ブックキュレーター小説家 松家仁之
興奮しすぎて? 怖くて? 眠れなくなる理由はほかにもありそうです。
物語は、言葉によって私たちをどこかへと連れていきます。時代、境遇、男女の別も超えて、知らない場所に立っている不思議。それは、ひとりで黙読する「旅」です。経験しようのない他人の人生を、私たちはありありと、我がことのように経験します。「眠れなくなる」のは、そのような瞬間かもしれません。
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きみのためのバラ
池澤 夏樹(著)
8篇を収めた短篇集。それぞれの登場人物は、異郷にある旅人、あるいは移住者たち。土地の食べ物を食べ、空気を吸い、ときには異性とふたりだけの濃密な時を過ごす。「ヘルシンキ」は、国際結婚がやがて離婚へと至り、娘とは年に二度だけ会えることになっている男の、時間の経過とともにふくらんでゆく悲哀を描いた静かな名品。
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冷血
カポーティ(著) , 佐々田 雅子(訳)
アメリカの片田舎で起こった一家四人の惨殺事件。カポーティは新聞でこの記事を読み、現地の住民の反応を描くため取材に向かう。しかし捕らえられた二人組の犯人と面会し、自分と同じ小柄な犯人ペリーに抑えがたい興味を覚え、以後五年以上にわたって事件の詳細を追うことに。被害者の家族と犯人の人生が、恐ろしいほどに迫ってくる。
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地下深くに正体不明の何かがうごめく都会で、奇妙な依頼を受ける「私」。一角獣が放牧され、時間が止まっているような非都会的な世界に入りこんだ「僕」。ふたりはそれぞれ与えられた謎を解くために、孤独で危険な作業を始める。彼らの本当の使命とはなにか、そして無事に還ってくることはできるのか。村上文学の転換点となった初期の代表的長篇。
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アフリカの日々
イサク・ディネセン(著) , 横山貞子(訳)
18年にわたって、ケニアでコーヒー農園を経営したデンマーク生まれの女性(野上弥生子と同い年)が、土地の先住民族であるキクユ族、ソマリ族、マサイ族らとともに過ごした日々。ケニアの農園の暮らしとはどのようなものか、そこで暮らす人々が大事におもうもの、おそれるもの、よろこび。こころの襞まで見つめる観察力と文章に陶然とする。
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ブックキュレーター
小説家 松家仁之1958年東京生まれ。編集者を経て、2012年、長篇小説『火山のふもとで』を発表(読売文学賞受賞)。つづいて、『沈むフランシス』(2013年)、『優雅なのかどうか、わからない』(2014年)、『光の犬』(2017年、芸術選奨文部科学大臣賞、河合隼雄物語賞受賞)、『泡』(2021年)を発表。江國香織、湯川豊との共著に『新しい須賀敦子』。編集を担当した本に『須賀敦子の手紙』、伊丹十三『ぼくの伯父さん』、『伊丹十三選集』(全三巻)、皆川明『生きる はたらく つくる』などがある。新潮クレスト・ブックスからベスト短篇を選んだアンソロジーに『美しい子ども』。現在、月刊誌「新潮」で長篇小説『天使も踏むを畏れるところ』を連載中。
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