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連続インタビュー<クリエイターズ・ファイル>

Creative Works Interview17 インターナショナル洋酒バイヤー/国際アルコール・ジャーナリスト
花牟田 幸彦(58歳)

各界のトップクリエイターの仕事ぶりに密着し、情熱の源を探るインタビューシリーズ。今回は、酒を求めて世界を飛び回る人物の姿を追った。

撮影:黑田菜月

At Home Ground

―噂でですが、「入手できないお酒はない」と豪語してらっしゃったと伺ったことがありますが、本当なのでしょうか? 
 いえいえいえ。話がだいぶ大きくなってますわ(笑)。でも、まあ、一応要望には応えているつもりですけどね。たぶん(笑)。
―では、読者の皆様にあらためてお仕事の内容を教えていただけますか? 
 はい。全世界のお酒全般の買い付け&プロデュースをやらせてもらったり流通させる仕事をしております。ワイン専門、ウイスキー専門の人間もいますが、僕は酒ならなんでもやる。基本、アルコール入ってりゃなんでも(笑)。アルコール博士と呼んでください。他にも個人の依頼のお酒や、映画のセットで使うお酒、パーティーの席でのお酒のプロデュースなどなど、幅広くやっています。まず、僕はね、どんなオーダーにも応えるのがルール。入手できないことはあるが、それに代わる何かは必ず考える。それが僕のお酒探しのテーマです。正直、頭の中はいつも酒のことばかりですわ(笑)。もちろん、仕事終わりに飲む酒のことも含めてね(笑)。
―いや、本当にすごいですね。
 自慢みたいになってまうけど、何年ものの酒が世界中のどこの蔵に眠っているか、全て頭の中に入っています。嫌なんですわ、お客さんの要望に負けるの。

↑ノルウェーウイスキー工場長ジェイミーさんとの一コマ

―こちらのバー「RラクーニACOO-NI」は花牟田さんのお店ですか?
 そうです。ゆうても関西人なんでね。商売はやらせてもらわんと。いやうそうそ(笑)。本当の話、ゆっくり仲間とお酒を飲み好きな時間を過ごす場所が欲しかった。気楽にね。だから、ラクーニ。僕が海外へ行って仕入れた酒は、すべてここ「RACOO-NI」に揃えてあります。まあ、自分がただ飲みに来たいっていうのがかなり大きいですが(笑)。
―ははははっ(笑)。
 ちなみに、おたくの好きなお酒は? 
―僕はピート香の強いモルトウイスキーですかね。
 ほう〜。ピートかー。ほんならね、そこまでウイスキー好きならこのボトルがオススメですわ。これね。インドネシア北部でしかとれない酸性のピートをつかっている「ピート・アルモワダ」。これがね、貴重な酒でね、基本的に大富豪にしか回らないんですよ。造り手と仲良くならなければ流通させてくれへん。この1本のために何日も何日も泊まり込んだものですよ。
―初めて聞くお酒です。
 酒の世界はほんまに広いですからね。結果、酒の知識も、世間にはずいぶん間違った形で回ってますよ。ワイン好きを自認する人も白や赤や言いますが、正直、他のワインを知らへんのとちゃいますか? もともとワインなんかは緑も青も茶も黒もあったんです。というか、今でもあるんです。たまたま有名になったのが白と赤なだけなんですよ。

↑自ら経営する「RACOO-NI」は、バーというより花牟田博物館といったところ

―初めて聞くお話です。
 「ギス」なんてすごいですよ。ワインとウイスキーの中間に位置するドイツの「ギス」ってお酒。地元ではワイスキーって言われてる。作り方としては、途中までワインの工場でワインをつくり、それを急にウイスキーの工場へ運び、混ぜてしまう。お酒もびっくりですわ。いきなり留学させられるようなもんやから(笑)。けど、きちんとした由来があるんです。180年も前、ワイン工場の従業員が賃金をめぐり、ストライキを起こしたんです。従業員は途中でワイン造りを投げ出してしまった。それを聞きつけたウイスキー工場が、「何やってるんだ! もったいないだろ、これ持って帰るぞ」とそのワインを引き取り、ダメ元で同じ樽に混ぜてみたのが「ギス」の始まり。
―いろんなエピソードがあるのですね。
 ほんまにおもろいでしょ。背景を知って飲むと、酒はさらにうまいんですわ。ギスってね、結局うまいんですが、違う酒が合わさっている分、瓶の中の雰囲気ゆうか、空気が悪いんです。これが「ギスギスする」という言葉の語源なんです。ほんまに嘘のようやけど、おもろいでしょ。このように、うまい酒はみんなほんまにストーリーを持っている。人間と同じですわ。だから、まず、酒の前で酒の話をしてやる。そうするとね、不思議なもんで、酒ってさらにうまくなりよるんですわ。褒めりゃ伸びるんやね、酒って(笑)。

↑ノルウェー・ホルベルト州では一番の面積を誇る工場

His story

―伝説のバイヤーと言われていますが、これまでにあった大変な依頼は何かありますか?
 あった、あった(笑)。10年前に、ハリウッド映画のあるクライマックスのシーンに合う酒を探してくれという注文がありまして。びっくりですわ。それはやったことない(笑)。主演のマーティ・ロリアンが出所して初めて飲む酒を用意するという任務だった。それは任せるって。ほんで何週間も迷ったけど、最後には1本のビールに決めた。
―特別な1本なのですか?
 バドワイザーというビールだね。アメリカのだったかな。そのときは知らなかったけど、あれ有名な酒だったんですわ。「キングオブビア」とか言われてて。
―なるほど。なぜそんなに幅広く依頼が舞い込むのですか。
 うーん、なんやろ。やっぱり、品評会での多くの優勝がきっかけちゃうかな。WAC、ワールド・アルコール・チャンピオンシップだとか、状況に合わせた酒を持ってくる状況別アルコール・チョイスバトルで優勝したのも大きかったかな。
―ズバリ、お酒の魅力とは?
 わがままなところかな。だって、ちょっと工程や天気で全く別のものができるんですわ。酒をよりよく知るには結局は土地を知るのがいちばん。酒って、その土地の土壌や自然や歴史が蓄積してきたものが、思わず漏れ出した結晶ですわ。僕は蒸留という言葉は好きじゃないな、地域のお漏らしと言いたいね。

↑注がれる音をも見極める花牟田氏のテイスティング

Go to Purchase

(初夏、7月)
―買い付け先のノルウェーまで密着取材させていただき、ありがとうございます。
 はい、こちらは、ノルウェーウイスキーをつくっている工場ですわ。日本ではまだまだみたいやけど、これ読んでくれている皆さん、ほんまに2、3ヵ月後流行りますよ。
(ここで花牟田の買い付けが始まった。工場長のジェイミーとギリギリの交渉が続く。)
 今年は、どうだい、出来は?
ジェイミー 少し天候が荒れたけれど、問題なしだ。
(テイスティングする花牟田)
 うまい。少し香りが弱い。ろ過は何時間? でも、ジェイミー、これだと少しディスカウントしてくれないとダメかな。
ジェイミー でもこれ以上は……。
 申し訳ないけど、俺もわざわざ日本から来てんねん。そんじょそこらのバイヤーちゃうんねん。これ以上下げられへんいうなら、これを機に、取引はやめさせてもらいますわ。ほな。
ジェイミー …………。なんだよ。
―シビアな現場を見せていただきました。
 うーん、厳しいところは厳しいよ。だって、お酒に失礼やし。本当に飲みたい人に飲んでもらいたいし、ここは終わりやね。そういうあくどい人格やったてことですわ。
―本当に今日はありがとうございました。
 今日は僕もうまい酒、飲まれへんわ。ええように書いとってください(笑)。
 今度はうちに取材に来てください。うちは使用済みのコルクで作ったコルクハウスなんですよ。ログハウスのコルク版みたいなもんですわ(笑)。
―最後に一言お願いします。
 これまで世界のお酒に世話になっているわけやから、最後まで酒に関わってたいな。棺桶に酒を入れるのはもちろん、鼻にはコルク詰めてほしいな。できたら、今まで仕入れた酒を大きな瓶に入れて僕をアルコール漬けにしてくれたら本望ですわ(笑)。

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