不安と孤立が生みだす幻影。新興宗教の脆弱さを描いた小説

職を失った2人の男がつくった、金もうけのための新興宗教団体。はじめは悩みをもつ女性たちの避難所に過ぎなかった教団が、いつのまにか拡大し、2人の制御がきかなくなり崩壊していくさまが描かれています。ゲームのシナリオからつくった、まやかしの教義や儀礼に対する信者の熱狂が、2人に恐怖感を与えていく心理描写が秀逸です。

些細なことでホームレスになった、元証券マンの山崎。彼が寝泊まりする公園で出会った占い師と美形のホームレス。3人は「大地の会」という宗教団体をつくり、山崎の思惑通りに成長します。しかし巨大化した組織は3人に不協和音をもたらし、想定外の方向に向かいます・・・。新興宗教団体の脆弱な組織が映しだされる小説です。

新興宗教「神の郷」の教祖・神郷宝仙は、母が新興宗教に洗脳され悲惨な幼少時代を送った過去に復讐するがごとく、不安を抱える人を洗脳、利用し、巨万の富を築いた吝嗇家。彼は凡庸なサラリーマン・城山の妻である麗子に食指をのばします。人を導く教祖であるはずの神郷と城山の、陳腐で空虚な対決をグロテスクに描写しています。

妻子を事故で失い惰性で生きる雪籐。ひょんなことから霊感をもつ女子大生・天美遙に出会い魅了された彼は、その力を広めるべく奔走し、遙にすがる人々と新興宗教に似た団体を立ち上げます。しかしそれは次第に遙の重荷になっていき・・・。少女に救済を希求する人々の必死さと、少女の戸惑いがすれ違うさまが、はかない小説です。

新興宗教教団に潜入した公安刑事・照屋礼子の狂気と冷徹が混在した連続爆弾テロをめぐる小説。潜入捜査の過程で教祖に感化され、狂信的なテロリストに変貌した礼子。しかし、彼女を追う刑事・鳴尾との対決を通じて、徐々にその信仰が崩れて理性を取り戻していきます。狂信と理性の戦いを圧倒的な筆致で描いた一冊です。