hharuさんのレビュー一覧
投稿者:hharu
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2012/02/02 10:58
「立場主義」いう視点
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一部の人々の間では早くも今年の流行語大賞にノミネートされた感があるのが、「東大話法」という言葉だ。著名なオピニオンリーダーや学者などの言説をバッサバッサと斬っていくところは痛快で、その点に期待する読者にももちろんお勧めできるが、むしろその後に「立場主義」を論じている4章が本書の真骨頂だと思う。
マルクスが分析したように「資本主義社会」は「商品」で構成されているわけだが、著者の言う「立場主義社会」は「役」で構成されているということにもなるだろうか…。“日本の資本主義は西洋の資本主義とは違う”などと言われることがあるが、そうした点にも関係ありそうだ。また、よく言われる「公」と「私」、「建前」と「本音」といった対立軸とは別に、特に日本には、「立場」と「意志」とでも言えるような対立軸があるのかもしれない。さまざまなテーマを考えるヒントになる書物である。
2012/02/02 17:33
教育というプロセスの実践
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
“結果よりプロセスの方が大事”といったことを述べる本はいろいろあるわけだが、それを自らここまで実践してみせた書物は珍しいのではないか。著者も書いているように、本書の「結論」だけを読むことにはあまり意味はない。1ページ目から順に読んでいき、著者と一緒に考えていくプロセスじたいが醍醐味となるように書かれており、その意味でも正にこれは「教育的」な書物と言える。
内容としては盛り沢山だが、例えば、論じられている「浪費」と「消費」の区別というのは、「財」と「サービス」の区別に通じると思う。とすれば、無限に消費されるだけのサービスではなく、提供することが楽しみでもあるサービス(ボランティア?)というものが、やはり重要になる気がする。
ところで、本書で批判の対象の一つになっているハイデガーの「決断」という言葉は、創文社のハイデッガー全集『形而上学の根本諸概念』では「自己封鎖解除即決断」と訳されている。「鍵をあけて開く」という語源や、「自分を開く」という意味を訳語に反映させるために、このような異様に長い訳語を作ったらしい。つまり単純な「決断」ではないので、そうした点も踏まえて再読してみたいものだ。
紙の本現代ドイツ政党政治の変容 社会民主党、緑の党、左翼党の挑戦
2012/02/09 16:44
隣の芝生は青い?
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
読みながら思い、そして読み終わっても思うのは、日本の社民党や共産党とはえらい違いだなあ、ということだ。もちろん、政治学者の本だし、特に外国人である日本の政治学者が整理して書いている本だから、「隣の芝生は青い」という印象を与える内容になっているのかもしれない。
それにしても、超党派シンクタンクの「設立宣言」などは一種の感動的な美文になっているし、各党が政策を理論的に議論し、綱領を改定し、新たな政治的同盟の道も模索していく、といったプロセスには感銘を覚える。翻って我が国の左翼陣営を見てみれば、自らの誤りは決して認めず、他党や政府に対して、きれい事の批判を繰り返しているだけであり、残念としか言いようがない。
しかし、政党を構成しているのは一般の党員であり、つまり一般の有権者だ。政治不信、政党不信の今の日本において、タイムリーな本かと思う。
紙の本愚民社会
2012/02/07 16:23
「日本はまだ始まっていない!」
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
書籍の帯には、大きく「日本は既に終わっていた!」とあるわけだが、むしろ大塚氏が言う「日本の近代はまだ始まっていない」といった言葉をキャッチにした方が、ふさわしかった気がする。
本書の主題の一つは「日本は民主主義社会ではない」ということになるが、それはマスメディアなどがよく言う「政治に民意が反映されていない」とか「民意を問え」といった話では、もちろんない。何しろ、日本国民のことを宮台氏は「田子作」と呼び、大塚氏は「土人」と呼んでいるのだから、そのような「民意」を尊重すべきという話にはならないだろう。
民主主義論の一つに「熟議民主主義」というものがある。そこで重要とされるのは、「『ある意見を何人の人が賛成したか』ではなく、『その意見がいかなる根拠に基づいているか』である」だという(『語る—熟議/対話の政治学』風行社)。“愚民社会ではない社会”とは、一つには、“多数決に任せてしまうだけではない社会”と言えるのではないかと思う。
そのためには「田子作」であり「土人」である私たちはどうすればいいのだろうか。大塚氏は「知らねーよ」と答える。結局、ありきたりではあるけれども、誰かと時々は政治の話もしてみるとか、呟いてみるとかによって、少しずつ自分で考えていくしかないのだろうと思う。
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