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注目作家に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、最新作『たべもののおはなし パン ねこの町のリリアのパン』刊行を記念して小手鞠るいさんが登場。
「食べものを介した、心のふれあいの豊かさを伝えられたら」
小手鞠るいさんといえば、恋愛小説の書き手というイメージが強いという人は多いかもしれない。しかし、近年だけでも、一人の女性に光を当て戦争と平和について考えさせる硬派小説『アップルソング』、詩作の恩師であるやなせたかしさんとの交流を綴った『優しいライオン』、障碍をテーマにした短編集『曲がり木たち』など、その作品世界は広がり続けている。
「原点は、ただ『書くのが好き』という気持ち。この気持ちだけしかないといってもいいくらい。でも、『私には書くことしかない』という信念は執筆を続ける上での強みになり、私をより自由にしてくれているのです」
恋愛小説で実績を積んだ後は、「世の中に伝えていくべきことを書くという使命感」が筆を走らせているという小手鞠さん。今、特に意識的に向き合っているのは、平和やジェンダー、障碍、動物愛護といったテーマだという。やなせたかしさんから受け継いだ「弱者へのまなざし」「平和への願い」は、作品により色濃く表れるようになってきた。
「未来の大人にメッセージを届けたい」と創作する児童書の世界にもファンが多い。
そんな小手鞠さんの最新刊となるのは、子どもも大人も楽しめる児童書シリーズ「たべもののおはなし」の最終作『ねこの町のリリアのパン』。猫好き同士の縁も深い編集者から「食べものをテーマに」という依頼を受け、「食べるのも作るのも大好き!」というパンを題材に選んだ。
「パン、動物、アメリカのカントリー、ヨーロッパの古い町並み、手紙。好きなものを全部詰め込んだ」という物語には、人生で誰しもが出会う悲しみとそれを癒やす温かな愛情の交流が描かれる。バックボーンには、村上春樹の翻訳で読めるレイモンド・カーヴァーの名作『ささやかだけれど役にたつこと』から得たひらめきがあるのだそう。「食べものを介した心のふれあいの豊かさを伝えられたら」。 全ページに展開される可愛らしくもどこかビターな雰囲気のある絵はくまあやこさんによるもの。小手鞠さんは、今回の創作で「絵の力を大いに感じた」と振り返る。「最初にくまさんの絵を見た瞬間にイメージが膨らんでいき、登場する動物の耳の長さまで細かく相談しながら一緒に世界を作り込んでいきました。まるで映画をつくるようなチームワークで本の魅力が増したと思います」
作家としてキャリアを重ねてなお、しなやかな感性でチャレンジを楽しむ小手鞠さん。「今は、本当に好きなテーマを自分のペースで書けている。書くことにかじりついてきてよかった。そう思います」。“猫の日”の発売を楽しみにしよう。
新刊のご紹介
たべもののおはなし パン ねこの町のリリアのパン
出版社:講談社
悲しみにくれていた老犬のジョンソンさんにさしのべられる猫のリリアさんの優しさとは?
心もおなかもあったかくなるような大人も楽しめる児童書。
小手鞠るい(こでまり・るい)
1956年、岡山県生まれ。ニューヨーク州在住。
同志社大学法学部卒業、書店や学習塾勤務を経て、1981年に第7回サンリオ「詩とメルヘン賞」受賞。
第12回「海燕」新人文学賞を受賞し、小説家デビュー。2005年、『欲しいのは、あなただけ』で第12回島清恋愛文学賞受賞。
大人の恋愛小説から硬派なドキュメンタリー風小説、児童書まで幅広く創作を続ける。
主な著作
バックナンバー
- 上田秀人『竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末』(講談社)
- 浅田次郎『天子蒙塵』(講談社)
- けらえいこ『あたしンち』(KADOKAWA)
- 伊東潤『天下人の茶』(文藝春秋)
- 真保裕一『遊園地に行こう!』(講談社)
- 伊坂幸太郎『サブマリン』(講談社)
- 松岡圭祐『探偵の鑑定』(講談社)
- 堂場瞬一『誘爆 (刑事の挑戦・一之瀬拓真)』(中央公論新社)
- 山崎ナオコーラ『ボーイミーツガールの極端なもの』(イースト・プレス)
- 安藤哲也『崖っぷちで差がつく上司のイクボス式チーム戦略』(日経BPマーケティング)
- 藤原和博『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)
- 伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』(文藝春秋)
- 阿部和重『キャプテンサンダーボルト』(文藝春秋)
- 川上未映子『きみは赤ちゃん』(文藝春秋)