祖母・母・娘・・・親子関係や女の生き方が心に響く物語

不倫相手から「娘が生まれた」と聞き、彼の家に侵入した希和子は、顔を見るだけのつもりだった赤ん坊を、思わず誘拐してしまいます。薫と名づけられた赤ん坊は希和子の元で成長し、2人は逃亡生活で、たしかな母子関係を築いていきますが・・・。血縁関係だけが親子とはいえない。希和子の母性に最後まで胸が詰まります。

東日本大震災直後。シングルマザーとして出産間近の真菜を、マタニティスイミング指導員の晶子が訪れサポートします。実母との関係性に苦しんできた20代の真菜。お節介な70代の晶子。2人の生い立ち、地震後の変化が丁寧に描かれています。別の人生を歩んできた2人が新しい命を共に慈しむ姿に、静かな感動を覚えます。

92歳の松恵は、不貞を疑っていた夫の言葉を死の床で思い出し、苦い思いごと旅立とうとしています。親に似ない美貌のせいで父親に愛されず、愛を強く求め続ける娘の奈緒子。母親に死んだ姉と比較され苦しんできた孫の嫁の美代子の物語が、松恵との思い出と共に語られます。死を描きながらも温かな感情に包まれる小説です。

恋人も家財道具も失ったショックで声が出なくなった倫子は、唯一残ったぬか漬けの壺を持ち、大嫌いな母の元へ。料理が得意な倫子は「食堂かたつむり」を開き、料理を振る舞うことで立ち直っていきます。あるきっかけで奔放だと思っていた母の一面を知る倫子。正反対の母娘、その思いや関係性が描かれています。

児童文学ですが、大人にも読み応えのある物語です。双子の弟を亡くした照美は、イギリス人の元別荘にある鏡のなかへ・・・。鏡のなかの「裏庭」での冒険で、照美は弟の死、親との関わりにおいて傷ついていた自分と向き合い、癒やされていきます。親にとっての傷も描かれ、親子で傷に向き合い受け入れる場面に心が揺さぶられます。