりにその種類は意外と少ない。そして値段も比較的お安めである。なんと地味な扱いであろうか。
しかし、一度開いてみてほしい。ロープワークがいかにアウトドアライフに欠かせないものかどうか、また結び方をマスターすることでいかにアウトドアライフの可能性が広がるか、めまいがするような思いで気付くことになるだろう。
そして、ロープや紐が日常生活でも役に立つ場面が多いことだけではなく、緊急時高所から避難する時にも結び方を知っていればなわばしごを作ったり、シーツをつないだり、人の体を救助できるように結ぶことができたり、棒と布で担架まで作れてしまう、という可能性を知るに至っては、いつでもどこでもこの本がさっと取り出せるように持ち歩かなくてはならないような気にもなってしまうだろう。
ちょっと知ってたら便利、くらいの地味な扱いのこの本は、実は絶体絶命のピンチに陥った時に命を救ってくれる、そんなスーパーマンのような知識の詰まった一冊なのだ。
・・・・そんなピンチに一生遭遇しないで済むことを祈りたいが。

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紙の本

紙の本煮干しの解剖教室

2010/08/20 14:23

身近な食材を生きた教材に変える優秀な手引書

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

昔はどこの学校でもフナだのカエルだのを解剖し、それが上級生から下級生に『ある学年になると必ず経験する恐ろしい行事』として伝えられてきたものだったが、さまざまな事への配慮により理科の授業で解剖が行われなくってから久しい、と聞く。

そして、近年生き物の代わりに煮干しを解剖する場合がある、ということを耳にするようになった。
「煮干しの解剖ですか?そりゃ、煮干しならいつでも手に入るし、解剖の為に生きているものの命を奪うわけではないけれど、それでもぐらぐらとゆで上げられ、干されたものを解剖したって、よくわからないでしょう?」
などと、なんとなく煮干しの解剖には賛成しかねるような気持でこの本を開いた。

ところが、この本はそんな私をあっさりと煮干し解剖派に変えてしまったのである。
まず、煮干し解剖のよいところは、失敗しても別の煮干しを使ってやり直しがきくということである。解剖に向く煮干し、向かない煮干しのなかから解剖する個体を選ぶことができ、ある個体では見つからなかった内臓をほかの個体で探す、ということが簡単である。なんたって煮干しは一匹ずつ売ってるものではなく、たくさんの煮干しが一袋になって売っているのだから。
二つ目の良いところは、道具がいらないところである。私たちが理科の授業で生物の解剖をしたときには特別な解剖用のはさみが必要だった。きちんとした道具を使わなければ、せっかく解剖しても観察できる状態で内臓を取り出すことができなかったのである。それにひきかえ、煮干し解剖は基本的には自分の両手と虫めがね、白い紙くらいしか必要としない。
そして、煮干し解剖のなんといっても一番いいところは、煮干しの解剖を通じて、自分たち人間も生きているものを食べて生きている、ということが実感できることである。

自分がかつて理科の授業で行った解剖では、生きているものをばらばらにし、その構造を確認した後は元に戻すすべもなく、命が消えていくのを見守ることしかできなかった。そして命の消えたものはただ校庭の片隅に埋められていただけである。

しかし煮干しは解剖をしながら筋肉(身)の味を見たり、解剖した後は自分たちが教材を食べることができる。
解剖した煮干しの胃の中身を顕微鏡を使い確認すれば、煮干しの原料になるイワシも何かを食べる生き物であり、自分もそれを食べるという食物連鎖を身を持って体験できるのがよい。

これだけいいことずくめの煮干しの解剖であるが、事前の知識がなければそれは私たちにとってただの身近な食材の一つにすぎない。この本はそんなありふれたものを生きた教材に変える優秀な手引書である。
そしてこの優秀な手引書が、これだけ写真と挿絵がある親切な本にもかかわらず1500円という比較的安価で手に入れられるのも驚きである。

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紙の本

紙の本ぼくは王さま

2010/09/26 22:10

世代を超えて面白さを味わえる良書

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

幼い日に出会った懐かしい本に再会した。
久しぶりに会ってみれば、王さまは相変わらず気ままで勝手である。
王子様の誕生を祝ってぞうのたまごでたまごやきを作ることをを考えたり、ぱっちっ と割れてしまうシャボン玉で首飾りを作りたいと言ってみたり、自分に都合よくするためのうそをついて宝石箱に入れておいたり、注射が嫌でお城を抜け出したり、本当にわがままで周囲を振り回す。
そのむちゃくちゃぶりが幼いころはただ面白く、笑い転げたものだったが、再会してみるとこの王さま、確かに気ままな困った人ではあるけれど、幼いころには気がつかなかった気高い部分を持ち合わせる人物だということに気づいた。

ぞうのたまごやきは国じゅうの人にごちそうするために作ろうと思ったのだし、慣れない農作業をしながらようやく作り上げたシャボン玉の首飾りの最後の一つをあっさりとあげてしまうし、ホントの箱に変わった宝石箱を隣の国の王さまにあげるときにもう戦争をしないことを約束させるし、権力を振り回してサーカスをただで見ようとした兵隊たちを王さまという権力を使わずにやめさせるし大した名君ぶりである。サーカスで働いた報酬を薬屋に返すところも大変まっとうである。

この作品が長く愛されるのは、はちゃめちゃな王さまの振る舞いとそれがなんだか丸くおさまっていくユーモアのおかげであることはもちろんだが、ただ愉快だったでは終わらない、人間として持ち続けていたい良心を潜ませているからではないだろうか、と思う。
この本がこれからも長く愛され、読み継がれていくことを子どもに本を薦める立場の者として願っている。

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紙の本

読み手と聞き手にとってまるで違う印象を与えながら、両者が心の底から楽しめる絵本

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小学校2年生の子どもたちにこの本を読んで聞かせた。
99歳の誕生日に5本のろうそくを立ててから、すっかり5歳の気分になったおばあさんが、
「5さいなんだもの」と繰り返しながら、川を飛び越えたり、前掛けで魚を捕まえたりする様子を子どもたちは本当に楽しそうに聞いてくれていた。
「え~?ありえない!」「ほんとは99歳なのにね」
という声が笑い声に交じってあちこちで上がる。

しかし、読んで聞かせるこちら側の心に、この絵本の言葉は全く違う顔をして忍び込んでくる。
自分の年齢や境遇に縛られて過ごすより、そんなものは取り払って自由に過ごしたほうが毎日楽しいよ、とユーモラスにささやきかけてくるのだ。
5歳の気分のおばあさんだったとしても、99年分の経験で身につけたおいしいケーキの焼き方はけっして忘れてはいない、と絵本の中の猫同様、感じるのだ。
生きてきた中で身につけてきたことは身につけてきたこととして、年齢という枠を取り払って生きていこうよ、という明るいメッセージをこの本は読み手に伝えかけてくる。

この本は、子どもたちをナンセンスで笑わせ、読み手の大人には明るく愉快な気分にさせてくれる、不思議で楽しい絵本である。

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紙の本

紙の本帰命寺横丁の夏

2011/12/24 11:59

このテーマは大人にこそ響くのに。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本の読者として想定されている小学生にはなかなかピンとこないことかもしれないが、ある程度以上の年齢の人には、若くして亡くなった誰かが、もし今生きているとしたらどんなふうになっているだろうか、と思う人も多いのではないだろうか。
この本の題名にある「帰命寺」というのは、大切な人が亡くなったこと悲しむ誰かが、ここのご本尊に真剣に生き返ってほしいと願うと、その願いをかなえるというお寺である。
ただし、生き返っても元のところに戻ってくるわけではなく、全くの他人としてこの世に戻ってくること、また戻ってくる場面を目撃した人には戻ってきた人の架空の生活ぶりを見抜くことができる。そして、戻ってきた人に『おまえは帰命寺さまだ!』と誰かが言えば、その人はまたあの世に戻ってしまう、という条件がつく設定だ。
主人公の男の子、カズはあかりがこの世に戻ってくるところを目撃し、気味が悪いと思いながらも帰命寺の秘密を探り出し、あかりがなんとしてもこの世で生きていくことを守り続けようとする。
そして40年以上も前に病気でこの世を去ったさおりがあかりとして生まれ変わり、身内の記憶を失っても、残っていた読みかけの物語の記憶とその結末を求めることで、あかりの運命のカギを握る水上のばあさんの夢もよみがえらせていく。
さおりが読みかけて亡くなった『月は左にある』というもう一つの物語を一緒に楽しみ、その作者がもし若い時にその物語を完結させていたらたどり着かなかったであろう結末に読者もほっとする楽しみが得られるのもうれしい。

もし、帰命寺というものが現実にあったとしたら、自分は誰をよみがえらせてみたいだろうか。
また蘇ったその人はどこでどういう人と出会い、どういう物語に生きる力をもらうのだろうか。
こ実際にこの世に亡くなった誰かをよみがえらせることはできないが、この物語は失った誰かを思い出し、少なくとも読者の心の中にはその人を蘇らせる力を持つ物語だ。

この本の作者、柏葉幸子は著書「つづきの図書館」でも物語が生きることに力を与えてくれることをテーマにしている。
これらの物語は児童書としてではなく、悲しさややりきれなさを知っている大人にこそ力を与えてくれるものなのではないか、と児童書をたまたま読む立場の大人として惜しいような気分にさせられてしまう作品だ。

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紙の本

この本の面白さが分かる人は小説が書けます・・・か?

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本は早稲田の文学部で著者が受け持った表現の授業の一部を活字化したものだそうである。作家や編集者を志そうという矜持を持った早稲田の学生たちはこの講義をきいてどう思っただろう。

もし、私が出版界に出ていこうという気持ちでこの講義を聞いたら、平凡な自分には畏れ多いことだ、と怖気ずくかもしれない。
しかし、そう思ったとしても、自分にできるペースとやり方で表現するということを楽しもうという強いメッセージは感じただろう。

「この本の面白さが分かる人は小説が書けます。」と小説家宮部みゆきが帯に推薦文を寄せている。
私にはこの本の面白さはたしかに「分かる」。しかし、だからと言って世間でいうところの小説家になれるとはとても思えない。
私のできることは、「ああ面白い本を読んでしまった!」と感じ、書評にすること、それが自分を表現することなのだ。そしてこの自分を表現する、ということが宮部みゆきさんの言うところの「小説が書ける」ということなんだろうと思う。

創作したり、優れた才能を持つ作家の作品を世に出すこと、それだけが表現の形ではない。器用にまとめることを考えるより、自分の心の中のこのまま黙っていられなくなるような気持を表に出すことが表現なのだ、ということをこの本は教えてくれる。

そしてのびのびと自分を表現するにはどこからはじめたらよいか、というのを知りたい方はぜひ、この本を手に取って読んでみていただきたい。
心を表にだしたくなること請け合いである。

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紙の本

開拓者に続け!まだまだ拓かれるべき場所がある!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『学校司書』という仕事をご存じだろうか。
『学校司書』とはその名の通り、学校図書館に勤務する司書のことだが、そこまではわかっても学校司書がどのような仕事をしているのか想像してみるとピンとこない方のほうが多いのではないだろうか。
本と子どもたちに囲まれた優雅で穏やかで恵まれた職場、などというイメージを持つかたがこの本を読んだら、驚かれるに違いない。
身分は臨時や嘱託職員、、学校内での図書室の位置づけは「片隅の施設」、研修もままならず、教師中心の職場では司書は低くみられ、予算もなく、何か提案しようにも迷惑がられる、そんな環境で、自分にできることを探し、誇りと専門知識を持って子どもたちの成長に寄与することをかんがえなくてはならない仕事である。
近年、学校図書館の注目度が上がりつつあり、ようやく認識されつつある仕事であるが、40年以上も前にこの仕事就き、以来こつこつと活動しながら活発に活用される学校図書館を作り上げた著者の功績は大きい。
そして、この著者の方法の素晴らしいところは、周囲との信頼を築き、たくさん本を借りる子を増やすより、本を読んでいなかった子どもに本を読む喜びを与えることに力を入れていることである。学校という場は出来のいい子はいい思いをすることが多いが、そうでない子にも同様に喜びとチャンスを与え、結果的に全体のレベルを上げた手法は感動的である。
この本は本や図書室を活用するということが子どもや教師にとってよい効果をもたらす、ということを子ども一人ひとりに誠実に向き合うことから地道に広げていき学校図書館という場所の可能性の大きさを全国的に理解させた偉大な開拓者の記録である。

近年、注目度が上がってきたとはいえ、まだまだ学校図書館という場が子どもたちの教育に大きな役割を果たしているとはいえない現状だ。
しかしそしてこの本はそんな学校図書館をますます発展させていこうと思う人たちの足先を照らす灯りになる。そして、先駆者というものがどういう心掛けで仕事をすすめていけばよいか、ということを考えるきっかけになる一冊である。

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紙の本

紙の本はしれ、きかんしゃちからあし

2010/08/02 23:13

おしつけがましくなく、戦争と復興について語りかけてくれる絵本

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私が小学生だった30数年前には戦争を知っている人や、戦後の発展と復興について身を持って体感した人が身近なところにいくらでもいた。
そういった人たちの話は知らず知らず私たちの心の栄養になり、豊かさを支えてくれているものに対する犠牲のようなものを考えるきっかけにもなった。
しかし今、子どもたちにそういったものを語りかける人たちは減り、日本に戦争があったこと、破壊された国が発展してきたことなどを子どもたちが知る機会はほとんどないのではないだろうか。

伝えていかなくてはいけない、かといって、私たちが知りもせずに戦争や復興を語っても説得力がない、そんな今の時代にはこの「ちからあし」の物語が必要なのではないか、と考えている。

また、この絵本の「ちからあし」の絵は活躍する場面ではその名の通り力強く、そしてまた別のページでは哀愁に満ちている。

この絵と物語はそれが史実に忠実であろうとなかろうと読者をひきつける力がある。そしてこの物語に説得力を加えるエピソードが奥付の一番最後の2行
※『「ちからあし」と同じ「9633」の蒸気機関車は、京都市下京区の「梅小路蒸気機関車館」に行くと会うことができます。
という一文にひっそりとあらわしてある。

なお、この「ちからあし9633」には京都まで行かなくても
「おじいちゃんのSLアルバム」佐竹靖男/写真原案 (この絵本の著者でもある)小風さち/文 たくさんのふしぎ傑作集 福音館
の38ページを開くと会うことができる。

「はしれ、きかんしゃちからあし」を子どもたちに読んであげた後、ぜひ「おじいちゃんのSLアルバム」を見せ、「ちからあし」のものがたりが絵空事ではないことを子どもたちに伝えていくのが、遠くなった戦後に生きる私たち大人の役割ではないか、と考えている。

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紙の本

紙の本二人の小さな家

2010/08/01 09:11

インガルス一家の生き方には国籍・時代・年齢を超えて読者を励ます力がある。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ローラ・インガルスの「大草原の小さな家シリーズ」の中に「長い冬」(岩波少年文庫)というものがある。「大草原の小さな家」シリーズはどれも現代の生活とは比較にならないくらい大変な思いをしながらも生活する開拓者の生活が書かれているが、この「長い冬」はその中でもとりわけシビアな作品である。
読んでいてつらくなるようなこのシビアな物語は、生きる喜びで締められる感動的な結末を迎えるが、この作品を締めくくるあとがきに寄せられた著者ローラから日本の読者に宛てた手紙(太平洋戦争の終戦3年後!)がまた素晴らしい。

『あなた方は遠い国に住み、ちがった言葉を話しても、それでも人間の生きていくうちに本当に値うちのある物事は、年月が過ぎても、一つの国から他の国にうつっても変わることはありません。』

『いつも一番いいことは、正直で誠実であること、自分に与えられているものを十分にいかせて使うこと、小さな日常の喜びを幸福だとかんじること、苦しい時もげんきにしていて、危険な時に勇気を持つこと』

というものだが、このあとがきを読んだときに、自分が幼いころからローラの物語が大好きだった理由がすとんと腑に落ちたような気がした。

このローラの読者の心を照らす太陽のような精神の原点をこの「クワイナー一家の物語」の完結編である「二人の小さな家」を読むと見つけることができる。

この物語はローラの父であるチャールズと母であるキャロラインが恋に落ち、お互いを尊重し、家庭を築く決心をするまでの物語である。
まじめで責任感の強いキャロラインが明るく愛情にあふれたチャールズにひかれて行く様子は読んでいてこちらまで幸せな気持ちになるし、悩みに悩み破裂しそうになった心を母親に打ち明け、『悲しみがあるからこ喜びがあり、人生が輝くのだ』という智恵をもらうところには、つらい時に読み返せるようにしおりを挟んでおきたくなる。

この作品は「大草原の小さな家」シリーズが大好きな人にはもちろん、ローラの一家とまだ会ったことのない人にもぜひお勧めしたい、読んで勇気をもらえる一冊である。

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紙の本

紙の本津波ものがたり 改訂新版

2011/12/06 08:53

大災害に私たちができることは、貴重な情報を生かし伝えていくこと。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本は明治以降日本の沿岸で津波の被害に遭った人たちの物語(実話)を収録し、物語の後に一つ一つ科学的な解説をつけ加えて構成されている。そして、6つの物語の後で「タイとヒラメと先生の対話」という形でさまざまな被害例を振り返り、私たちがどのようにふるまうべきか考えさせている。
本のあとがきで著者は「この本に書いてある物語は、架空のことではなく、すべて、実話や記録をもとにしたものです。」と書き、「知識や心得の部分を、できるだけ正確に記述する」ことに「一番神経を使った」そうである。
そこまで著者が心血を注ぎ、自然災害へ警鐘を鳴らしていたこの本の内容は最初の出版では残念ながら世の中にしみわたることがなく、巻末に追補されている5つの地震でもたくさんの犠牲者が津波で出てしまったのは周知の事実である。
なぜこんなことになってしまったのだろう。
津波の襲撃にはいろいろなパターンがあり、以前被害に遭った時の経験がその後たくさんの人の命を救う場合もあるが、逆にその経験が命取りになった場合もある。
しかし、この本が生かされなかった本当の原因は、津波は遠いところで起こったことであり、またたとえ次に地震が来たとしても自分たちは克服できるだけの技術の力をもっていると錯覚していたからではないか。
また、この本に書かれている貴重な事実は現代とは関係のない遠い昔話だと慢心していたのではないだろうか。
この本が出版されたのは1990年。1990年の日本といえばバブル景気の中にあり、日本は貧しい時代から抜け出し、これからも発展し続ける気分があふれていた頃である。第二次世界大戦から立ちあがってきた日本はどんな災害でも克服できる、そんな雰囲気が世の中にあったのかもしれない。

しかしこの本を3月の災害でたくさんの犠牲者を出した後の今読んでみると、私たちは改めてたくさんの過去の経験を知り、その知恵を多角的に判断しなくてはいけないこと、また、どんなに時代が進もうと、技術が進歩しようと、人間には自然の摂理に対抗するだけの力はなく、ただ自然の前には謙虚でいることしかできないということがわかる。

そしてその経験を伝えるものは一方的なものであったり、簡単に消されてしまうようないい加減な情報(集)ではなく、さまざまな事実を積み重ねそれを丹念に検証している良質な情報(集)でなくてはならないということも、間違った情報を信じたためにたくさんの命が失われてしまったという悲しい事実が伝えている。
この本は、岩手の沿岸部で漁師の七男として生まれ、大津波を経験した著者がその犠牲を少なくしようとした貴重な情報源である。
このような本を私たちは記憶し、この本の警鐘に耳を傾けなかった私たちがどうなったのかという苦い事実も伝え続けていかなくてはならないと思う。

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紙の本

紙の本獣の奏者 1

2010/10/09 22:44

の作品が児童用文庫で出版される意味ー子どもに作品のタイムカプセルを埋めること。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

近年、人気のある作品はメディアの壁を易々と超えて、映画に、コミックに、アニメになり幅広くファンを取り込むことに成功しているものもたくさんある。
この作品もそのようなものの一つとしてアニメやコミックになり、児童書ではなかったこの作品がはじめて世に出た時に目指したものよりも若干低めの年齢層をとりこんでいるように思う。なので青い鳥文庫という児童向けの文庫として出版されたのは当然の流れだと思う。
今小学校高学年の子どもたちに
「『獣の奏者』っていう本は知ってる?」と聞けば
「エリンがでてくるものでしょう?」と即答されることも多い。
子どもたちの目につくところにこの本を置くと関心度が高く、実に気軽に子どもたちはこの本を手に取り、アニメと重ね合わせて読むことができる。
子どもから見ればこの本のストーリーは“不幸な事件で母を亡くした女の子の成功と冒険の物語”であり、それなりに心に残ることだろう。
ちょっと本を読める子どもの心をこの波乱万丈の女の子の物語は掴んでしまう魅力がある。
しかし、大人の目で読めばこの作品は、ただ女の子の物語なのではなく、ファンタジーという形をとりながら、実に現実の世界の不条理や課題を織り込んでいるということはすぐに気付くであろう。
つまりこの作品は自分の成熟度や社会とのかかわりによって感じ方が幾重にも変わる、一つの作品で二度も三度もおいしい作品なのである。
難しい言い回しに解説がつき、漢字にもルビが付いている青い鳥文庫版のこの本をアニメやコミックなどがきっかけで手に取った子どもたちは比較的容易に読みこなすことができる。そしてその子たちがやがて大人になり、懐かしさからこの作品の大人向けの文庫やハードカバーを手にとって読んだ時、子どものころには気がつかなかった伏線をたくさん発見し、作品の奥深さと込められた意味に気付き、読書というものの奥深さを感じるに違いない。
この作品が青い鳥文庫として出版されたのはエリンの少女時代である「王獣編」までである。今これを青い鳥文庫で読んだ子どもたちはすっかり完結編まで読んだと思いこんでしまうかもしれない。しかしこの作品には実は続きがあり、大人として生きるエリンの作品があることを知れば、大人になったエリンと再会できたことを喜び、よりエリンに共感を抱くに違いない。
大人のエリンはけっして幸福になったわけではないが、自分の信念を貫き、新しい時代の種をまいている。
私はこの本を読んだ子どもたちが、作者がこの作品に込めた世界観や大人になった主人公と再会をする喜びをいつか味わう日が来ることをこっそり想像しながら青い鳥文庫のこの作品を子どもたちに薦めたい。
子どもたちが大人になってこの作品に再会し、主人公のその後をたどったとしてもけっして失望することがないという確信が得られるだけのクオリティーの高さがこの作品にはある。そして、作品に込められた意味は時がたっても色褪せることはない、と思っているからである。

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紙の本

幼児に媚びない硬派なリアル系。派手さはないがその分飽きの来ない魅力的な絵本

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『どうぶつしりとりえほん』という書名、しりとりというものをはじめて覚えるような年齢の子供向けの本、というと、どうも人気キャラクターになるようなかわいらしいイラストが並んでいるようなものを想像しがちである。
しかしこの本、表紙の絵をみてもわかるとおり、図鑑や科学絵本のイラストのような毛の一本一本まで緻密に書き込まれているリアルな動物の絵がページを開いても開いても並んでいる。
「らっこ つぎはなにかな。」「こあら つぎはなにかな。」というような、言葉を覚えたての年齢の子どもたちに語りかけるような軟らかい文章に、緻密でリアルな絵の本で、ユーモラスなしりとり絵本を見慣れている者にとってはちょっとしたギャップがある。
しかし、実際にこの本を親子で読んでみてほしい。
「らっこだね」「こあらだね」「らくだだね」というようにしりとりのルールを確認しながらゆっくりと読んでいくと、イラストの一つ一つがとても温かく、動物の親子の仲の良い様子と読者である自分たちの様子を重ねながら読める、ということに気付くだろう。
そう思って読み始めると、無表情に見えた動物の親子の表情が急に生き生きと愛情深く感じられるようになる。しかもこの本は繰り返して読むほどにいつも同じような温かさを感じたり、イラストから新しいものを読みとったりできる、上質な生地でできた仕立ての良い服のような魅力がある。
この本はシンプルで地味ではあるが、そこが読者をいつまでも飽きさせず、時代を超えて読者に親子で一緒に本を読む楽しを与えることのできる定番の一冊としての可能性を秘めている。
新装版として14年ぶりにこの本が復刊されたことはとても喜ばしいことである。

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紙の本

紙の本ぐるりのこと

2010/09/28 09:07

心を開く種子をそだてたい。それはとても難しいことだけれど。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本に出会うべき時期に出会ってしまった。
いきなり最初の章から排他的経済水域に入った不審船を海上保安庁が銃撃・撃沈したという10年ほど前に起こった事件について考察している部分があるからだ。今日本が揺れている事件を彷彿とさせる。
この頃の事件とは相手側とこちら側の状況が少々違うこの過去の事件について思いだし、10年前から今に至るまで、私たちは全く進歩がないことに気付き、少し悲しくなる。
私たちには猛々しく生きるか卑屈になるしかないのだろうか。主義も思想も違う相手に対してお互いの物語を胸を開いて理解しあい、両方の思考回路を自然に変化させていくことはできないのだろうか。
著者は感受性の鋭さで、身の回りの生活にかかわる人たち、旅先の人たちや、動物や植物に対してまで「共感できるものがあるのではないか」と心を開こうと努める。それでも相変わらず山小屋の隣人とはささやかな攻防が続き、旅先のガイドとはなかなかしっくりとはいかず、共感や理解とは正反対の方向の事件が起こり、世の中が動いていく。
しかしこの著者はあきらめず、個人としてできる気の遠くなる作業を続けていこうと決意している。
自分というものを持ち卑屈にならず、ちがう物語を持つ相手に心開くことはとてもむずかしい。夢中になってのめりこむうちにお互いの間に横たわる断崖から落ちてしまいそうになる。それでも著者は心を開き他者と共感できる新しい物語を紡ごうとするのは、著者はウエスト夫人と出会い心を開くという姿勢の種子を受け取り、大切に育ててきたからだろう。そして私もこの本を読むことでタンポポの綿毛のようにはかない心を開く種子を受け取ることができたのではないかと思う。
私はこの種を大切に育てたい。まずは身のまわりの「ぐるりのこと」から。ひそかに共感しあう相手を増やすことで、たくさんの人が紡ぐ新しい物語を作り上げるきっかけになるのなら。

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紙の本

紙の本小さいおうち

2010/09/23 11:55

知られざる時代のかけらを見事に結実させた作品

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

時々お年寄りに対して「おばあちゃん」などと呼びかけ、幼児言葉で話しかける場面を目にすることがある。
話しかけているほうからすれば、きびきびと反応することのできない相手に対して優しく気をつかっているつもりなのかもしれないが、きびきびと反応することができない、というのはそのお年寄りのほんの一部分でしかない。
そのお年寄りの中には、幼児言葉で話しかけている者には想像のつかないくらい生々しい感情の動きがあり、人生を乗り切ってきた過去がある。
人をひきつけてやまない美しい奥様には自分を閉じ込めておけない恋心があり、かわいらしい坊ちゃまには冷静に母親を見つめる目がある。
戦争に巻き込まれたころの時代には、知らず知らず少しずつ人生を狂わせていく全く普通の人たちが存在し、そういった瑣末でありながらそこに存在していた生活のにおい、感情などの時代のかけらの多くは語る人、書きとめる人もいないままに通り過ぎていく。
この作品は、そんな時代のかけらを寄せ集め、現在に生きる健史の手ををとおして過去と今がつながる一つの見事な像として読者の目の前に見せてくれる。

直木賞受賞作としてふさわしい素晴らしい作品だった。

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紙の本

紙の本天国旅行

2010/08/16 08:16

三浦しをんの才能の福袋

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人は光のような善の面と、闇のような悪の面を両方抱えながら生きている。
その光の部分をさわやかに、闇の部分を目をそらしたくなるほど緻密に書く作家、三浦しをんのこの一冊はすごい。

今までの三浦しをんの作品で、光の部分がさわやかに描かれている作品の代表が『風が強く吹いている』や『神去なあなあ日常』だとすると、闇の部分のどうしようもない不条理が描かれているのが『光』かもしれない。
そして、今までの作品ではもちろん善悪入り混じった部分はあったが、「これは明るい三浦しをんだ」とか「これは悪の三浦しをんだ」などと読者は分類しながら読んでいたのではないだろうか。

しかし、この本は人の善と悪の部分、表面的に見える部分と心の奥の本音の部分などが入り混じった簡単に分類できる本ではない。

死ぬつもりで樹海に入り、見知らぬ青年と数日過ごすうちに少しずつ変わっていく明男の心境を描いた『森の奥』

一緒に年齢を重ねてきた穏やかな老夫婦の青く熱い日々と乗り越えてきた危機についてユーモラスに淡々と描く老作家の『遺言』

祖母の初盆に来た不思議な客がつなぐ二つの家族の物語『初盆の客』
 
友人の善意の裏側にあるものをうっとうしく感じながらも強い拒絶がなかなかできない悦也の物語『SINK』など。

一つ一つの作品をよみながらこれは「善の作品」これは「悪の作品」と分類できるものもあるけれど、簡単に分類できない『星屑ドライブ』のようなものもあり、この『天国旅行』はそういうものがすべて一冊の本になっている、お得な短編集である。
そして読みながら、才能のある作家とはこういう作家なのか!と実感できてしまうこともこの本の大切なお得要素である。

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