honto+インタビュー vol.27 森見登美彦

注目作家や著名人に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、最新作『熱帯』刊行を記念して森見登美彦さんが登場。

一度はやってみたかった、「小説の小説」ができました。

タヌキや天狗が大活躍する『有頂天家族』に、いくつもの並行世界が展開される『四畳半神話大系』、町に突如としてペンギンが現れる『ペンギン・ハイウェイ』……。
奇想天外な設定や展開で毎作、読者をあっと驚かせ楽しませてくれる森見登美彦さんが、新作『熱帯』を刊行!
「我ながら呆れるような怪作である」とみずから述べる小説とはいかに。

「大遠征になりすぎて戻ってこられないかと思いました」

 それが『熱帯』を書き終えた森見登美彦さんの抱いた、偽らざる実感だったという。

 世紀の奇書として、ごく一部の人のみが知るのが、佐山尚一著の小説『熱帯』。誰も結末にたどり着けないという本の魔力に惹きつけられ、秘密を解きあかそうと集まった「学団」の面々が、追跡劇を開始する……。

 というストーリーが展開する『熱帯』は、読み手はもとより書き手まで「戻ってこられないのでは?」と心配になるほどのスケールを持つお話なのだ。

「とくに今回は、『小説についての小説』であるという特殊なものだけに、書く側としてはこれまでよりたいへんな面がありました。通常のストーリーのようなわかりやすい終わり方はできないだろうというのは、書いている途中ではっきりわかりましたし、話が進むにつれ、これまでになく異世界へと入っていくものになっていきましたから」

 たしかに読む側も、いったいどこまで話が展開していってしまうのか、とりわけ後半はドキドキしながらページを繰ることになる。

 でも。つまりは執筆の前に結末は決まっていなかったということ?

「こういうところを目指そうというのは、どの作品を書くときも漠然と思い描くんですが、いつだってその通りにはいきませんね。まあ最初の想定を超えて、書き進めていったから初めて見えてきたというものがないと書いていて寂しい。不完全燃焼の感が残ります。自分でも驚いてしまうような計算外のものが現れるところにこそ、小説を書く悦びはあるのかもしれません」

「小説をめぐる小説」というのは、小説家にとって魅惑的なテーマなのだろうか。

「そうですね。一度はやってみたいと以前から思っていました。小説の中に別の小説が出てきて、架空のものが入れ子になっていくときの不思議な感触に、憧れてしまうんです。

 そういうテーマを扱うと、話が複雑になっていってたいへんだというのは、今回やってみて身に染みてわかりました(笑)。ただ『熱帯』には、ベースになった先行作品があります。『千一夜物語』やデフォーの『ロビンソン・クルーソー』、シェイクスピアの『テンペスト』などで、それらに大いに助けられましたね。

 とくに『千一夜物語』は内容以前に、シェヘラザードが王に殺されないように毎夜興味深い話を続けるという構成や、古い原本が千一話じゃなかったため時代を経るごとに話が付け加えられていったという成立過程がおもしろい。そのあたりも踏まえてよく参照しながら、ようやく最後までたどり着けたという感じです。

『熱帯』を書くことは、自分にとって小説とは何なのかを改めて考え直すきっかけになりました。小説家としては当然ながら気になることですし、そこを突き詰めていくのはたいへん興味深いことなんです。読んでくれる方々も、作者と同じくらいおもしろがってくれればうれしいのですが、さてどんなものでしょうか」

新刊のご紹介

熱帯

熱帯

森見登美彦

出版社:文藝春秋

沈黙読書会で見かけた奇妙な本「熱帯」。幻の本をめぐる冒険はいつしか妄想の大海原を駆けめぐり、謎の源流へ!

著者プロフィール

森見登美彦(もりみ・とみひこ)

1979年奈良県生まれ。2003年「太陽の塔」で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2007年『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞、2010年『ペンギン・ハイウェイ』で第31 回日本SF大賞を受賞した。他の著書に『有頂天家族』『四畳半神話大系」など。

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