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紙の本

起承転結の「転」は時に予想を越える

2010/05/26 16:11

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る

本巻はシリーズ全体の起承転結のうち「転」の始まりとのこと。もとより前巻から忍び寄っていた「狙われるアリッサ」、そして本巻の口絵(裏側)の「やっぱり、こうなるのね?」といった予兆に若干気後れしつつ頁を捲ってみた。ところが序盤から中盤、いや、終盤に至るまで、意外にも学園ノリで話が進む。これまた意外にも出番の多かった冬上を筆頭にクラスの面々が学園祭の準備に勤しむ場面や、教会で暮らす鈴ちゃんへの想いを伝えるための部活動までも始めて(ここでも活躍する冬上)、その準備に奔走する啓介達が描かれている。第6巻で期待した展開がここで見られて「うん、やっぱりこういうの、いいな」などと思っていたが、そんな楽しげな状況の背後にもまた何かと忍び寄るモノありなのが本シリーズ。ホントに一筋縄でいかない物語だと改めて思わされるが、学園祭当日になって起こる街の異変とその原因が、何ともやるせない理由とともに現れる。自分の願いが他人の犠牲の上に成り立つ可能性を問う難しい問題がここでも提示されている。こうした、自分が夢想する“閉ざされた”願望に対して未知の世界、未知の体験が新たな幸福をもたらす、その象徴的な一例として人との出会いを持ってくる展開が秀逸だった。しかし、これで終わらないのが「転」の始まりたる所以。最後に展開されるのは希望と絶望とのバトルである。圧倒的アウェーな状況で苦戦する啓介、ピンチを迎えるアリッサ、ウルトさんも友月も例外なく絶望の淵に立たされる。いや、絶望的なのは啓介ただ1人なのかもしれない。これまで希望を糧に耐え忍び、乗り越えてきた試練、その経験が活かされず根絶される絶望感を味わう、その一歩手前で訪れる急展開に今後の不安と一抹の“希望”を見出したい引きとなっている。今いる場所と、変わってはいないが“変わり果てた”由衣の姿に何を思う、啓介?

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