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 honto限定書下ろし! 豪華執筆陣による特別寄稿エッセイ 「ずっと、本と」 第2弾

10周年を迎えたhontoに、豪華な著者の方々からお祝いのエッセイをご寄稿いただきました!
電子書籍やhontoについて、ご自身の読書体験など、普段なかなか知ることのできない、充実した内容となっております。
hontoでしか読めない貴重なエッセイを、ぜひお楽しみください!

  • 愁堂れな 先生
  • 白川紺子 先生
  • 辻村七子 先生
  • 町田そのこ 先生
  • 宮野美嘉 先生
  • 深山くのえ 先生

『私の読書癖』

まずはhonto様、十周年おめでとうございます。益々のご発展をお祈り申し上げます。私も会員です。紙の本は手元に置いておきたいものを近くの書店で受け取り(通販でも)、電子は今すぐ読みたい! と思い立ったものを購入させていただいています。夜中でも読みたい本がすぐ読めるって、本当に便利な時代になりましたよね。

さて、今回のエッセイ、テーマは『ずっと本と』ということですが、子供の頃から今に至るまで、趣味を聞かれたら読書と答え続けてきました。物心ついたときから本を読むのが好きだったので、まさに『ずっと本と』共に生きてきたといっても過言ではありません。ってちょっと大袈裟ですね。そういう人、結構いますよね。

新しい本を読むのもわくわくしますが、お気に入りの本のお気に入りのシーンを繰り返し繰り返し、それこそ覚えてしまうほど読み込むという癖? が子供の頃からありました。たとえば『小公女』だったら、『あのインドの水兵さんに猿を渡していいですか?』『この子だ! この子だ!』のシーンとか、もう少し大きくなってから読んだ江戸川乱歩の『孤島の鬼』では、諸戸通雄の父親からの手紙の文面とか(泣けますよね)。横溝正史の『黒猫邸事件』は『耕ちゃん、しっかりしなきゃ駄目だ』(どこかわかります?)、京極先生の『姑獲鳥の夏』はやはり、榎さん初登場シーンの緋襦袢でしょうか。有栖川先生の『四十六番目の密室』はいわずとしれた『もちろん(ルビはアブソルートリー)』ですよね。これでアブソルートリーの単語の意味を覚えた人も多いはず。

好きな部分だけ繰り返し読んでいるからか、他の部分の記憶が曖昧になっていることもままあります。凄く好きな本なの。こういう話なんだけど、と友達に説明していると、「それ、本筋から外れてる部分じゃない?」とその本を知っている他の友人から突っ込みが入ったり。

紙の本ですと、好きな部分ばかり読むのでそのページが開きやすくなってます。電子でも栞機能を遣わずとも、だいたいこのへん? とスクロールでいきつきます。

ふと思い立って本かタブレットを手にし、お気に入りの部分を何度か読み返して、ああ、やっぱり好きだなあと改めて思い、幸せな気分で本を閉じる。そういう本はまさに自分にとっての宝物。出会えた幸運に感謝です。この先もそういう宝物のような本に出会えるよう、紙でも電子でも色々読んでいきたいと思っています。

そして願わくば一人でもいいので、拙作のここが好き、と、覚えるほどに読み込んで、『宝物』はおこがましいので『お気に入り』の一冊に加えてくださるかたが、どうかいらっしゃいますように。

著者近影

愁堂れな(しゅうどう れな)
12月20日生まれ。射手座、B型。東京都出身、在住。2002年『罪なくちづけ』でデビューして以来、著書多数。
2時間サスペンスと宝塚が好き。
公式サイト「シャインズ」 http://www.r-shuhdoh.com/

好きな本をおすすめできる貴重な場をいただきましたので、子供のころから二十代までのあいだに読んだなかで、著しく影響を受けたと思う本を紹介したいと思います。

仁木悦子・仁木兄妹シリーズ
小学生のころ、ピアノ教室の待ち時間に常に読書をしていた私に先生が何冊かまとめて譲ってくださったのが、仁木悦子さんの本でした。仁木兄妹が活躍するミステリ小説は有名ですので、ご存じのかたも多いと思います。私も兄妹の活躍に夢中になったひとりで、当時、すでに絶版が多かった仁木さんの本を、市内の書店、古書店を自転車で回ってすこしずつ集めた思い出があります。小説の登場人物に「はまる」という感覚を知った最初の小説です。ほかにも三影潤シリーズなど面白い小説がたくさんあって、復刊もされておりますので、まだご存じないかたにはぜひおすすめしたい本です。

太宰治『女生徒』
ひとりの少女の繊細な心の機微を書いた小説……といってしまえば単純すぎますが、高校生のころ出会った、とても好きな本です。いまでもここに書かれたものを大事に心にしまっております。

石川淳
大学生のころ読んで、以後、十年近く自分ではまったく小説を書かなくなりました。それくらいの衝撃でした。石川淳のどの作品でもいいので、一作読んでみてほしい、と思います。

岡本綺堂『半七捕物帳』
こちらも大学生のころ出会った小説です。捕物帳の元祖。とにかく面白いうえ、半七親分がかっこいい。探偵小説の面白さに加えて、半七の造形がとても好きなのと、江戸、明治の情景があざやかに書かれているのも好きなところです。岡本綺堂は怪談、奇談を書いた小説やそのほかの作品も大好きです。

クレア・キーガン『青い野を歩く』
短編集。語りすぎない語り口、言葉を削って、行間から感情がにじみでるような文章に、非常に感動を覚えた作品です。淡々とした、哀切な雰囲気がとても好きです。

パトリシア・A・マキリップ
二十代になってから知って、当時読まなくなっていたファンタジー世界に私をふたたび引き戻してくれた作家です。いままで紹介した作品は短編がほとんどで、私自身、書くのも読むのも短編が好きなのですが、マキリップのファンタジーはやはり長編でどっぷり浸りたくなります。ちょっとした隙間時間に読むというよりは、休日にじっくりとりかからないといけない小説かもしれませんが、紡がれる幻想的な世界は隅々まで魅力に溢れていて、引き込まれます。『冬の薔薇』『バジリスクの魔法の歌』などがとくに好きな作品です。ファンタジーという点において、多大な影響を受けていると思う作家です。

本選びの参考になりましたら幸いです。

著者近影

白川紺子(しらかわ こうこ)
三重県出身。同志社大学文学部卒。雑誌Cobalt短編小説新人賞に入選の後、2012年度ロマン大賞受賞。
『下鴨アンティーク』『契約結婚はじめました。』『後宮の烏』シリーズ(集英社オレンジ文庫)、『ブライディ家の押しかけ花婿』『夜葬師と霧の侯爵』(コバルト文庫)などの著書がある。

『honto 本と私』

honto十周年おめでとうございます!

思えば本に生かされてきた人生です。誰かと話したい時、でも話し相手がいない時、あるいは「誰にも言えない悩みがあるけれど誰かに話を聞いてほしい」というようなアンビバレンツを抱えている時、本はいつも強い味方でいてくれました。今もそうです。

本は、本です。紙に書かれた(あるいはタブレットに表示された)文字です。

でもそれは確かに、過去、誰かによって書かれた文字です。

ある意味では命の痕跡と呼ぶこともできるでしょう。

本を開けば、そこには誰かがいる。

確実に誰かがいてくれる。

それは本の登場人物かもしれないし、作者かもしれない。どっちでもいい。
『誰かがそこにいてくれる』ことが、どれだけ支えになってくれることか。

今と昔とで少し違うのは、自分が作家という職業に就いたことです。ありがたいことに私も、本を通して誰かに言葉を届ける人の一人になれました。

私の言葉はどこかの誰かに届くのかもしれない。いや、届く。届いてしまう。

その言葉は誰かを傷つけてしまうかもしれません。
でも同じように、そっと背中をさすったり、握手をしたり、ハイタッチしたりすることもできるかもしれない。

ありがたくも、こわいことです。

でもとても嬉しく、光栄なことです。

人生は旅にたとえられたりもしますが、私はひとり旅が大好きです。

でも時々、不意にさびしくなることもあります。

そういう時に本は、とても心強い旅の道連れになってくれます。

あなたの旅路にも素敵な道連れがありますように。

本っていいものだなあ~。

最後に蛇足ではありますが、作家になってからより深刻になった支出『書籍代』についても語らせてください。本って、買っても買っても必要になるじゃないですか。なんとなれば買えば買うほど「なるほど今度はあの本が必要だ」とわかって、仲間の本を呼ぶじゃないですか。以前何かの企画で『一生分の書籍代、××円換算のポイントをプレゼント!』というのがありましたが、あれ換算したら私の数年分の書籍代だったのですがそのあたりについてはどうお考えでしょうか。皆さんはご自分の一生分の書籍代って幾らくらいになると思いますか? 私は恐ろしすぎて考えるのをやめました。本って本当にいいものですが、親しみすぎると生活を侵食する恐ろしいものにもなります。食費と交際費は削れても書籍代は削れない、なんてこともあります。人間としてどうかと思いますがもう戻れません。おお、本よ……。この身は本に生かされている……。本を! 本をください! もっと本を!(禁断症状)

やっぱり、本っていいものだなあ~。

著者近影

辻村七子(つじむら ななこ)
9月24日生まれ。神奈川県出身。『時泥棒と椿姫の夢』で2014年度ロマン大賞受賞。
受賞作を改題・加筆改稿した『螺旋時空のラビリンス』で文庫デビュー。

人生を、物語と共に過ごしている。

怖がりだった園児のころ、歯科の待合室で泣きながら『アンパンマン』シリーズを読んでいた記憶はいまも鮮明だし、小学校一年生には『ぞうさんのうんち』という絵本を、弟とげらげら笑いながらページを捲った。「りぼん」や「なかよし」といった少女漫画雑誌を毎月心待ちにした時期があったし、氷室冴子氏の作品に縋って生きた時期もある。夢中になった作品は、数知れない。毎日、何かしらの物語の一文を追っていたように思う。

日々の生活に、物語が深く関わっていたからだろう。本を手にすれば、その当時の自分がふわっと思い出される。『ああ、この頃私は十七歳くらいだったっけ』とか『このときは仕事が全然長続きしなくてクサクサしてたんだった』『いまはすっかり縁遠くなったあの子と出かけたときに見つけた本だな』とか。そして、嫌な感情、嬉しかった瞬間、誰かとの笑い声なんかが、まるで香水のように匂い立つのだ。だから、昔から使っている本棚の前に立つとアルバムを眺めているような気分になる。

五月二十七日に、新刊『宙ごはん』を刊行した。話の主人公である『宙』という女の子は読書を身近に感じている。物語は彼女の人生の折々に関わってくる。母からの読み聞かせであったり、嫌な現実からの逃避であったり。物語の好みについて語り合うことで、付き合い始めた男の子の意外な一面を知るきっかけになったりもする。成長していく宙は、あるとき『どうして本を読むのか』と問われて、考える。

彼女がどう答えたのかは作品を読んでいただきたいのだが、このシーンを書いているときに『私だったら、物語に救われたからと答えるな』としみじみ考え込んでしまった。物語の中の人物たちのやさしさや力強さ、逞しさ。苦境を乗り越えていく姿や、過ちを認め合う歩み寄りの姿。恐怖を堪えて立ち向かった後に見る景色のうつくしさ、共にいてくれるひとの尊さ。そういったもの全てが、生きていくことの難しさを前に何度も立ち止まってしまう未熟な私を励ましてくれた。生きていくための道筋の見つけかたを教えてくれた。大人になったいまでも、物語は私の友となり師となって寄り添ってくれている。

だからこそ作家を目指したのだということも、改めて思い返した。おこがましいことではあるけれど、物語に救われた恩を返したかった。私が物語に救われたように、物語によって救われるひとはきっとたくさんいる。その誰かに向けて、書きたいと思った。その思いは、いまも変わらない。

これからも、私は物語と共に過ごしていくだろう。読み手として、書き手として。物語の中でそっと息を吐いたり気持ちを寛げたりして、そこで豊かに潤った心で私なりの物語を紡いでいく。

そうして生み出した物語が、誰かの人生のいっときの友になれば、嬉しい。

著者近影

町田そのこ(まちだ そのこ)
1980年、福岡県生まれ。
2016年「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。
17年、同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。
『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞。

『物語という思考伝達』

コミュニケーション能力の低い子供でした。

人の顔を記憶できないので、自分が誰と話しているのか分からない。

複数の相手と会話すると、今が誰のしゃべる順番だか分からない。

なんでしゃべらないのかと聞かれても、なんでしゃべる必要があるのか分からない。

言葉の意図を理解するのがとても苦手で、「AになったのはBをしなかったから」と言われても、「BをやっていればAにならずにすんだ」ということが理解できない。

そういう子供でした。

宮野美嘉といいます。作家をしています。

人の言葉の流れに乗るのは難しく、自分の感覚を人に伝えるのも難しい……

暑いとか、寒いとか、トイレに行きたいとかいう感覚を自覚するのが下手で、人の声や光や重ね着が苦手で、文字には色がついて見えるし、知らない匂いには音を感じる。

担任教師から「稀有なお子さん」とか言われていたのを知ったのは最近です。

だけど、閉ざされた自分の内側は無限に広がる空想の世界で、私はいつもその世界を楽しんでいましたから、そもそも人とコミュニケーションをとる必要性をあまり感じていませんでしたし、自分はコミュニケーション能力が低いのだという自覚もなかったわけです。

ただ、人と会話するのはテストで百点を取るより難しいということは知っていました。

けれど、物語は違います。

人の会話は理解できなくても、それが物語であれば私は理解することができました。

それは作者が読み手に何かを伝えるために紡がれたもので、会話している相手がどうして笑っているのか分からない私にでも、主人公がどうして笑っているのか理解できるように構築されていたからです。

作者はこういうことが伝えたいに違いないと、私は錯覚することができました。

幼い頃から読んできた大好きな物語たちは、私の内側と外側を繋いで、私に世界の形を教えてくれました。

その逆も同じで、私はいつどうして作家になろうと思ったのか、はっきり覚えていないのですが……物語という道具を使えば、私は人に自分の伝えたいことを伝えることができるのです。

会話で自分の思いや考えを伝えようとしても、0.000001パーセントも伝わらないのに、物語を書くという行為でなら0.1パーセントくらいは伝えることができます。いえ、伝わったと錯覚することができます。

言いたいことを言うために、私は物語を書いている。

読書と執筆……これが私にとって最も簡単で確かなコミュニケーションの方法なのです。

著者近影

宮野美嘉(みやの みか)
作家。広島県出身。第5回小学館ライトノベル大賞ルルル文庫部門を受賞し、2011年デビュー。
コミカライズもされ人気を博している「蟲愛づる姫君」シリーズ(小学館文庫キャラブン!)など著作多数。
Twitter : @mikanbako315

2020年春、コロナ禍で書店に行けなくなった。

そもそも近隣から「街の本屋さん」が消えて久しかった。子供のころ『なかよし』や『小学○年生』を定期購入していた書店も、高校の帰り道に通った書店も、街の様変わりとともになくなってしまっていた。

さびしさはあったが、すでに大人になっていた私がそれで困ることはあまりなかった。よく利用していたのは勤務先に近い書店だったし、時には電車で一時間以上かけて東京の大型書店にも行っていた。その後、諸事情から専業作家になったため、毎日のように書店通いすることはなくなったものの、買い物ついでに電車で数駅乗れば、書店は何軒もあった。

それがコロナ禍である。外出に制限がかかり、解除後も移動には慎重さを要するようになった。そして気づく。「電車に乗れば書店に行ける」は、「電車に乗らなければ書店に行けない」だったのだ。かつて「街の本屋さん」があった場所の前で、いまさら呆然とすることになった。

書店に行けなくても本は出る。こんなときは通販だ。以前丸善で作ったhontoカードの存在を思い出した。ポイントが残っている。私はhonto「本の通販ストア」デビューをはたした。

通販でひとつ困ったのは、資料の購入だった。私は現在、主に平安時代を舞台とするキャラクター小説を書いている。歴史資料は必須だ。小説や漫画に読者との相性があるように、専門書や教養書とも相性がある。だから書店で中身を確認するのはとても大事だ。しかしそれができない。私にとって本を買うことは狩りに似ている。通販という新しい狩り場で、この資料はいま必要なかった、これは思っていたのと違った、注文直後に3%OFFクーポンが発行された、等々、何度かの悔しさを経験しながら、少しずつ通販での狩りは上達していった。

2022年春、本棚の限界に気づいた。別にいま初めて気づいたわけではない。私の人生で本棚に余裕があった時期など一度もない。ゆえにこれは、そろそろ本棚の整理が必要だという合図だ。仕方なく漫画などを厳選し、残念ながらお別れする本を段ボールに詰めてわずかなスペースを確保するが、そもそも手放したくて買う本はないのだから、この作業は毎度気が重い。

ところでこのとき、確保できたスペースがやけに少ないことにも気がついた。hontoで毎日のように資料探しができてしまった結果、明らかに購入数が例年より増えていた。いつどんなものを書くことになるかわからないため、資料とはおいそれとお別れができない。漫画は読みたい。でも置く場所がない。私は紙の本が大好きだ。でも――

葛藤の末、honto「電子書籍ストア」のページを開いた。昔好きだったけれどやはり本棚の限界で泣く泣く手放した、BL漫画を見つけてしまった。続きが出ていた。私はとうとう、新しい狩り場に足を踏み入れた。最近学んだのは「電子書籍でも積ん読が発生する」ことである。つくづく狩りの道は奥深い。

著者近影

深山くのえ(みやま くのえ)
神奈川県出身。二〇〇五年「花色の戯れ」でデビュー。
主な著書に「王と后」「恋をし恋ひば かんなり草紙」「色にや恋ひむ ひひらぎ草紙」「桃殿の姫、鬼を婿にすること」(小学館文庫キャラブン!)などがある。

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