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honto先行配信毎月第2・4木曜配信 『みちのくに みちつくる』著者インタビュー:しまたけひと―この作品を描くに至った思いとは―?『みちのく潮風トレイル』を実際に歩いて感じたこと、そして、この道の魅力について語ってもらいました。

『みちのく潮風トレイル』700kmの道のり、作品を描いていく中での葛藤とは―

Q)『みちのくに みちつくる』を描こうと思われた動機は?

 母方の実家が宮城県で大学も仙台でした。だから東北には親戚や学生時代の友人などが大勢住んでいます。
それで震災後の6月、すぐに瓦礫処理のボランティアで仙台の荒浜海岸へ行きました。学生時代によく遊びに行っていた海岸の景色がすっかり変わっていて、本当に大変なことだと改めて思いましたね。

東京に戻ってからも親戚や友人から、東北のリアルな情報が入ってきていて、マンガで復興支援のようなことができれば、ということはずっと考えていました。ただ同時に、マンガでの復興支援は、もっと力のある人や売れっ子の人がやらなければ意味がないのでは?と思ったりもしていましたね。
当時は友人たちの経験を聞いてマンガにしたり、個人的に描いてはみたものの、どうもイマイチしっくりいかないというか…。
例えば、津波警報が出て避難するシーンは、ものすごく真剣な表情で描いていたのですが、友人からは「初めはこんなに切羽詰まった感じではなかった」と言われたり、キャラクターの喜怒哀楽、リアルな表情がどれなのか分からない…。
そんなこともあり、マンガで被災地に関わるのは無理なのかと考えていた頃、たまたま「みちのく潮風トレイル」を、モニターの大学生がゴールしたというニュースを見て「ここを歩いて、それをマンガにしよう」と思いました。

東京に住んでいても東北を見ているぞということを知ってもらいたい、俗っぽいことを言えば、友人や親戚に褒めてもらいたいという思いもありましたね(笑)。

Q)実際に歩いてみた感じた東北地方や『みちのく潮風トレイル』の魅力は?

本州最東端の重茂半島を通ったとき、地元の方にお水をいただきました。
そこは、バスは1日3本くらい、自販機もなく困り果てて…。「怪しまれるかも…」と思いつつも、民家の戸を叩いて「すみませんが、お水をください」とお願いしたら、お水の他にも、食べ物まで快く持ってきてくれて嬉しかったですね。
聞けば、つい最近も自転車で日本一周している若者に「この先は宿も何もないし、夜は危ないから泊まって行きなよって言って泊めたよ」と(笑)。
作中でも言っていますが、「みちのく潮風トレイル」のコースになっている沿岸地域は、震災前から自転車や徒歩で日本一周する方が結構いて、地元の人たちは旅人慣れしているんですね。
大きい荷物を背負って歩いている人に対しては気安く話しをしてくれる。それはとてもありがたかったですね。そういう地元の人たちとの触れ合いが魅力だと思います。
 あと、自分は甘いものが大好きで、作中にも出てくる「生せんべい」や「みそパンデロウ」は本当においしかったです。
あとは、魚介類が苦手でしたが、普通の民宿で食べたお刺身の美味しさに感動しました。東京で食べるお刺身とは全く違い、今まで食わず嫌いだったのかもしれないと思うほどでした。地元ならではの美味しいものに出会えるのも魅力ですね。

Q)『みちのく潮風トレイル』700kmを歩いている中であった印象的な出来事は?

 一番辛くもあり印象に残った場所は、南三陸町から牡鹿半島を越えて石巻に入るルートです。
女川町を通って行きましたが、国道から外れている辺りはすごく復興が後回しにされていると感じました。とりあえず道だけ作って更地にしているけれど何も手をつけていない。そういった景色の中を歩いていると非常に気が滅入りました。
ただ救われたのは、そういう場所だからこそ、なのかもしれませんが、この辺りの人たちが一番あたたかでしたね。
工事現場の方が気軽に声をかけてくれて、寒いからとホットコーヒーをわけてくれたのも、北上川沿いの全部流されてしまった堤防を歩いていたときでした。

途中、トイレを借りるために入った駄菓子屋は、児童館のような感じになっていて、地元の小学生たちが「妖怪ウォッチ」の絵を描いてくれたり、楽しい時間を過ごしました。
そんな触れ合いがあった後、大川小学校の前を通りました。
さっき目の前にいた子供たちも通っていたのだろう、同級生や親族の方が亡くなったりもしたのだろう…そういうことにリアリティがあって、被害があった場所を目の当たりにするのはきつかったし、余計に胸に迫るものがありました。

 TVや新聞だとエピソードとして切り取られて報道されますよね。それはそれで悲しいし辛い経験なのは分かります。でも実際に青森から歩いてくると、実際に接した人たちの身に起こったことだ、というのがダイレクトに突き刺さってくる。
東京にいて知る被災地とは全然違います。自分で歩いてきたことによって実感できる空気、画面を通してでは判らない辛さ、そういったものをすごく感じましたね。

Q)作品の中で、震災・原発・東北支援について、漫画という娯楽の題材にしていいのか迷いがあったとおっしゃっていますが、実際に『みちのくに みちつくる』を描いていく中で難しいと感じたことや迷ったことなどはありますか?

 上巻を描き上げた時点で、取材でお世話になった友人や宿の方に作品を送って色々感想をいただきました。
お礼をいただく中で、作中に登場する少年に対しては見事に評価が分かれました。震災を経験した人と、していない人というところで分かれたのかもしれません。
TVや新聞で震災のことを知ると「東日本大震災大変だ!」と全部一括りにしてしまうところがある。
もちろん大変なことですが、被災した大部分の方は、悲惨な光景を見て深い悲しみやショックを受けたとしても、自分の生活を立て直して日常生活を送っていかなければいけない。だから、そればかりに関わっていられないというのがリアルな感情なのだとも言われました。
少年の言葉や感情は、直接聞いたことではなく、あくまでも旅をしながら感じたことを自分のフィルターを通して表現しているので、それをどう描いていくかはこれからの課題です。

 それと「みちのく潮風トレイル」のゴールは相馬市ですが、『みちのくに みちつくる』のゴールはもう少し先の場所にしようと思っています。
2013年時点にはまだ検問があり、瓦礫もそのままで、家は建っていてもここまで歩いてきたところとは全く違う景色です。
物語の結末は決めていますが、すべて想像で描くのであれば、こんなに悩まなかったという部分は多々ありますね。実際は、もっと単純なことや複雑なことがあるので難しいです。

 でも、この作品は締め切りは決まっていますが、自分のペースで描き足したり直したりできるのがありがたいですね。一度完成させて何日か寝かせて、もう一度読んで、いらない部分やおかしい部分を削ったり、セリフを書き換えたりできます。また、友人の感想を聞きながら修正が必要な部分なども見えてくるので、描きやすいですね。

Q)どういう展開になっていくのか楽しみです。ところで、四国のお遍路についての作品『アルキヘンロズカン』も実際に歩いて取材されていますが、しまたけひとさんにとって「歩く旅」の魅力とは?

 歩いていて嫌なこともありますが、旅先で起こった嫌なことは帰って来ると関係なくなる。笑い話にできるし、マンガにしやすい。
そして、歩いていると嫌なことをあまり引きずらないですね。ランナーズハイという言葉がありますが、ウォーキングハイという感じで、小さな事がどうでもよくなってくる。
日本のトレッキング界で有名なシェルパ斉藤さんも講演会でおっしゃっていましたが、歩く旅というのは1日1回必ず「何か」があるんですね。
歩く旅は他人との関わり合いみたいなものが車や電車の旅より多いと思います。例えば、電車の待合室で、こちらから話しかけたりすることって、自分はまずしない。
でも、大きな荷物を持って向こうから歩いて来る人たちがいたら、「どこまで行くの?どこから来たの?」と聞くと思う。そういったことも含めて歩いていると何かしらエピソードがあるので、楽しい…。
『みちのく潮風トレイル』は楽しい景色だけではないですが、「歩く旅」というのは、旅として非常に楽しいと思いますね。
 あと、お遍路のガイドブックを参考に、2ヶ月以上かけて旅のしおりを作りました。手前味噌ですがこのしおりは役に立ちました。調べるのも楽しかったですよ。歩く旅は準備段階も楽しいですね。

Q)『みちのくに みちつくる』を読んで『みちのく潮風トレイル』を歩いてみたいと思った方へのアドバイスなどあればお願いします。

 リアルなアドバイスとしては、東北の国道は歩道が無いなど、人が歩くようにできてないので「国道は危ない」ということですね。
あとは、楽しんでいいのか、どういう顔をして歩いたらいいのか、など悩むと思います。
自分自身もお遍路をしたときとは圧倒的に違いました。お遍路のときは、歩いている時間の9割は自分のことばかり考えていたのですが、今回は正直、自分のことを考えてはいけないような状況ばかりで、自分のことを考えている余裕がないというか、考えてはいけない気持ちになる。
自分の悩みなんて、今、目の前に広がっている景色に比べたらどうでもいいことじゃないかと―。
でも、ここまで『みちのくに みちつくる』を描いてきて、色々な方の感想をいただいて、少しずつ思えるようになってきたのは、被災地の方々はこちらが思っているほど、引きずってない。人が来て観光してくれることを、嬉しく思ってくれる人が多い、ということです。

だから、変に気を遣うことなく、観光気分でいいのでは、と思います。震災遺構があれば写真を撮ってもいいでしょうし、手を合わせてもいい。「みちのく潮風トレイル」は、そのための道なのだと思います。たくさんの人たちがそれぞれ何かを感じながら、考えながら歩くことによって作られる、新しい巡礼の道になっていってほしいと思います。

※ページ内に掲載している地図は、昭文社の「ツーリングマップル東北」をベースに、しまさんが独自の情報を加えたものです。販売はされておりませんので、ご注意ください。

著者プロフィール見出し

しまたけひと

東京都西部出身、在住、漫画家。
宮城県にある東北学院大学文学部を卒業。同ペンネームによる「歩く漫画」に、双葉社「アルキヘンロズカン」 講談社「敗走記」があります。

しまたけひとさんの著作

電子書籍

みちのくにみちつくる

みちのくにみちつくる

しまたけひと(著)

出版社:双葉社

税込価格:0円~

歩いて歩いて700キロメートル。東北の被災地を二人の女性と一人の男がひたすらに歩く旅の物語。それは、日本の新しい「巡礼」の道…。環境省が地元の人たちと協力して作った東北復興推進計画、「みちのく潮風トレイル」。それは青森県八戸市から福島県相馬市までの海岸沿いの自然歩道を一つにつなげ、観光客に歩いてもらおうという復興計画。著者はいち早くこの計画に個人的に参加。東北の自然と文化、そして何より被災地の人々の心を取材し、この物語を描きました。四国お遍路、熊野詣、お伊勢参り。古くから巡礼の旅はありますが、この道はまったく新しい「巡礼」の道。「あの時」と「今」と「未来」を旅人に考えさせてくれる道なのです。

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