はじめて読む、藤沢周平の歴史・時代小説。等身大のヒーローたち

わけあって脱藩し、今は江戸で浪人中の青江又八郎。長屋で暮らし、口入屋の紹介で用心棒稼業をして糊口をしのぐ毎日。剣の腕はめっぽう立つのですが、どこかコミカルな人物です。米びつがからになれば嘆き、仕方なく働き、ときに刺客に襲われる。オススメの連作短編集です。

旗本の子ながら、妾腹ゆえ疎んじられ、出奔した平四郎ですが、たちまち食うに窮します。考えついたのがよろずや稼業。今でいう便利屋です。舞い込む依頼から次々に事件に巻きこまれていきますが・・・。江戸の庶民の暮らし、人情、そして平四郎の恋を、連作短編集のかたちで、風情をもって表現された物語です。

もとは腕のいい岡っ引き、わけあって今は岡っ引きを辞め、版木の彫師をしている伊之助。そんな彼のもとに、行方不明の娘を探してほしいという依頼があり、仕方なく伊之助は引き受けます。ミステリータッチ、男性的なタッチの話ですが、本業である彫師の仕事を、味気なさげにしている伊之助の姿が親近感を感じさせます。

日が暮れればさっさと帰ってしまうところから、ついたあだ名が「たそがれ清兵衛」。普段は、家にいる病弱な妻と、つつましく暮らしている侍です。そんな彼ですが、剣の腕は一流。お家騒動のなか、その剣が冴えわたります。表題作含め、見かけはさえない侍たちの、意外な活躍を描く短編集です。

主人公は少年藩士。派閥争いのなか、主人公の父は謀反人とされ、刑死します。疎んじられる主人公ですが、運命に立ち向かって己を磨いていきます。美しい自然を背景に、少年の成長を描く傑作長編です。物語の切れ目にインサートされる蝉しぐれが、子ども時代に戻ったかのような錯覚をもたらします。