honto+インタビュー vol.14 上田秀人

注目作家に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、最新作『竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末』刊行を記念して上田秀人さんが登場。

「東北の視点から幕末を書いてみたかった」

無名の仙台藩士を主人公に据える

三田村元八郎シリーズ、奥右筆秘帳シリーズなど、主に江戸時代を舞台にして作品を書き継いできた上田秀人さんが、新作『竜は動かず』で取り組んだのは幕末の時代。
「デビューのころには手がけましたが、その後、長らく幕末は扱ってきませんでした。他の作家の方々もよく取り上げていらっしゃる時代なので、私が出る幕はあまりないかなと思っていた。ですが、来年にはデビューして20年となりますし、そろそろまた挑んでみようという気持ちが固まりました。
幕末は維新を興した側から語られることが多い。じゃあ私は違う方向から、あの時代を眺めてみようと考えました」
そこで上田さんが主人公に据えたのは、仙台藩出身の玉虫左太夫。よほどの歴史好きでないかぎり馴染みのない名だが、じつは日本で初めて世界一周をした船に乗り込んだ一人だった。
その生涯は興味深いものの、あまり語られることのない人物を書くのは、作品をつくる上で難しさがないのだろうか。
「まっさらなところに新しい人物像を生み出すのは楽しいですよ。ただ、作品には勝海舟や坂本龍馬も登場するので、そうした〝濃い〟キャラクターとのバランスには気を配らないといけませんでした。龍馬たちのほうを、読者がすでに持っているイメージ通りに描いて、存在感が出過ぎないようにしました」

「情」が人や時代を動かすさまを描いた

左太夫は1860年、外国奉行の従者として船に乗り込むこととなる。日米修好条約批准のためにアメリカへ向かう一行に、名を連ねたのだった。
品川沖を出発し、荒れる海を乗り越え、異国の人々とコミュニケーションをとり、遠い国の現状を憂う。そんな日々を送るうち、玉虫左太夫は、「人は礼に生きるものではなく、情で動くものである」と気づく。「情」の大切さは、今作を貫く大きなテーマとなっている。
「情について書こうというのは、ずっと念頭にありました。戦後の日本はしばらく、経済発展をはかるために、情を犠牲にしてきたところがあります。それがここへきて、たび重なる震災をきっかけにボランティアが根づくなど、情を見直す気運が高まりつつあるのでは。人や世の中を動かすのは、やっぱり情なのだと、再確認することが多くなりました。その気持ちを、作品にも反映させたかったのです」
世界周航を経て仙台藩士の身に戻った左太夫は、幕末の動乱に翻弄されながら、いつしか東北の独立を夢想するようになる。日本各地、そして世界を舞台にした、時代小説の枠を飛び越えるようなスケールを持った作品である。
上田さんは20年ものあいだ、作品をコンスタントに生み出してきた小説家である以外に、もうひとつの顔がある。歯科医としての仕事も、ずっと続けているのだ。
そんな多忙な生活のなか、上巻、下巻ともに300ページを超える今作を書き上げた。しかもこの作品、初出は新聞連載小説だった。長い期間、同じペースで物語を書き継いで行くのはたいへんなことと推察する。
「しんどかったです。新聞小説は、途中で決して休めませんからね。しかも、一回ずつの掲載はたいへん短いのに、そのなかで盛り上がりをつくり、さらには次回への期待を持ってもらいながら終わらせなければいけないのです。ひじょうに神経を使います」
日々、地道に執筆を重ねていった結果、刊行数がすでに100冊以上という超人的なキャリアのなかでも最長の作品が、姿を現すこととなった。「私の作品の中でいちばんの大作となりました。激動の歴史のなかで生きた日本人の姿を、堪能していただければと思います」

新刊のご紹介

竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末 上 万里波濤編

竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末 上 万里波濤編

出版社:講談社

無名の仙台藩士が学問への志を認められ、やがては外国奉行守の従者として渡米する。それは日本人で初めての、世界一周の旅の始まりでもあった……。来年デビュー20周年を迎える著者の新刊!

竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末 下 帰郷奔走編

竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末 下 帰郷奔走編

出版社:講談社

世界周航を終えて帰国後、幕末の動乱に翻弄されながら、いつしか東北の独立を夢想するようになる。時代小説の枠を飛び越えるようなスケールを持った上下巻、ここに完結!

著者プロフィール

上田秀人(うえだ・ひでと)

1959年、大阪府生まれ。大阪歯科大学卒。
97年、第20回小説クラブ新人賞佳作に入選し、時代小説を中心に活躍。
09年、「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」のベストシリーズ1位に輝いた。
10年、『孤闘 立花宗茂』で第16回中山義秀文学賞を受賞。
14年、「奥右筆秘帳」シリーズで第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。その他に「百万石の留守居役」「表御番医師診療禄」「禁裏付雅帳」「御広敷用人 大奥記録」「闕所物奉行裏帳合」など、多数の文庫人気シリーズを抱える。
単行本の近著には『梟の系譜 宇喜多四代』『日輪にあらず 軍師黒田官兵衛』『峠道 鷹の見た風景』『鳳雛の夢』『傀儡に非ず』など。

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