ブックキュレーター作家 乗代雄介
わたしの「生活の地盤」を鍛えて磨くための5冊
人との関わりから遠ざかるうちに、暮らしの底にある「生活の地盤」が顔をのぞかせる。それはあらゆる経験や知識や思考によって形成されたものだ。この露出を嫌う人は不安によってじわじわと追い込まれ、普段から見慣れた人は神妙な顔で惑うこのご時世、私たちはその地盤を、あらゆる方面から鍛えて磨き、ますます強固にしていかなければならない。
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柳宗理エッセイ
柳 宗理(著)
自分の生活のために周囲の環境を作り替えるのは人間とビーバーくらいというが、どうせなら快く作りたい、そのためにデザインがある。P.147~、イームズの家で化学実験用蒸発皿が何に使われているかを見た文章の締めは「未来に明るく生きてゆきたいものです」。そんな心のために、生活を見つめ直したいものだ。
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揺れうごく鳥と樹々のつながり 裏庭と書庫からはじめる生態学
吉川 徹朗(著)
冒頭、生活のそばにあるのに顧みられないものとして、著者は「裏庭と書庫」を挙げる。裏庭では鳥たちが実をついばみ数十年後の林をなす一手を打ち、書庫では字を固めた四角い種子が誰かの読みに発芽する時を待っている。足を運んでみれば、生活を一変させる揺るぎない地盤の養分を、著者のように見出せるかも知れない。
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試行錯誤に漂う
保坂和志(著)
何の仕事をしているにせよ(していないにせよ)、その影響が生活におよぶことは避けられない。もし幸運にも人生を捧げたいような仕事につけたなら、それが歓びになると少しでも思えるなら、頭から離さず試行錯誤し続けるべきだ。それは生活の基盤となりうる。ここには、小説家の生活感とも言うべきものが書かれている。
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表現者たちは生活の地盤の欠片を公にするが、基本的にそれは、人に見せない言わないものたちから成っている。そこに加えるマテリアルに、鳥も樹もいいが、カモノハシはどうだろうと提案してみたい。暮らしの頭の奥底にカモノハシがいるだけで、その正しい持ち方を人知れず知っているだけで、楽しく、あと少し頼もしいと思う。
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庭とエスキース
奥山淳志(著・写真)
ヒトは昔、地盤のすぐ上に暮らしていた。それを覆った文明の発展は「生活の地盤」も隠そうとする。写真家と愛犬さくらが何度も訪ねる弁造さんは、北海道の山奥、自然の恩恵を引き出すべく手を入れた庭にある丸太小屋で、絵を描こうとして生きた。鍛えて磨き抜かれた「生活の地盤」の美しさは、そのために生きるに値する。
ブックキュレーター
作家 乗代雄介1986年生まれ。法政大社会学部メディア社会学科卒業。2015年「十七八より」で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。『本物の読書家』で野間文芸新人賞受賞。「最高の任務」で芥川賞候補になる。著書に『十七八より』『本物の読書家』『最高の任務』(以上、講談社)、『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』(国書刊行会)がある。
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