ブックキュレーター文芸評論家 縄田一男
当代きっての目利きが選ぶベスト時代小説2020~縄田一男選 気鋭&新人編~
文芸評論家・縄田一男が選び抜いた2020年のベストテン。コロナ禍に明け暮れた一年だったが、その中で文学は良く闘った。絵師にからんだ作品から、気鋭の注目作、新人の野心作まで・・・いまだからそ絶対読むべき、現代に通じる歴史時代小説はこれだ!
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泰西名画に関する小説やエッセイで知られる作者の隠し玉が俵屋宗達であったということで、まず驚かされる。が、作者は、過去と現在を自在に往還させる魔術的手法によって、風神、雷神に、ギリシャ神話のアイオロスとユピテルが出会うシーンを重ねることに成功、ここにめくるめく、東西を分かたぬ歴史絵巻が現出した。この作者ならではの新たな展開が楽しめる。
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山深い村里から出て来て、奉公していた飛脚問屋に婿入り、それが町年寄次席にまで出世した、いわば立志伝中の人物。口さがない連中が、彼をある妖怪にたとえて「毛充郎(もうじゅうろう)」と呼んだが、その実、作者はこの文化文政の江戸の町を駆け抜けていった男の半生が、どれだけ、血の涙を流すほどの哀しみに満ちていたかを明らかにしていく。この1巻は作者にとって記念碑的作品といえよう。
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クラウゼヴィッツの難解ともいわれた『戦争論』執筆を助けたのは、夫に“知の愛情”を注ぎ込んだ妻(フラウ)マリーであったという物語である。作品は志半ばで逝ってしまった夫の代わりに、この一巻の出版にまでこぎつけたマリーへのヴィルヘルム親王のあたたかいことばで終わる。作者が著作3冊目にしてベストテン級の作品を放ったことは嬉しい限りだ。
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2019年第一巻と二巻が刊行され、今年第3巻から5巻までが書き下ろされ完結した一大伝奇小説。秘密結社黒雲の頭領で江戸の闇に出没する鬼を退治する花魁・瑠璃を主人公に展開する物語は、やがて、幕府や朝廷をも巻き込んだ壮大なスケールにまで広がってゆく。新人の作品としては、近年、最も野心的かつ土台がしっかりしており、この作品を読んでいる時は幸せであった。
ブックキュレーター
文芸評論家 縄田一男1958(昭和33)年、東京生れ。専修大学大学院文学研究科博士課程修了。歴史・時代小説を中心に文芸評論を執筆。1991(平成3)年に『時代小説の読みどころ』で中村星湖文学賞、1995年に『捕物帳の系譜』で大衆文学研究賞を受賞。著書に『「宮本武蔵」とは何か』『日経時代小説時評―1992〜2010』『大江戸ぶらり切絵図散歩―時代小説を歩く』など。『親不孝長屋』『がんこ長屋』『七つの忠臣蔵』『笊ノ目万兵衛門外へ』ほか、編者を務めたアンソロジーも多数。
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