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グルーヴする即興的対話の粋を味わう

破綻なく構築された物語世界に身を置いてストーリーを追うのもいいが、時には、雑多で破格な虚構世界で大笑いするのも読書の愉しみのひとつだろう。才気煥発な話者の丁々発止のやり取りが、高尚と哄笑、特異と崇高を交差させる対話作品を挙げてみた。そこには、練りに練った文章で即興性が創出されるという、ある意味矛盾した面白さもある。

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  • ラモーの甥 改版

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    ラモーの甥 改版

    ディドロ(作) , 本田 喜代治(訳) , 平岡 昇(訳)

    18世紀半ばのパリの腐敗した習俗を体現する一方で、高尚な芸術論を打つラモーの甥と、著者ディドロと思しき哲学者の対話という体裁のフィクション。パラドックスと活力に満ちた話術および人間離れした身体芸で、常識的な価値を転倒させてしまうラモーが哲学者とわれわれ読者を圧倒する。強烈なインパクトと現代性を備えた傑作。

  • シリーズ世界周航記 2 世界周航記

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    シリーズ世界周航記 2 世界周航記

    ブーガンヴィル(著) , 山本 淳一(訳) , ディドロ(著) , 中川 久定(訳)

    同じくディドロの手による対話小説。実在する『ブーガンヴィル航海記』にディドロが勝手に『補遺』を名乗り、しかも『航海記』本文とは全く異質な文明論批判を、タヒチを舞台に展開するフィクション。ふざけた体裁ではあるが、タヒチの老人の雄弁が西洋の価値秩序を問題視する視点をわれわれに与える。

  • ヴァレリー集成 6 〈友愛〉と対話

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    ヴァレリー集成 6 〈友愛〉と対話

    ヴァレリー(著) , 恒川 邦夫(編訳) , 松田 浩則(編訳)

    20世紀前半のフランスの知性を代表するヴァレリーの対話作品。海辺で出会った「医者」と「私」が、医学や現代物理学に関するテーマで議論を交わす。読者はある固定観念に取り憑かれた「私」の脱線気味な思考の軌跡を辿ることになる。知的なテーマについて論じながらも、軽妙洒脱な言葉の応酬から笑いが生まれる。

  • 昭和初期世界名作翻訳全集 復刻 オンデマンド版 85 地下生活者の手記

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    昭和初期世界名作翻訳全集 復刻 オンデマンド版 85 地下生活者の手記

    ドストエフスキー(著) , 伊吹山 次郎(訳)

    19世紀を生きたロシアの文豪の中編小説で、徹頭徹尾モノローグからなる。読者からの〈ツッコミ待ち〉をしているかのような独白という意味で、〈対話可能小説〉と言えるかもしれない。だが、読み進めるにつれ、われわれは「地下生活者は私だ」との想いを強くするだろう。〈他者〉であるはずの地下生活者と奇妙にもシンクロしていくのだ。

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    作者本人である語り手が、のちに逮捕されることになる人や、刑に服したことのある人と実際に出遭ったエピソードを語る。一人称小説だが、作品中のおしゃべりが実に即興的で可笑しい。だがなんといっても面白いのは、物語が語り手のコントロールを離れて予測不能になるフィクションの生成の場に読者が立ち会うという作品の構造である。

フランス文学・思想史研究者。慶應義塾大学商学部フランス語専任講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。エクス・マルセイユ第一大学(フランス)博士課程修了。文学博士。18世紀フランスの文人ディドロの思想と文体に魅せられて現在の稼業に至る。主著Diderot et la chimie. Science, pensée et écriture(『ディドロと化学-科学、思考、およびエクリチュール』)。生地である関西特有のボケとツッコミからなる漫才文化に育まれたからか、古今東西の対話における〈ノリ〉と〈笑い〉を生み出す言葉・リズム・間に関心がある。まれに商業文芸誌に寄稿。

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