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本書でも書かれているとおり、随筆の巨人でも有るという乱歩だけれども、乱歩の随筆は、えてして論文であって入り込めないと全く頭に入ってこないのが欠点。この本は最初と最後が探偵小説の着想に関したもの、途中が書評や著名作家の人生や同性愛などというものである。
探偵小説の着想に関しては、大体の人は読みやすく、たとえば前半の項では「蟲」、後半では「パノラマ島奇譚」「盲獣」などのあっと驚く死体のかくし方など、乱歩を読んできた人にはわかるものになっている。ちくま文庫のサイトでも、そのあたりの表題が紹介されている。
しかしこの本というまとまりで見たら、真ん中のJAシモンズやジイドに関する論文こそが主となるべきなのであろう。ところがこれが、それらの作家について特に読んでこなかったり思い入れがないと、全く頭に入ってこない。というのも、乱歩の随筆によくある、知識を披露するための固有名詞の絨毯爆撃で、それらが理解できない素人お断りというものだからである。
とはいえ、夢野久作や坂口安吾との思い出話であったり、怪奇小説としてラブクラフトを紹介したりと、読書家はニヤリとさせられる文章も有り。資料的には大事なのだろう。読書家向けの本である。映画のフィルムが燃え始める恐怖の話、戦争の体験などは大変面白かった。