中川翔子×成瀬瑛美が考える「電子書籍でマンガを読む楽しさ」

オリンピックイヤーとなる2020年。来たるべきその日に向け、女優・タレント・歌手の中川翔子が改めてマンガと対峙。日本が誇れるポップカルチャーの象徴について、多彩なゲストとともにトークを繰り広げる連載企画。

第2回は公私ともに仲良しの“えいたそ”こと成瀬瑛美さんが登場。でんぱ組.incのメンバーとして活躍する成瀬さんは、アキバカルチャーを心底愛してやまない自他ともに認めるマンガ好き。取材前日もプライベートで会っていたという2人。お互いの電子書籍コレクションを見せ合いながら、賑やかに対談はスタートした。

前編・後編の二部構成、まずは前編をお届け。

中川翔子（以下、中川）本屋にマンガ本を買いに行くことってある？

成瀬瑛美（以下、成瀬）ニーズによってお店は使い分けるかな！

中川私は完全に電子書籍に移ったというか、コミックスと文庫と愛蔵版とカラー版を持っているけど、さらに電子書籍のモノクロ版とカラー版を持っているから何冊買っているんだと（笑）。さらにコンビニで総集編を見つけたら買ってしまうし、マンガという文化・歴史には投資を惜しまぬと決めたほうがいいと思って。

成瀬罪の意識がまったくないというかね。

中川文化を盛り上げるためには我々の投資が必要になってくる（笑）。

成瀬作家さんが潤わないとね、業界が盛り上がっていかないから。

中川引っ越してから限られたマンガだけを並べるようになったんだけど、常に本棚を四次元ポケットばりに持ち運んでいる状況だと思うと電子書籍って素晴らしい。刻一刻と世界に面白いマンガが生まれているとすると、トイレの3分間とか待機の1分間でさえ“無の時間”だと思えてすごくもったいないから、マンガを読めるって寿命を大事にしてる感があるよね。だから電子書籍が子供の頃からあったらすごくミラクルだと思った。

成瀬そうだね、今の子供たちはすごく幸せだね！　あと、何月何日に買ったって履歴が残るのも助かるよね。日記を読み返すかのごとく、こういう気持ちになったからこのマンガを買ったんだって、日記をつけなくても履歴に残るからそれがすごくラク。

中川そうだね。あとは重複しないで買わずに済む。島耕作シリーズは何冊も同じのを買っているけど（笑）、親子喧嘩したときに口を利かなくなっても、島耕作の新刊発売日になるとお互いすっと新刊を出し合って“同じの買ってたね。あはは”って仲直りするみたいな。電子書籍になるとそれが起こり得ないと思ったら、母が本を買って私が電子書籍をポチって買うみたいな。

成瀬紙の感じが欲しくなったらお母さんに貸してもらえばいいんだね。私は一人暮らしなんだけど重複が多くて。

中川一人暮らしでも何を持ってるのかわからなくて買っちゃうよね。

成瀬そう、わからなくて買っちゃう。でも重複するくらい愛が深いんだなと思って満足する（笑）。全然幸せ。あと、本では買いづらいコアな作品も、電子書籍だったら安心して買えるのも助かってるなぁ。

中川（成瀬の電子書籍を見ながら）昭和の不良マンガも入ってるし、『ひめゆりの歌が聞こえる～女の戦争哀史～』っていう戦争マンガも入ってるし、『あさりちゃん』が来たと思ったらエロそうなマンガも入ってる。これはすごいな！　本人がいない間に下着棚を開けている感じ（笑）。人となりが見えるのが面白い。明るいえいたそもドロドロなマンガを読む人なんだと（笑）。むしろ脳の足りない栄養をマンガで補っているのがわかる。

成瀬ドロドロの恋愛マンガを本屋さんで買う自分が許せないの。でんぱ組.incのえいたそは明るいから、そういうドロドロしたものは読まない！って気持ちで生きてるから。別に店員さんも誰も見てないんだけど（笑）、気になるからどうしても買えなくて。

中川えいたそを客観視した自分が許せないと思うんだ。

成瀬そう。だから家の中にいるときは素の自分だから好きなものをポチポチしちゃう。個人的には表のえいたそは紙で買って、裏のえいたそは電子書籍で買うっていう使い分けがあるかも。

中川表裏があるってはっきり言うアイドルって新しいよね（笑）。

成瀬最近は隠さないようにしてて。どうせ闇なんて透けて見えるから（笑）。

中川あははは！　私も活字とか絵を摂取していないと脳が慌てちゃう。マンガとか本で得た栄養って、幼い頃もだけどこういう対談とか舞台挨拶で話すときの語彙力に完全になっている気がする。

中川翔子が成瀬瑛美にオススメしたいマンガ

中川『約束のネバーランド』は読んだ？

成瀬読んでない！

中川すぐにポチってほしいんだけど、久しぶりにマンガって面白いなって思えた作品。立ち止まらない展開で、予想の外側の頭蓋骨にないものを外から供給してくれる感じがいい。4巻までしか出ていないんだけど、完全にアニメ化されるでしょっていう感じがする。あと、最近やっと電子書籍になって嬉しかったのが、親子の間で死ぬまで語れるよねって話してる『島耕作』シリーズと『三丁目の夕日』シリーズと『キッチンの達人』。『キッチンの達人』は『BE・LOVE』で連載されてて。料理マンガって数多くあるけど、背景とか真っ白で、料理できない主婦がお見合い結婚で出会った旦那さんのために料理を発明していくっていうシンプルな話なんだけど、繰り返し読んでもたまらなく愛おしくって。今までマンガ化もなく絶版だったから、しれっと去年か今年に電子書籍化されてて思わず“うわ！”って声が出ちゃった（笑）。で、うちの母は料理をまったく作らなくて、年に数回だけ真っ黒に焦げた臭くて不味い肉を焼いてくれるのが嬉しかったりして。

成瀬不味いんだ（笑）。

中川うん。夜働いているから普段は家にいなくて、昼間に寝てて大変そうなんだけど、土日だけは一緒にいてくれて中野ブロードウェイとか本屋さんに連れて行ってくれて。貧乏だったけどそれでも切り詰めてマンガを描く道具を買ってくれて、私はそれがすごくありがたくて、母親らしくないけどマンガを一緒に共有できたおかげで人生グレなかったと思うと、共有できたという意味では2人とも『キッチンの達人』がすごく好き。マンガに出てきたピザ餅というレシピを作ってくれて、簡単なんだけどフライパンを使うことさえ大変な母がこれを再現しようとしてくれることにドキドキして、でも作ってくれたピザ餅がまさか美味しくて（笑）。美味しいね美味しいねって言って食べてたら、母が6キロも太っちゃって。

成瀬ははは。

中川マンガメシのはしりだったと思うと、すごく尊くて愛しくてかわいいの。絶版だと読んでって勧めても読めないけど、電子書籍になったおかげで当時生まれていなかった人も知らない人も買えるじゃん。だから本当にありがとうございます！と思って。

成瀬『キッチンの達人』がすごく読みたくなった。私も『デリシャス!』っていう『なかよし』で連載されていた少女マンガがあって、それを見て料理を頑張って作ってたなって思い出した。

中川懐かしい！　それぞれに料理マンガってあるよね。あとは『部長島耕作』と『加治隆介の議』は絶対に読んでほしいんだけど、『加治隆介の議』は最初に買った電子書籍だったんだけど、政治の話って難しいし疲れるなって思っていたのが、不思議とすらすら止まらなくなっちゃうっていう。政治家の息子の主人公が、サラリーマンから政界に進出するんだけど、不倫問題とか北朝鮮問題とか25年以上も前のマンガなのに今読んでも全然古くなくて。命の危険にさらされたり、周りの人間が失脚させようと画策していたり、世の中信じられなくなるけど自分なりの正義をどう貫くのかを見事に描いている。さらに、主人公の加治隆介さんの息子が『社長島耕作』に政治家として登場したりして、もう親目線で泣けちゃう（笑）。長生きして描き続けてくれて、なおかつファンにこんなサービスをしてくれるなんて、弘兼憲史先生本当にありがとうございますというか。しかも同時に『黄昏流星群』を書いてるからすごいなと。子供の頃から教科書として『島耕作』シリーズを読んでて、今改めて『加治隆介の議』を読んでほしいなって思ったので読んでください。

成瀬めちゃくちゃ気になる！　そろそろ大人だし政治のことも学ばねばって思っていたところだったから。

中川政治を学ぶ感じで読まなくても全然大丈夫だよ。政治のことを書物で勉強しようとすると“うぅ……”ってなるけど、そうじゃない。特別なマンガのような気がする。もうひとつオススメすると、小林まこと先生の『へば!ハローちゃん』。田舎から上京した女の子、服部春夫ちゃんがスカウトされて銀座のホステスになるんだけど、春夫ちゃんは田舎にいる初恋の男の子のために自分の体を守っている。億万長者とか憧れの野球選手とかが来店して引く手数多なんだけど、圧倒的な画力だから生々しくて面白くて子供の頃に繰り返し読んでた。でも、先輩のお客さんがストーカー化して追いかけてきたり、今読むとそういうのがリアルで怖いし、バブル期だから時代を感じるけど、お客さんだったり人の心をつかむ技は今でも勉強になるからこれはすごいなと。これが最近やっと電子書籍化されて、それまで人に読んでもらいたくても絶版で手に入りづらかったから、今言うね（笑）。あと最後は、かわぐちかいじ先生が作画で福本伸行先生が原作の『生存 LifE』。

成瀬福本先生が作画じゃないんだね。

中川末期癌で余命半年を宣告されたお父さんが、娘を殺害した犯人を捜すっていうストーリーで、写真や日記を手掛かりに犯人を捜すんだけど、福本伸行先生が本気で頭脳戦を書いたら誰も勝てないっていうぐらいのシリアスな話で、さらにかわぐちかいじ先生の画力が奇跡的で唸っちゃう。15歳くらいのときに美容室でたまたま読んで、それを読むために繰り返し美容院に通って（笑）。懐かしさ補正を抜きにしてもぶっちぎりで面白いから、ぜひ読んでほしいな。

成瀬読む読む！

中川あと電子書籍の良さって、例えば『ジョジョの奇妙な冒険』ならマンガも持ってるしモノクロ版も持っているんだけど、カラー版が先生の卵が塗っているのか原作に寄せて塗られているのが素晴らしくて。特に『ジョジョの奇妙な冒険』『HUNTER×HUNTER』『ドラゴンボール』は原作タッチで塗られていて素晴らしいね。

成瀬すごいよね～。

中川特にジョジョの6部が緻密で、マンガでは“どうなってるんだろうここ？”って繰り返し読む喜びがあったけど、カラーになると立体化されてまるでアニメを好きなように読んでいる感じ。もっとお金を払ってもいいくらいカラーの塗り方が見事！

成瀬原作者じゃないっていうロマンに今ゾクゾクしてる！　塗った人にインタビューしたいくらい。

中川モア課金したい（笑）。だって大変じゃん。世界観がズレないように、ちゃんとユーザーと『週刊少年ジャンプ』の厳しさを乗り越えて塗っている感じがして。

>>後編へ続く