ブックキュレーター平野啓一郎
人生に触れる5冊
人間を知るためには、現実の生に触れるのが一番という考えもあるが、その深みや多面性、長い時間の中での変化を知るためには、本という形式の言葉に頼るより外はない。読書は他者という存在の体験である。
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林京子全集 2 ミッシェルの口紅 上海
林 京子(著) , 井上 ひさし(編集委員) , 河野 多惠子(編集委員) , 黒古 一夫(編集委員)
長崎で少女時代に被爆した体験を、文学の「記録性」の極限的な形として作品化した『祭りの場』、その人類史的な苦悩を静謐の筆致でどこまでも深く見つめ直した『長い時間をかけた人間の経験』などの諸作で知られる林京子氏。本作は、第二次大戦下の中国体験を、少女の無垢で、かつ透徹した眼差しで描いたもう一つの傑作。
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マイルスについて語らせるならこの人!という著者のマイルス研究の決定版。『自叙伝』がモノフォニーで語られたマイルスの人生であったなら、こちらは多数の関係者によるポリフォニーのマイルス伝。データマニアたる著者の面目躍如たる緻密な裏取りと、本人との個人的な交流によって得られた人物像とのバランスが絶妙。
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谷崎潤一郎全集 第25巻 初期文章 談話筆記 創作ノート
谷崎潤一郎(著)
新たに刊行中の谷崎全集の中でも、名のみ知られていて、これまで未発表だった「松の木影」等、1933年から最晩年の1965年に至る足かけ32年、計11点の創作ノートが収録された本巻は、その目玉とも言うべき貴重な内容。物語作家として語られがちな谷崎が、いかに現実に取材しつつ、作品を構想していったかがわかる。
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摘録断腸亭日乗 上
永井 荷風(著) , 磯田 光一(編)
荷風は、『つゆのあとさき』は大好きだが、『墨東奇譚』となるとキザすぎてどうも好きになれないが、第二次大戦を挟んだ膨大な日記である本書は、どこを読んでも面白く、荷風文学の真骨頂ではないかと思う。妙な国粋主義的風調が見受けられる昨今、荷風の繊細で苛烈な社会風刺には溜飲が下がる。
ブックキュレーター
平野啓一郎1975年生まれ。京都大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。美術、音楽にも造詣が深く、各ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。『マチネの終わりに』『私とは何か「個人」から「分人」へ』など著書多数。
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