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連続インタビュー<クリエイターズ・ファイル>

Creative Works Interview 44 伝説の審判
1988年「ハノイの混乱」の主審

犬塚義実 67歳

クリエーターの偉業に迫る当シリーズに、日本審判界の第一人者が登場。
日本中を騒がせたあのジャッジについて、当事者が真相を激白した!

撮影=浅田政志

JUDGE 1

「神の目」による名ジャッジか。はたまた世紀の大誤審か――。
 サッカーファンのみならず、日本中に大議論を巻き起こしたのが、スポーツ史上に残る1988年「ハノイの混乱」事件である。喧騒の中心には、この男がいた。犬塚義実、当時37歳。
 アジアのサッカークラブチームがこぞって目標とし、覇権を争うのが「TST 東洋サッカー選手権カップ」だ。事件は30年前の決勝戦で起きた。日本の強豪ダークブルーズは対戦相手グレードッグスの本拠地ハノイへ乗り込み、白熱した試合を展開。前半、エースのマサこと、土屋正次(まさつぐ)がヘディングで決勝ゴール! そのままダークブルーズの優勝となったが、試合後に、「ハンドの反則があったのでは?」
 との声が沸き起こる。サッカーのみならず、あらゆるジャッジの第一人者だった犬塚主審には、おびただしい数の称賛と批判が浴びせられ、当時のハノイへ同行した応援団、選手含め、ハノイ全体が大混乱に陥ったのだった。
 そのハンド疑惑は、いつしか「天の両手」と呼ばれるようになった。それから30年。闇の中だった真相を明らかにする機会が、ついにやってきた。沈黙を守ってきた犬塚氏と土屋氏による対談が実現したのだ。その模様をここにお届けしよう。

それから30年。
そのハンド疑惑は、いつしか「天の両手」となった──

6月3日前半12分、「天の両手」は突然に現れた。自らの目で確かめたと言う犬塚氏

――おふたりが会うのは、1988年「ハノイの混乱」以来ですか?

犬塚「その通りです。土屋さん、本当にお久しぶりです。あれから30年、お互い齢をとったものですね。騒動のあとは日本中から監視されていたような状態でしたので、私たちが会えるはずもありませんでしたよね」
土屋「その通りです、こうしてまたお会いできてよかった。お変わりなく」
犬塚「頭だけは少し変わりましたよ」
犬塚土屋(笑)

――さっそくですが例のあの試合。「疑惑のゴール」との声も多かったのですが、真相は?

犬塚「もう30年も経っていることですし、何も隠さず話すつもりでここに来たわけですから、正直に話しますよ。アメリカのジャッジの神様マーク・ハイマー氏の有名な言葉があります。『審判ライオンならず、シマウマであれ』。この言葉がすべてのジャッジの世界に伝わる極意なのです。シマウマが草原全体を俯瞰で広く見渡すように、審判は360度を見なくてはいけない。ライオンのように目先を見るだけではダメなのです。私は断言できます。あの時の土屋選手はまちがいなくヘディングをしてゴールを決めました」
土屋「自分もそう信じているんですが、フィールドの選手たちはプレイに必死ですべてはジャッジにお任せしているつもりです。本当に記憶がなくて」

――なるほど。物議をかもした「天の両手」と言われる映像が残っていますが、ご覧になられましたか?

犬塚「もちろんです。30年経ってもスペシャル番組で取り上げられていますから(笑)。何度も何度も拝見しました」

「ハノイの混乱」から30年の時を経て力強く手を握り合う犬塚氏と土屋氏

JUDGE 2

――土屋選手が両手でボールを押し込んでいるようにも見えるのですが?

土屋「そうですね。故意ではありませんが、僕がボールを両手で巻き込んでいるようにも見えますね……」
犬塚「私が本当に伝えたいことは、みなさんに信じてほしい。本当に『天の両手』はあるのです。『天の両手』が味方してゴールを導いてくれたのならそれはチームメイトという考えなのです。私がハンドを見落としたというよりも、神様が後押ししてくれた、この時だけ試合に参加してくれたと考えた方が、絶対にいいのかもしれない。私のジャッジ論はそうなのです」

犬塚に詰め寄るロクイ・ジブゼル選手

――あの瞬間、犬塚さんはよそ見していたとの報道も当時はたくさんありましたが。

犬塚「私は見ていました。審判は見て裁くことが仕事なのです。私はシマウマであれと言われてきた人間です。どこを向いていようと全体が見えているのであれば問題はありません。私は土屋選手のヘディングを見たのです。もし土屋さんが『手で入れた』と告白されても、事実は曲げられません。だって見たのだから。どんなことがあろうがジャッジが言えば事実なのです」

――あの試合はレッドカードがたくさん出たことでも知られます。のちに、「レッドカードの鬼」という異名もつけられましたが。

犬塚「あの時は、1試合で22枚。両チーム全員退場になり、フィールドに立っているのが私だけだと気づいた時は、本当に驚きました」
土屋「僕も退場になりました。相手を蹴ったと言われたんですが、そんなことしてないはず……。ここだけの話、試合後のロッカールームは荒れていました。フォワードの金堀や和田が暴れていたのを覚えています」
犬塚「そうでしたか。私も本当に心が痛かったことを覚えています。しかし、いつも私は目の前の現場だけでなく明日の試合、その先の試合、もっと言えば家庭のこと、前妻との養育費を巡るやりとりまですべて広く考えているのです。目の前の試合がどうか、そんな次元ではジャッジはしていないのです。あ、そうそう。家を整理していたら、あのとき使ったレッドカードが出てきたんですよ、これ」
土屋「イヤな色ですね、今見ても(笑)」
犬塚「私も同じです。あれ以来、ケチャップやイチゴ、赤道、セアカゴケグモ、どれも受けつけないのです」

――そうですか、たいへんですね。ありがとうございました。

「ハノイの混乱」が現世界のジャッジの進化にいきるのであるならば、あれは必要だった筈だと言う

現在の楽しみは孫たちのテニスの審判。脳を動かすには丁度良いと言う犬塚氏

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