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紙の本

脳内血糖値が高くなる作品

2007/02/10 12:45

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ベタベタに甘い恋愛話を聞かされる(読まされる)ときの気分を、近頃では「砂を吐く」という言い方で表現するのだそうですが、このお話は、吐いても吐いても吐ききれない砂が胃腸に詰まって七転八倒……というレベルの甘さでありました。
 主人公の郁(かおる)は、自分に自信の持てない、薄暗く引っ込み思案な高校生。片思いの先輩がいるけれど、告白はおろか口をきいたこともなく、可憐な容貌をダサいメガネで覆い隠して、思いを飲み込んであきらめようとしています。
 そんなとき、イタリア在住の兄に突然呼び寄せられてヴェネチアの謝肉祭(カルネヴァーレ)に参加することに。兄の婚約者が用意してくれた、どハデなピンクの王子様衣装を着るのがはずかしく、普通の服のまま、とぼとぼと一人でホテルまわりをうろついていたところで、いきなり出現した運命の嵐に巻き込まれます。見知らぬ他人(実は同じ「ときめき古城ロマンス」の別作品の主人公)につかまって、純白の天使の衣装を着せられてカルネヴァーレの渦中に放り込まれ、あっという間にイタリアのナンパなゴロツキに取り囲まれたと思いきや、ゴンドラに乗った仮面の黒騎士に救い出され、あとは懐かしの洋画で見たようなデートコースをまっしぐら……ところがその黒騎士は、郁の兄と婚約者の結婚に大反対し、郁にもひどく冷たく当たっていた、婚約者の兄、レオーネだったのでした。
 この、あまりにも出来すぎな運命的出会いを見ただけで、その後の展開が手に取るように見えてしまうのですが、だからといってその甘さが減じるどころか、先読みした分だけ余計に甘さを感じてしまうのが、このシリーズの怖ろしさというか、凄みであると思います。
ひどい堅物で恋愛に興味のなかったレオーネは、郁の正体に気づかないまま、空前絶後の一目惚れ状態に。郁のほうは正義の黒騎士がレオーネだと気づいたものの、仮面と仮装の力を借りて、初対面から慕わしく思っていた気持ちに正直に行動しますが、バレたらきっと元の冷たい態度に戻られてしまうと思いこんで、ひたすら正体を隠し続け……この果てしなく酸っぱいすれ違いモードと、仮装に身を包んでのつかのまの逢瀬の極甘とが、交互に出現しては読者の味覚を幻惑し、もうこれ以上は勘弁してほしいというところでやってくるカタストロフは、天まで聳える氷砂糖のエベレストが崩壊しながらカラメルになって煮えたぎったような勢いでした。参りました。負けました。
読んでいる途中で、ふと素に返る瞬間があったりすると、かなりつらいものがありますが、甘いものは脳に効くといいますし、実際なんだか血の巡りがよくなるような気がしないでもないので、もしかしたら健康にいい小説であるのかもしれません。
 蛇足ですが、かの国の「真実の口」というのは、ローマ時代のマンホールの蓋だったという説を、本書を読んで初めて知りました。熱烈な愛のクサいセリフに充ち満ちているであろうお国柄を考えると、あの口も、「ぐわあ〜甘すぎるわ〜」とでもうめきながら、さぞかし多量の砂を吐かされてきたことでしょう。

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