ブックキュレーター作家 陳浩基
私が考える“日本の本格ミステリの経典”五選
ミステリ作家たちのたゆまぬ努力によって百年近い歴史を持つ日本のミステリ──欧米ミステリとも異なる個性と美学を獲得した日本のミステリは、いまやアジア各国の創作者や読者にも多大な影響を与えている。その数え切れないほどの個性的な作品群から、ここでは私が考える日本のミステリのメルクマークとなるものを挙げてみた。
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現代の視点から見ても、『獄門島』は依然として驚嘆すべき一冊。殺人、物理トリック、心理の陥穽を突いた仕掛け、さらには言葉の背後に隠された真意や不可能犯罪の要素等々──それらすべてが渾然一体となって、豊饒なドラマを成立させている。とりわけ重要なのは、欧米の本格ミステリの定型を、日本の戦後社会とアジア的な社会的要素とを巧みに織り交ぜることによって、新しいミステリへの道筋をつくりだしてみせたことであろう。
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『占星術殺人事件』のトリックは、まず疑いなく私の考える本格ミステリのトップ3のひとつに挙げられる。作中に提示される謎と謎解きの面白さ、さらにはシンプルにして美しいトリック。それらに本格ミステリ作家として感嘆しないわけにはいかない。怪奇趣味溢れる事件の要素と真相とのコントラストは、読者をあっと驚かせることであろう。さらには物語のディテールとその構成の素晴らしさによって、後の本格ミステリに多大な影響を与えた一冊。
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孤島における連続殺人という古典ミステリのフォーマットを借りながら、その様式と概念を見事に破壊してみせた、──いうなれば“新しい”とか“古い”とかいったものとはまったく異なる趣向を示してみせた記念碑的な一冊。読者はこの作品によって、本格ミステリにおける仕掛けの面白さを再認識するに違いない。
ブックキュレーター
作家 陳浩基1975年生まれ。香港中文大学計算機学科卒。台湾推理作家協会の海外会員。2009年「藍鬍子的密室(青髭公の密室)」で第7回台湾推理作家協会賞を受賞。2011年『遺忘・刑警』で第2回島田荘司推理小説賞を受賞し、2012年に『世界を売った男』のタイトルで邦訳版が小社から刊行された。2014年、『13・67』が刊行されると同時に大きな話題を呼び、香港・台湾で三つの文学賞を獲得。世界十数カ国で翻訳され、ウォン・カーウァイ監督が映画化権を取得した。
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