ブックキュレーター経済学者 根井雅弘
平成時代の経済思潮を振り返る──ベルリンの壁崩壊から格差社会へ
平成時代は、20世紀最大の実験であった社会主義の失敗を象徴するベルリンの壁の崩壊(1989年11月)に始まり、市場原理主義の台頭、バブルの崩壊を経て、格差社会が固定化しつつある2019年4月に終わりを迎えようとしている。その間の経済思潮を代表する著作を紹介したい。
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ハイエクは、長い時間をかけて「自生的秩序」として進化してきた市場を無視した社会主義を「設計主義」の一種として批判し続けたが、この本は、初版は1944年刊行でありながら、後期のハイエクが主張していく思想の萌芽がすべて埋め込まれたロングセラーだ。ベルリンの壁の崩壊後の市場原理主義の流行にもつながった(ただし、ハイエクは決して市場原理主義者ではない)。
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金融自由化以後、世界経済を動かす力が財・サービスの取引から金融面での国際取引に移行したが、その調整過程では、バブル(不良資産=ストック)の調整や金融・証券業の再編が要請された。だが、バブルの崩壊が実体経済の景気後退に波及していき、「複合不況」の様相を呈したというのだ。時代を映す名著である。
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それをお金で買いますか 市場主義の限界
マイケル・サンデル(著) , 鬼澤 忍(訳)
いまでは、アメリカを先頭に何でもお金で買える社会になった。だが、臓器売買のように、人間が生きていく上で大事なものに値段をつけると、それが腐敗したり堕落したりするものがある。本書は、市場がふさわしい場所はどこか、問題となる「善」の価値をどう測るかなど、道徳的・政治的問題を公共の場で議論する必要性を訴えている。
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マルクス、ケインズ、ハイエクなどの偉大な経済学者たちは、一貫して「資本主義とは何か」という問題に答えようとしてきたが、その視点が数式を追うだけの経済理論の勉強のなかでは忘れられやすい。そして、経済思想は多様であり、異なる立場から学ぶ姿勢も大切であると説いている。ガルブレイス、ミンスキーなどの異端は経済学者にも配慮してあるのはそのためだ。
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ブックキュレーター
経済学者 根井雅弘1962年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1990年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は現代経済思想史。『現代イギリス経済学の群像』(岩波書店)、『経済学の歴史』(講談社学術文庫)、『シュンペーター』(講談社学術文庫)、『サムエルソン 『経済学』の時代』(中公選書)、『経済学再入門』(講談社学術文庫)、『ガルブレイス』(白水社)、『企業家精神とは何か』(平凡社新書)ほか、著書多数。
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