ブックキュレーター有斐閣 書籍編集第二部 四竈佑介
事実の重みを取り戻すために
いまの世の中ほど、事実というものの存在感が薄れている時代はないでしょう。「エラい人」が伝統的な報道機関を名指しで「フェイク」だと言ってのける。なんとなく現実の空気が薄くなってしまったような感じ。不安に思っている人はたぶん僕だけではないと思うのですが、そんな厭な気分に立ち向かう勇気をもらえる本を紹介します。
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被害者を殺めて埋めた加害者が、「黙秘」を貫いたおかげで「被害者を埋めたこと」だけ罰せられた。そんな実際の事件について書かれたノンフィクションです。著者の藤井は実際に起こったであろう事実を丹念な(あるいは執拗な!)取材で明らかにします。とくに後半部分にカードを次々に切り出していくような展開はぐいぐい読ませます。
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司法の「穴」に目を向けさせる『黙秘の壁』を読んだとき、真っ先に連想したのが清水潔の仕事でした。この本は実際の冤罪事件の「犯人」の釈放に併走し、真犯人の存在までを記しています。ネタバレかと思うかもしれませんが、本当に衝撃的なのはそこではありません。事実と向きあう著者の執念はページを最後までめくらせるはずです。
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事実と向きあうということの一つには、人間と(誠実に)ともにある、という方法があるかもしれません。上間陽子は社会学者で、沖縄に住む普通の若い女性の置かれた厳しい境遇と向きあい、日常的に支援することを通して調査を続けています。上間が全身で向きあった事実は、読む者の情動を揺さぶらずにはいられません。
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「事実と向きあうって、難しい」と思う方には、荻上チキの軽快な知的作法が参考になるはずです。書名どおりの内容で、あらゆる報道には多かれ少なかれ傾向があること、そしてそれは決して「藪の中」でも「フェイク」でもないことが示されます。事実と向きあうのに必要なのは知性なのだと、この本が勇気づけてくれるはずです。
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ブックキュレーター
有斐閣 書籍編集第二部 四竈佑介編集者(学術書)。法律書で有名な有斐閣の「法律書以外」の編集部で仕事をしています。おもな担当分野は社会学。担当書に『質的社会調査の方法』『ファッションで社会学する』『社会学入門』『現代日本の「社会の心」』『ボランティアを生みだすもの』など。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(相関社会科学)。1984年生。https://twitter.com/RyShikama
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