honto+インタビュー vol.32 川上未映子

注目作家や著名人に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、『夏物語』を上梓した川上未映子さんが登場。

芥川賞受賞作『乳と卵』から11年を経て『夏物語』を上梓した川上未映子さん。愛すべき登場人物たちが織りなす、あらたな物語に込めた想いとは。

あたりまえの根幹を揺さぶりたい。人間として生まれることとは、死ぬこととは。

 口をきかない姪の緑子と、豊胸手術に取り憑かれている姉の巻子。2人を東京に迎えた夏子もまた、悩みを抱えている。独特のリズムで、狂おしい3日間を描いた『乳と卵』。あれから11年。3人のその後が、あらたなテーマとともに描かれているのが『夏物語』。なぜふたたび物語が動き始めたのか

「文学の魅力は、あたりまえと思っていることの根幹を揺さぶることができるところ。生まれることもそのひとつ。今回、生殖倫理について書こうと思ったときに、『乳と卵』の12歳の女の子を思い浮かべました。彼女は小さな反出生主義者。生まれたら幸せにもなる権利はあるけど、生まれなければ悲しみも苦しみもない。そうしたら生まれてこない方がいいのでは? という直感を持っているんです。その彼女の直感が、今回のAID(非配偶者間人工授精)をめぐる生殖倫理のモチベーションに繫がったんですよね。だから別の物語ではなく、3人の人生を書くことにしました」

『夏物語』は、第1部を『乳と卵』を全面的に語り直したリブートの手法でまとめ、第2部は8年後の物語に。別の本としても成立するところを、ひとつにまとめた一冊だ。

「語り直しを含めてさらに大きな物語にした理由はいくつもありますが、世代がめぐるということも描きたかった。女性の人生は身体の変化を軸にしています。だから38歳の主人公に、突然〝子どもがほしい〞と言わせたくなかった。12歳から20歳になった緑子の変化も物語のなかで同時に走らせたかったし、彼女らがどんなふうに過去を生きてきたかも描きたかった」

 第2部のページを開くと、あれから8年の時を経た3人に出会える。同じように、川上さん自身にも時間は流れている。

「『乳と卵』からの大きな変化は子どもを産んだこと。私はもともと12歳だった緑子的な立場で、子どもを出産すると思ったことはなかったんですけれど、産んだんですよね。それがどういうことだったのかについて、今も考えつづけています。

 そういう自問は、息子への愛ということとは別の次元の話として、いつも頭の片隅にあります。出産をした女の人は、産んだ理由って聞かれないんですよね。なぜ産んだのかを突きつけられることってほとんどない。でも産まなかった女性は、産まない理由を聞かれるし、自身でも問いつづけてしまう方も。産んだ女性の、社会的な善さに守られた鈍さというのはたしかにありますし、産む産まないで女性をカテゴライズすることは、もう本当に無意味だと思います。そういう部分から変わってほしい。夏物語にはいろんな人が登場します。そのなかで、ひとりの女性がどんなふうに生きて、何を選び、どう決断するか。主人公の夏子とともに、私もたくさん考え、ようやくこの一冊ができました」

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新刊のご紹介

夏物語

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川上未映子

出版社:文藝春秋

芥川賞受賞作「乳と卵」の登場人物たちがあらたに織りなす物語は、生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いの極上の筆致で描き切る。

著者プロフィール

川上未映子(かわかみ・みえこ)

1976年大阪府生まれ。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞、08年『乳と卵』で芥川賞、09年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、10年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、13年詩集『水瓶』で高見順賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、16年『マリーの愛の証明』でGRANTA Best of Young Japanese Novelists、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞を受賞。他の著書に『すべて真夜中の恋人たち』、『みみずくは黄昏に飛びたつ』(村上春樹氏との共著)など。

主な著作

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お知らせ

川上未映子さんインタビューが、フリーペーパー『honto+(ホントプラス)』の2019年8月号に掲載されています。無料の電子版を是非ダウンロードしてください。

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