関西弁が好きやねん！つい本場に行きたくなる、関西弁で書かれた小説

阪急電車をテーマにした、16往復にわたる物語です。本作の舞台は阪急宝塚駅から阪急今津駅までであり、いわゆるコテコテの大阪弁ではなく、神戸弁まじりのソフトな関西弁が楽しめます。特徴のある方言以外は、文章にすると意外と標準語的だというあたりが、日常生活に根差すリアリティを醸し出しています。

舞台は大阪。ホテルでアルバイトする哲之の部屋には、柱に釘で打ちつけられながら生きる蜥蜴（とかげ）の「キン」の存在。どこまでも直球な表現が目覚ましい青春小説であり、若者の苦悩がしっかりと関西弁で描写されています。一人称視点の小説であり、さまざまな感情表現の独白が関西弁で味わえます。

豊胸手術を考える母、思春期を迎えた娘、上京した2人の母子家庭における葛藤、不和、そして巡り合いを描いた物語です。特筆すべきは、その文体。極端に改行が少なく、読点で区切られた文章が延々と続きます。しかしそれゆえに、まるで関西弁が本当に聞こえてくるようで、耳ざわりのよい文章という新しい質感を得られます。

大阪弁の本場、大阪・ミナミ。タイトルの「通天閣」はまさしく大阪の象徴です。社会のヒエラルキーとしては底辺、言動は意味不明、けれど謎のエネルギーを持つ人たちが軒を連ねる街。ただ大阪弁が楽しいだけでなく、大阪の生きた空気感、情景が余すことなく表現し尽くされており、関西弁を求める方には打ってつけです。

架空の物語ながらも入念な下調べがされており、阪神大水害などの実際に起きた災害を取り入れるなど、船場が崩壊していくさまを圧倒的な現実感をもって描き切っています。全編の会話は、大阪弁のなかでも格式高いとされる「船場言葉」で書かれており、少し昔の大阪に思いを馳せられる本です。