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池袋徒歩圏内 山田由梨

目白ジャスミンティー【第三話④】

16

 家に帰って来てから、しばらく線路沿いのガードレールに座りながら自分の家を眺めていた。

 眺めるために座っていたのではなくて、家の中に入った時にまとわりつく、生活の匂いがムンムンするぬるい空気が、シャツと肌の間とか、鼻とか、髪の毛の間とかにはいってくるのが、ちょっと嫌というか、ちょっと待ってと思ったからだ。

 わたしの家、というか彼の家は、踏切沿いの道から少し中に入ったところにあるアパートの5階で、踏切沿いのガードレールに腰掛けながらでもリビングの窓を見ることができる。

 今は電気がついておらず暗くて見えないけど、あの窓にはモスグリーンのカーテンがかかっているのだ。電気がつけば黄色みがかった光が、きれいなモスグリーンを、他人の素敵な家みたいに透かすだろう。

 何の色を選べばいいかわからないような時、けんいち君は緑を選ぶ。心を穏やかにする効果があるからだそうだ。

 

「何してるの」

と、声がして振り返ればけんいち君がそこにいた。いつも通りのスーツだけど、家の外で見るのは少し久しぶりだった。なんだか立派に見える。

 特に、と言おうとしたら、

「帰ってくるの待ってたの?」

と、ちょっと笑って言った。

 そんなこともなかったし、そもそもけんいち君がこんなに早く帰ってくるのも珍しいのだし、まさかと思ったけど、曖昧に頷いた。

「入ろうよ」

 そういうので、けんいち君について歩き出した。手を繫いだ。

 こうしてわたしは、部屋に入り生活の匂いに包まれて、15秒後には生活の匂いがすることすら忘れる。帰宅とはそういうものだけれど。

(つづく)

【プロフィール】

山田由梨(やまだ・ゆり)
劇作家・演出家・俳優。アプレ所属。劇団 贅沢貧乏主宰。2012年に劇団を旗揚げし、全ての作品のプロデュース・劇作・演出を手がける。また、映画やCM等に俳優として出演する傍ら、雑誌へのエッセイ寄稿なども行う。

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