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池袋徒歩圏内 山田由梨

目白ジャスミンティー【第二話②】

 駅に近づいてきたところで、女子大生とすれ違った。ふたりとも少し怒っているように見えた。片方がわりと大きい声で話していたので、顔を見ると、一瞬目があった。たぶん「超不公平」と言っていた。

 彼女は、スカートをはいていて膝から下あたりが外にでていて寒そうだなと思い振り返ったら、向こうもこちらを見ていた。

 目が腫れていると思われたのかもしれない。昨日、たくさん泣いたことがバレて、何があったのだろうと噂されているのかもしれない。

 

「修羅場じゃない?」

「修羅場だね」

 

 わたしはうつむいて、早歩きをする。しっかりジーンズに覆われた足を細かく前に出す。

 それにしても未来がある。この寒空の下、多めに肌色を出し、大きな声で不公平に怒るだけの自信と未来がある。

 わたしは、うつむいて顔も肌色も隠している。今日はまだ、一度も声を出していない。心の中で「あーー」と声を出す。細かく歩く。どんどん背中が丸まっていきそう。丸まってゆっくり転がっていきたい。誰にも中身を見られない丸い玉になって転がって、道を行きたい。大きな重い玉が、横断歩道を渡り、短い階段を降りて、線路沿いを転がる。誰もくこともなく、器用にゆっくり転がっていく。転がりながらわたしは、やっぱり昨日の夜のことをぐるぐる考える。

 

7

 すれ違った人の顔を覚えていることなんてほとんどない。

 その証拠にわたしは「超不公平」の彼女の顔をもうほとんど忘れている。

 だから平気。

8

 店につけば何か言われるかもしれない。だいたい店にいるのは店長の明美さんか、常連のマコトさんだ。明美さんは、60歳より上くらい。マコトさんは50歳くらい。

 マコトさんは、セクハラみたいなことを平気で、飽きずに、ペラペラと、いつも言う。それしか脳みそがないみたいに。あるいはそれが義務みたいに。若い女を見たら、お尻のこととか、肌のこととか、髪のこととか、恋愛についての質問とか、言わないといけないみたいに言う。全く自分に一切関わりのないことについて、コメントをしなければいけないと思っている。50代の男性の義務として。

 そんなマコトさんだから、きっとわたしの目について何か言う。

【プロフィール】

山田由梨(やまだ・ゆり)
劇作家・演出家・俳優。アプレ所属。劇団 贅沢貧乏主宰。2012年に劇団を旗揚げし、全ての作品のプロデュース・劇作・演出を手がける。また、映画やCM等に俳優として出演する傍ら、雑誌へのエッセイ寄稿なども行う。

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