『中川翔子のポップカルチャー・ラボ』第3回 奥浩哉 [前編]

Photo : Shuya Nakano Styling:Aya Omura Hair and Make:Michiko Kashiwase Text by Takanori Kuroda Edit:Takuro Ueno (honcierge)

マンガを愛する中川翔子が、同じくマンガを愛する多彩なゲストとともに繰り広げる「文科系トークセッション」。hontoのサービスをご利用することで、気になる作品は手元ですぐに立ち読み(試し読み)可能。おすすめのマンガとの出会いを提供します。

今回のゲスト奥浩哉さんの直筆のサインが入ったコミック「いぬやしき」を10名様にプレゼント!

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奥浩哉が描く「圧倒的なリアリティ」に中川翔子が迫る

第3回となる今回は、『GANTZ』や『いぬやしき』といった作品で、コンピューターによる3DCGを用いた圧倒的なリアリティと、血も凍るようなバイオレンス、そして、息を呑むほどのエロティシズムを盛り込んだ濃密なストーリーを展開するマンガ家、奥浩哉さんを迎えてお送りする。

手塚治虫の『バンパイヤ』、藤子・F・不二雄の『ドラえもん』に魅了され、小学生の頃からマンガ家を目指してひたすら絵の練習を重ねてきたという奥さん。最新映像技術を駆使したハリウッド映画ですら表現できないような、まだ誰も見たことのない世界を〈創造〉するために、彼はどのような試行錯誤を繰り返してきたのだろうか。自身もマンガ連載を経験した中川が、クリエイティヴの極意を聞き出した。

前編・後編の二部構成、まずは前編をお届け。

中川翔子(以下、中川)私が奥先生の作品に出会ったのは、やはり『GANTZ』が最初でした。そこから『HEN』など、先生の初期作品まで遡っていろいろ読ませていただいて。リアルタイムで読んだのは『いぬやしき』で、連載が始まった時はすごく嬉しかったのを覚えていますね。でも、もう次の単行本が最終巻になってしまうのですか?

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奥浩哉(以下、奥)そうですね、次の10巻で終わります。

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中川うわあ。でも9巻の時点では、いぬやしきさんがどうやって獅子神を倒すのかがまったく想像つかないじゃないですか。いつも思うんですけど、誰も思いつかないような発想のずっと向こう側を、こちら側の現実世界に突如呼び寄せてしまう、その描写が本当にリアリティたっぷりなんですよね。確か5巻だったと思うのですが、ネット民たちのキャラ設定や動かし方がとてもリアルで、そのことにものすごく興奮したんです。こういうことを描いてくださって……「くださって」というのも変な言い方なんですけど。

(笑)。僕のモットーは、「まだ誰も描いていない世界をマンガで再現する」ということなので、それで(ネット民という)設定を思いつきました。我ながら上手く描けたかなと思っていますね。

中川かなり残酷な描写もありますし、「実際に存在している普通の人たちだって、内面はこんなにドロドロしているんだよ」というテーマは、「よくぞ描いてくださいました」っていう気持ちで一杯なんです。

光栄です(笑)。僕は映画監督と結構ツイッターで繋がっているんですけど、彼らも日頃ネット民たちに散々言われている立場なので、やはり「よくぞ描いてくれた」と言ってくれました(笑)。ああそうか、描いてよかったなあって思いましたね。

中川これまでにも奥先生は、歴史を揺り動かすようなシーンを何度も描いてくださいましたけど、あのシーンは本当に画期的だと思いました。人間の思いつく限りの、いやもっと向こうへいく「悪意」というのは、実は真っ直ぐでピュアな「善意」と、表裏一体なのだなというか……。

ありがとうございます。

中川なにしろ、読んでいても本当に先が読めない。実際のところ、どのくらい先のことまで想定して物語を進めているのですか?

いぬやしき』の場合は、連載を始めた時にはラストまで考えていて。10巻で終わるというのも、実は決めていたんですよね。わりと思ったように進んだので、そういう意味でも自分の中では上手くいった作品の一つなんです。

中川へえー!! 私、世の中の職業の中でマンガ家の先生というのは“途轍もない才能の持ち主”というイメージなんです。 作画能力とイマジネーション、運、そして縁と、すべてを兼ね備えし方で、なおかつ周囲に常にアンテナを張り巡らせているという……。そういう凄い方がされている、すごいお仕事の中でも、奥先生の作品には「うわ、こんなこと実際に起きたらどうなっちゃうんだろう?」っていうシーンが、とんでもなくリアルに描かれているわけじゃないですか。「果たして、こんな作品を作る人が実在しているのか?」「実はアンドロイドか何かじゃないか?」という風にずっと思っていたので(笑)、実際にこうして会ってみて、優しく穏やかな雰囲気に驚かされました。

「イメージと違う」「もっと怖い人かと思っていた」とはよく言われますが、わりと普通なんですよ(笑)。

中川いぬやしき』に出てきた、口数の少ない大男で、女をバシバシ殴るあのヤクザみたいな感じの人なのかなと勝手に思っていたのですが、すごく穏やかな方なのですね。

(笑)。作品と自分はいつも完全に切り離して描く方なので、たぶんどのキャラクターにも僕は似ていないし、まずキャラ設定をしたら、「この人はこういう動きをするだろうな」と、わりと想像しながら動かしているんです。そこに自分はまったく入っていないですね。

中川そうだったのですね。先生のマンガを読んでいると、現実世界を覗き込んでいるような不思議な気持ちになるんですけど、それって圧倒的なほど緻密な街の描写や、立体的な空間の再現をされているからなのかなと。もう毎日見慣れている新宿とか池袋とかいろんな場所がガンガン壊されていくのもすごく興奮するし、街を歩くのが怖くなりますよね(笑)。すべてデジタルで描いているのかと思っていたのですが、ツイッターを拝見したところ肉筆でも描いていらっしゃるんですね。

はい。まず背景に関しては、実際の写真をソフトでトレースしています。それをマンガに馴染ませ、その背景に合わせて僕が人物を描いていく。僕の仕事はカラーの色塗り以外、ほぼすべてアナログなんです。で、アシスタントさんが全員デジタルを取り扱っているという不思議な職場(笑)。人物は、モブ(モブキャラクター)まで全部僕が描いています。

中川モブまで! 最高。人の表情、獅子神とかヒロインとか、美形のキャラは圧倒的に美形で興奮するし、一般人の顔の面白さもすごく惹かれるんです。ブスは本当にブスに描き、そういう人が容赦なく死んでいくっていう。

(笑)。特に恨みがあるわけじゃないんですけど、一般人の顔も、マンガっぽくならないよう、担当編集者に頼んで雑踏へ行って人物をアップで撮ってきてもらい、それを見ながら描いている。なので、実はモブ一人ひとりまで全部モデルがいるんです。出来るだけその世界に没頭してもらうため、細部のリアリティも追求していますね。

中川だからこそ、モブ一人ひとりのリアルな気持ちが伝わってくるというか、痛い思いをした時の「痛い!」っていう感情が、こちらにもダイレクトにくるんですよね。そういえば、バカリズムさんも『GANTZ』に登場していましたよね?

たまたまテレビをつけていたら、深夜番組で『バカリズムマン対怪人ボーズ』というのをやっていて。それで面白くて登場させちゃったんです。この世と地続きの世界であることを強調したくて、時々ああいうシーンを入れています。あと僕、仕事しているときはいつもテレビを付けているんですよ。ネームとか下書きはテレビ見ながらじゃないと仕事できない。ずーっとテレビつけながらやっています。

中川よく集中できますね……。風景写真は実際に撮影しに行くのですか? 例えば高層ビルを見下ろしている風景とか、どうやって見つけてくるのだろうって。

あ、あれはヘリを飛ばして空撮しました。

中川空撮!?

ドローンを飛ばすこともありますね。で、本当にないメカニックな部分とか、そういう部分だけ3DCGを使って、合成して写真と馴染ませています。ハリウッド映画がやっていることと、基本は変わらないんですよ。静止画か動画かの違いだけで。

中川なんと……1人でハリウッド映画を作っているようなものなのですね! そんな人、他にいないですよね。

うちみたいなやり方をしているマンガ家は、他にいないと思います。ただ、動画じゃないので映画の制作費と比べたら大したことない。もっともかかるのは人件費ですかね。確かに普通のマンガ家の売れ方だと、きっとこんなことやってたら赤字になる。たまたま僕の作品は売れてくれたので、すごく助かっています。それに、ハリウッド映画でも映像化できないようなシーンが描けた時は、「マンガの勝ちだな!」って思いますね。

実写映画と同じことを紙の上で再現したい

中川今まで描いてこられた絵の中で、先生自身が「うおお!すごい!」って興奮したのはどれですか?

数えきれないくらいありますね(笑)。『いぬやしき』の中だけでもかなりあるけど、例えば飛行機をいぬやしきさんが支えて飛んで行くシーンなどは、「スペクタクルに描けたなあ!」って思いました。

中川あれは悪夢みたいなシーンでした……! 映画でもあんなシーンないですよね。

そうですね、お金かかっちゃいそう(笑)。静止画だからこそ出来るのかなと。

中川そういうスペクタクルなシーンに限らず、ここまで徹底的にリアリティを追求するのは何故なのでしょうか。

僕の作品にとって最も重要な「ストーリー」に、説得力を持たせるためです。そのためにはどんな絵が必要なのかを常に考えていますね。とにかく、実写映画と同じことを紙の上で再現したいんです。

中川ちなみに、どんな映画がお好きですか?

僕は昔からハリウッド映画が好きで。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や、スティーヴン・スピルバーグの一連の作品、そういう映画を子供の頃から見てきて、大人になってからはエンタメだけでなく芸術映画や日本映画、ヨーロッパの映画まですべて観るようにしています。

中川クリント・イーストウッド監督はお好きですか? 私、『グラン・トリノ』を見たときに、「これは『いぬやしき』だ!」って思ったんです。

あははは(笑)。ありがとうございます。クリント・イーストウッドは大好きです。

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中川かっこいいおじいちゃんが、命を張って良いことをするところとか。最初にマンガの一巻を読んだ時、びっくりしちゃって。身体はいつも震えてるし、背骨が曲がっちゃってるし。今までたくさんの美形や美女を描いてきた奥先生が、こんなヨボヨボの人を主人公にするなんて、「一体何をしようとしているんだろう?」とドキドキしました。それが9巻を読むと、「このために僕は機械になった」というセリフが出てきて、もうメチャクチャかっこいいなって。なんか、「かっこいい人」の概念をひっくり返してくれたように思いましたね。

ありがとうございます。今までマンガというのは、どんな設定でも、「カッコよくない」というキャラ設定でも、顔はカッコよく描かないと人気が出ないというセオリーがあったので、それを覆したかった。それで、「カッコよくない主人公」ってどんなだろうと考えたときに、ヨボヨボのおじいさんっていうのがしっくりきたんです。確かに、中川さんがおっしゃったセリフが出てくるところは、「結構よく描けたな」と思ってテンション上がりましたね。最後の最後で、こうやってクライマックスを盛り上げることができてよかったなと。

中川とはいえ、おじいちゃんを主人公にするなんて、かなり冒険だったんじゃないですか?

そうですね。『イブニング』さんが、自由にやらせてくれるとおっしゃったので、実現できたことです。

中川奥先生にこんなことを話すのはおこがましいのですが、私も以前、マンガの連載を32ページ描かせていただく企画があって、アシスタントさんもつけていただいたことがあったんです。絵を描くこと自体は大好きなんですけど、いざマンガを描こうと思うと、ラフを描き、下書きして、ペン入れしてトーンまでやって……っていう風に、例えば女の子1人を描き上げるのにも何段階もプロセスを踏まなきゃいけなくて。「なんて恐ろしく手間のかかる大変なことを、マンガ家さんは命を削ってまでお仕事にしてやっているんだろう」って思い知らされました。同時に、描くこと自体が怖くなってしまって。なんか、いろんなことに失礼な気がしたというか。

でも中川さんみたいな、自分でもマンガを描かれる人に作品を評価されるのは嬉しいですよね。作り手の苦労を理解してもらえるというか。

中川恐れ多いです! 私、思春期の頃に学校へ行くのが嫌になり、引きこもっていたことがあって。その時は楳図かずお先生の『14歳』というマンガを、ひたすら模写していて、それがストレス発散になったんですけど、背景の細かいところまで模写していくと、「こんなところにこんなシーンがあって、こんな気持ち悪い方向へ話が進んで……」みたいなことが分かって感動したのを覚えています。「こんな細かく背景を描いているのか!」みたいなことは、確かに自分でも描いてみて分かったことではありますね。

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Profile

中川翔子

女優・タレント・歌手。2004年11月からスタートさせた公式ブログ「しょこたん☆ぶろぐ」で人気を博し、2006年にはシングル「Brilliant Dream」で歌手デビュー。同年、愛猫・マミタスの写真集『ギザ☆マミタス!!』も発売。このほかにも声優やイラスト、漫画家、ドラマ出演など、多方面で活躍するマルチタレントぶりを発揮している。デビュー10周年を迎えた2012年には念願だった初のアジアツアーを大成功に収めた。近年は女優としても積極的に活動し、2015年には朝の連続テレビ小説『まれ』に出演。2017年にはTBS系ドラマ『あなたのことはそれほど』で、横山皆美役を演じた。
2018年1月より東京芸術劇場にて公演のミュージカル「戯伝写楽」にヒロイン『おせい』役として出演予定。
http://www.shokotan.jp/

奥浩哉

1968年9月16日、福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に「久遠矢広」名義で投稿した『変』が、第19回青年漫画大賞に準入選、『週刊ヤングジャンプ』に掲載されデビューする。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを『変 ~鈴木くんと佐藤くん~』と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は大きな反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた先駆者として知られ、2000年より同誌にて連載した『GANTZ』はアニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年より『イブニング』にて『いぬやしき』の連載を開始。2017年10月よりTVアニメとして放送予定。

対談内で紹介された書籍

GANTZ

HEN

いぬやしき

バック・トゥ・ザ・フューチャー

グラン・トリノ

14歳

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