ブックキュレーターサイエンスライター 吉田伸夫
知の力と意義~知識を求め、守り、究めるとは~
「知は力なり」という箴言がある。もちろん、明日にでも役立ちそうな実用的知識を勧めているのではない。「知識に基づいて思索を巡らせると、そこから、生きる上で有用な力が得られる」ことを意味する。知識を求めること、知識を守ること、知識を基に深く思索すること。そうした知を巡る営みについて考えるきっかけとなる本を集めてみた。
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一四一七年、その一冊がすべてを変えた
スティーヴン・グリーンブラット(著) , 河野 純治(訳)
ヨーロッパで原子論が復活するきっかけは、「物の本質について」の再発見だった。禁断の思想として長く封印されてきたエピクロスの主張を目にした人々は、世界に対する新しい見方に打たれ、ルネサンスへの流れを生み出す。知には歴史を動かす力があること、また、知は権力によってたやすく圧殺されることを教えてくれる。
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知識欲の誕生 ある小さな村の講演会1895−96
アラン・コルバン(著) , 築山 和也(訳)
19世紀末、フランスの片田舎で小学校教諭が啓蒙的な講演会を行った。「フランスの植民地建設」といった講演タイトルと当時の教育水準などをもとに、何が語られたかを歴史家が推理する。そこに浮かび上がってくるのは、村長が口頭で伝えるニュースくらいしか情報源のなかった村で、より深い知識を求める民衆の姿である。
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「知」の欺瞞 ポストモダン思想における科学の濫用
アラン・ソーカル(著) , ジャン・ブリクモン(著) , 田崎 晴明(著)
難解な話をするからといって、頭が良いとは限らない。本当に知っている人は、難しいことを易しく語り、知ったかぶりをする人は、易しいことを難しそうに語る。フランス現代哲学の著作に見られる擬似科学的な議論のデタラメさを糾弾する本書は、自分で理解できていない知識を振りかざすことがいかに滑稽かを示す。
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磁力と重力の発見 1 古代・中世
山本 義隆(著)
型にはまった教科書的な知識は、世界の真実を教えてくれない。重力の理論は、ニュートンによって確立された近代科学の礎というのが教科書の教えだ。しかし、著者は、文献を丹念に読みこみ、中世において魔術的とされた磁力のアイデアがベースにあることを明らかにした。3分冊の大著だが、読了したときの達成感は格別。
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科学は、疑い得ない真理の体系ではない。深く考えることなく科学的な言説を盲信し、受け売りの説明で満足するのは、最も非科学的な態度だ。「観察に基づいて仮説を立て、そこから新たな予測を導き出してデータと比較し、仮説の正当性を検証する」というダイナミックな過程こそが、科学の本質なのである。
ブックキュレーター
サイエンスライター 吉田伸夫サイエンスライター。理学博士。学位研究は素粒子論だったが、しだいに科学全般について関心が広まり、宇宙の始まりから終わりまでカバーする宇宙論、量子論の形成過程を明らかにする科学史、科学的方法論や科学哲学などを研究対象とする。著書は、『素粒子論はなぜわかりにくいのか』『量子論はなぜわかりにくいのか』(技術評論社)『明解 量子重力理論入門』『明解量子宇宙論入門』『完全独習 相対性理論』『宇宙に「終わり」はあるのか』(講談社)『宇宙に果てはあるか』『光の場、電子の海』(新潮社)など。ホームページ(http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/)でも情報発信中。
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