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紙の本
こういう作品をなめてはいけない
2007/06/12 23:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
女の人はこういうのを見ると眉をひそめるのかもしれないが、男としては随分そそられるタイトルである。一生に一度で良いからこんなこと言われてみたい(「あれ?言われたことないの?と嗤わないでください)。
で、タイトルから解るように、これは言ってみれば女性が主人公のセックス小説である。20ページちょっとの「夏がおわる」と120ページほどの表題作が収められているのだが、前者のほうが遙かに出来が良いように思う。
前者の主人公はセックスが好きで頭の弱そうな女の子。こういう娘に男は弱い。ただ、とことん頭が弱ければ男に不自由せずに暮らすことはできない。とっかえひっかえ男とヤレルのは男の捉え方をしっかりと心得ているからである。ちょっと頭が弱そうな点は明らかに男を捉える助けになる。そして、こういう女の子は決まって同性に嫌われる。
そして、こういう女の子が描ける作家は、多分セックスは好きなんだろうとは思うけれど、それだけではこういう話は書けないのであって、多分相当頭の良い女の子なのだと思う。
「夏がおわる」では主人公が誰かとセックスした日に必ず出会う小学生の男の子が出てくる。
セックスがあって男の子との出会いがあって、別の男とのセックスがあってまた同じ小学生との出会いがあってという構造がなかなか良い。それぞれの男とそれぞれ事情があってそれがちゃんと描かれているところも良い。結構ほだされる話でもある。
一方、この「夏がおわる」の約5倍の長さがある「ほしいあいたいすきいれて」のほうは、タイトルの奇抜さに比べて中身はそれほどの切れがない。多分この作家の得意な長さは「夏がおわる」くらいの長さなんだと思う。同棲している男に風俗嬢になるよう無理やり勧められて・・・という話なのだが、山を作るために少しこねくりまわし過ぎた感がある。「夏がおわる」のほうは神様が出てくるような現実離れした話なのに、現実の風俗をなぞった感のある「ほしいあいたいすきいれて」よりも遙かに現実感があるのである。
ただ、いずれの作品も終わり方は極めて「小説的」、つまり正統な手法であって、単なるヤリマンの話だと思って油断して読んでいると「あっ」と声を上げてしまいそうなほど巧い。鮮やかなエンディングである。
結局のところ男性向きなのか女性にも薦めるべきなのかよく分らないが、なんであれこういう作品をなめてはいけない。結構切れる作品である。
by yama-a 賢い言葉のWeb
紙の本
エロの味
2007/04/26 17:43
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
新潮社のR-18文学賞は個人的にわりと打率が高い賞だと思っていて、第一回の豊島ミホさん、第三回の吉川トリコさんと、あんまり現代日本のエンターテイメント小説を読まない私がなんとなく手に取り続けている作家を輩出しているのだった。本書の南綾子さんは第四回受賞者であり、冒頭の短篇「夏がおわる」が受賞作なのだそうだ。実はR-18文学賞にはインターネットで候補作を公開し、一般読者の投票を受けつけるという企画があったのだが、この作品が公開されているのを知りながらどうもモニターで小説を読む気になれなくてそのときは読んでいなかったのだった。やばかった。もし、もしもだが、何かの間違いでこの作品が落選していたり、次作を書くのが難しくて単行本が出るのが遅れたりしたら、私はこの作品を読めなかったのかもしれないのだと思うと、大きなお世話ながら本当に受賞して良かった!と思わずにはいられない。
「夏がおわる」はいわゆる不倫モノ。その寂しさに男遊びを繰り返すヒロインは、自分がセックスして帰ってきた日に必ず不思議な野球帽の少年(ここは神奈川なのに中日ドラゴンズの帽子だったりする)に出会うことに気づく。さて不倫の行方と少年お正体は?という短いお話。夢の使い方が上手い(とくに方言)。改行と読点の少ない独特の息の長い文章で、淫乱というよりもちょっと頭が悪い感じの、でも否応なく一人で生きているという強いリアリティーを感じさせられる女性の一人称で、物語の推進力になるような不思議キャラの野球帽の少年の存在感もバッチリで、とても面白かった。この切ないようなやるせないような、だらしないような真面目なような、な、独特の「味」は本当に素晴らしいと思う。
次いで中編の、ちょっと内容にそぐわないかなあという感じのしかし思い切ってキャッチーだからいいだろ!というようなタイトルの表題作。つきあっている彼氏にいつも「風俗で働いて」と言われるヒロインが、伯父さんに××されているらしい小2少女と出会い、助けようと思うがそれどころでなくあああ……というお話。いきなりアナル・セックスの描写からはじまってびっくりするけど、アウトローにいくちょっと手前で踏みとどまっているというよりもむしろいく度胸もないし実は無能なので無理矢理行かされもしないという主要キャラクターたちの生活の「匂い」というのか、やっぱり「味」が素晴らしくリアル。今回も子供キャラは不思議な役回りで、前回よりももっとヒロインをふりまわし、ヒロインともどもほとんどサイテーの失態を演じたりするんだけれども、ちょっとドラマティックすぎるかなあ、というラストも、まあ、あそこまでひどいことになったんだから、いいかねえ、とへらへら思ってしまうのだった。ある種の女性たちが、恋というよりも「エロ」にさんざん振り回されてもういいかげんやんなっちゃうよ、って思うことが、この世の中にはきっといっぱいあるはずで、そういうときに、きっと人はこういう小説のようにがんばってうまくいきたい!ってわりと切実に思っているのだ。現実ではわりとうまくいかないどころか、そもそもがんばったりもできなかったりするのだけれど。でも、だからこそエンターテイメント小説はこうでなくちゃいかんのである。
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