ブックキュレーター建築批評家 五十嵐太郎
いい夢見られる建築の本
建築のデザインは、具体的な生活やコミュニティに配慮する細かなアプローチに対し、もうひとつの極として大胆な構想をもとに未来のヴィジョンを描く方向性がある。これらの両輪はいずれも大事なものだが、東日本大震災以降、日本では前者のほうが強くなり、後者の力が弱くなっている。世界各地でランドマーク的な建築が増える一方、ザハ・ハディド+設計JVによる新国立競技場の計画が白紙撤回になったのは、その象徴的な事例だろう。ゆえに、ここでは本来の建築がもつ夢見るデザインに関する本をとりあげたい。
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インポッシブル・アーキテクチャー
埼玉県立近代美術館(編) , 新潟市美術館(編) , 広島市現代美術館(編) , 国立国際美術館(編) , 五十嵐 太郎(監修)
同名の展覧会カタログだが、20世紀初頭のロシア構成主義から21世紀のコンピュータによる前衛的なデザインまで、近現代の実現されなかった建築プロジェクトを総覧する書籍としても十分に楽しめる。通常、付録的な扱いで巻末に追いやられる年表が、表紙から始まり、作品紹介とパラレルに継続するので、同時期にどういう建築が実現したかも比較できる。
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アーキグラム
アーキグラム(編) , 浜田 邦裕(訳)
1960年代、保守的なイギリスの建築界に登場し、ポップなデザインを発信したグループだったことで、アーキグラムは建築界のビートルズと呼ばれた。彼らが製作した同名の雑誌を再録した書籍である。歩く都市、変化・成長する都市、クルマとドッキングする建築など、重くて動かない建築のイメージを根底から覆すSF的なデザインは、今なお我々を魅了するだろう。
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行動建築論 メタボリズムの美学 復刻版
黒川 紀章(著)
現在にいたるまで、日本から世界に向けて発信された最も有名な現代建築のマニフェストはメタボリズムだろう。すなわち、工業化社会における部分の取り換え可能な建築である。特にメタボリズム運動のスターだった若き日の黒川紀章による未来志向の本書は、「道の建築」や「メタボリズムの美学」などを掲げ、飛ぶように売れたらしい。
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斜めにのびる建築 クロード・パランの建築原理
クロード・パラン(著) , 戸田 穣(訳)
フランスの建築家クロード・パランは、水平と垂直に対し、第三の軸として斜めのデザインを提唱した。従来の建築は、水平と垂直の組み合わせによってつくられる。だが、斜めを基本とするデザインは、必然的に水平と垂直の変化を同時に巻き込むことから、ダイナミックな動きをともなう空間となる。それは新しい生活ももたらすだろう。
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ハイパー・デン・シティ 東京メタボリズム2
八束 はじめ(著) , URBAN PROFILING GROUP(著)
東京への人口集中の時代に海上にのびる都市軸を構想した丹下健三の「東京計画1960」からおよそ半世紀。八束は、超過密都市を調査したうえで、グローバリズムの時代を意識し、東京の臨海部で環状につなぐ開発エリアを提案した。これは大量の移民を受け入れることも前提とし、東京の未来を過激に問いかけるプロジェクトにもなっている。
ブックキュレーター
建築批評家 五十嵐太郎1967年パリ生まれ。建築史・批評家。東北大学教授。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院修了。博士(工学)。ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展2008の日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013の芸術監督、「戦後日本住宅伝説展」の監修などをつとめる。著作に『モダニズム崩壊後の建築』(青土社)、『日本建築入門』(筑摩書房)、『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)、『現代日本建築家列伝』(河出書房新社)、『美しい都市・醜い都市』(中央公論新社)、『建築と音楽』(NTT出版、共著)、『天井美術館』(グラフィック社、共著)ほか多数。
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