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夜市 みんなのレビュー

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一般書 第12回日本ホラー小説大賞 受賞作品

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みんなのレビュー671件

みんなの評価4.1

評価内訳

671 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

人外の世界の理に触れる本

2010/01/03 18:44

17人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ジーナフウガ - この投稿者のレビュー一覧を見る

今宵は夜市が開かれる。そんな惹句に誘われて、夜の闇広がる森の中、
一歩足を踏み入れたなら、そこは、人外の者共蠢く、もう1つの世界だった。

欲しい物が何だって手に入る、代わりに何かを買うまでは絶対に元の世界には帰れない。
それが夜市のルール。幼い頃、偶然にも夜市に紛れ込んでしまった祐司が、

大学生となった現在必死になって買おうと探している物とは一体何なのか?
それに、幼かった彼は、どのようにして、買い物を成立させ夜市から元の世界へと帰還出来たのか?

この美しくも儚い物語には、欲望が生み出す残酷な悲劇と、それ故に欲望や煩悩を統制し、
自分自身の力で希望の道を選択、獲得していく事がどれほど尊い事なのかが教えとして説かれている。

ホラーと言うよりは、むしろ説話や怪談話としての色合いが強く印象として残った。
特にラストは全く予想外の展開で、それだけに切ない程に透き通っており、胸に物語の余韻が残った。

眼前に闇の中仄かに夜市が浮かび上がって来る情景描写力にも、唸らせられた。
人間界とは別の理で、確かに存在している異世界を描いている併録作品、【風の古道】も良かった。

七歳の春、花見に行った公園で、迷子になってしまった私は、親切そうなおばさんから、
家までの帰り道を教わる。「夜になったらお化けが出る道だし、寄り道しないで行くんだよ。」

と告げられたその道は、未舗装の田舎道で、一風変わっていた。道の両脇に家が並んでいるのだが、
どの家々も一軒残らず、この未舗装道に玄関を向けていないのだ。それどころか、

電信柱も、郵便ポストもないし、駐車場もなかったのだ。この時味わった秘密体験は、
自分だけの秘密として守らなくてはならない、もしも守らなければ多分…?本能的な直感として、

「道」について他人に口外するときっと、良くない事が起こるだろう。
そんな理由で記憶の外に置いていたタブー、けれども十二歳の夏休みに親友と心霊話になり、

うっかり口を滑らせてしまう。当然、友達は、「そんな道が本当にあるなら連れて行けよ!」そそのかす。
こうして私と友人のカズキは、私が最初に件の道から抜け出た所に行き、

反対側の出口から引き返そうと計画するのだが…。歩いても歩いても、それらしい場所には着けない。
弱り果てていた二人の前に、謎の青年レンが現れる。異世界には異世界の理が有り、

嘗て存在した入口は既に閉鎖された後との事だ。更に困り果てる二人は、一か八か、
この放浪を続ける青年と異界を旅することに決める。その過程で次第、

次第に明らかになっていくレンの事情。どうしてお化けでなく、妖怪でもない、
生身の人間であるレンは異界から外の人間界に出て行けないのか?

永久放浪者として彷徨い続ける運命にあるのは何故なのか?
理由の一つずつが、とてもしっかり描かれていて、この世と別に存在する世界のルールに

美しい説得力を持たせるのに成功している。特にラストへと至る展開が、
両作品ともに素晴らしく美しいので、是非、どっぷり物語世界に浸かって下さいませ!!

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紙の本

そんな世界など存在しないのに、真っ暗な闇の中にポツポツと灯りが見え、露天が見え、怖いのだけれど何かワクワクして、不思議で、そんな夜市が目の前に迫ってきました。

2009/09/20 00:24

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:どーなつ - この投稿者のレビュー一覧を見る

日本ホラー小説大賞受賞作の過去のライナップを見てみると、意識してなかったけれど、長編賞とか佳作とか短編賞とかそういったものも含めて、わりと読んでいました。
第1回受賞の坂東眞砂子の「蟲」も第2回の瀬名の「パラサイト・イヴ」もその後の作品もだいたいは読んできています。
だからなのか、第12回大賞受賞の今作「夜市」はなんとなく今までとちょっと違った雰囲気だな、って気がします。
もちろんホラーなのですが、どう言えばいいのか、ぞぞぞぞ、とくるホラーではなくて、静かな流れの中で淡々と語られ、どこか切なくなるような、ホロリとくるような、なんともいえない読後感でした。
そういう意味での類似作だと、第8回短編賞受賞の吉永達彦氏の「古川」に通ずるところがあるかもしれません。
何にせよ今までの受賞作品の中で(読んだ中で)一番好きな作品です。

本の書評(ハードカバー版)でも、選考委員である林真理子氏、高橋克彦氏、荒俣宏氏が太鼓判を押す作品でもあります。
特に表題作の夜市。学校蝙蝠が開催を告げる何とも不思議な市場で、裕司は過去に売ってしまった弟を買い戻そうと友人のいずみと夜市に足を踏み入れのですが、そこで予想もしない世界とラストが待っていました。
そんな世界など存在しないのに、真っ暗な闇の中にポツポツと灯りが見え、露天が見え、怖いのだけれど何かワクワクして、不思議で、そんな夜市が目の前に迫ってきました。
書評でも荒俣氏が絵が浮かんでくる、と言っておられますが、そのとおりの作品です。
読んでいるうちに、知らずに映像が浮かんでくる描写の巧みさは素晴らしいの一言。
同時収録の「風の古道」もまた「夜市」にひけをとらない作品です。かなりクオリティーの高い受賞作であると感じています。
この作者のこれから出していく作品には当然これ以上の傑作を期待してしまうのですが、どうかその期待が間違いでなかったと確信できるような作品を発表し続けてほしいと思います^^

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紙の本

ファンタジー、そして文学

2011/04/13 18:50

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る

ホラーではなくファンタジー。しかも、文学。

読んでみて、まず思った。


B級ホラー小説にあるようなスプラッタな描写はもちろんなく、稚拙な擬態語の連続で興を削ぐこともない。

静かで情緒溢れる文体からは、『夜市』のダークな情景がまざまざと浮かび上がる。妖怪たちが様々な品物を売り、数々の世界が交差する夜市。


そう、ダーク。


禍々しくも恐ろしくもなく、著者の描き出す世界は、ひたすらダークだ。


そして、この短い話の中に、裕司と弟の人生が描かれている。


同時収録されている『風の古道』も、秀逸。異界の道に迷い込んだ少年が辿る道行きだが、最後の一説がことに印象的だ。


道は交差し、分岐し続ける。

一つを選べば他の風景を見ることは叶わない。

私は永遠の迷子のごとく独り歩いている。

私だけではない。誰もが際限のない迷路のただなかにいるのだ。


恒川光太郎が描いているのは、人生だ。


読後、この人の作品をもっと読みたい、近頃珍しく、そう思った

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電子書籍

懐かしくて少し切ない…

2022/12/12 16:03

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ひらがん - この投稿者のレビュー一覧を見る

長編では無いので直ぐに読み切ってしまいますが、
読んだ後も本の世界観から抜け出せない、何とも言えない感覚に囚われます。
もしかして自分にも似たような経験が有ったのかしら、とまで思ってしまう、懐かしくて少し切ない、不思議な体験の出来る一冊です。

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紙の本

現代を映す鏡としての夜市

2009/02/15 14:04

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:菜摘 - この投稿者のレビュー一覧を見る

恒川光太郎のデビュー作。民俗学的色合いがどちらの作品も非常に濃く、氏は民俗学専攻か非常に造詣が深いと思われます。

■ 夜市
そぎ落とした文章で一切のムダがない。それが主人公 祐司の心情を一層孤独に際立たせている。

祐司の同級生いずみが、祐司に夜市に連れて来られた理由を知り愕然とするシーンも見事であるし、『踏み入れたら最後、何かの取引をしなくては決して抜け出せない』 という夜市の設定も見事。

今、世の中には様々な複雑な事情を抱えた人が多く生活している。引きこもり、ホームレスなど、その中には自ら進んでその生活を選んだ人もいれば記憶を失ったり更に複雑な事情を抱えた人もいると思う。そうした人々に焦点を当てて書いた作品として本作を捉えることもできる、夜市は現代を映す鏡のような存在だとも言えるだろう。

でもこの作品は、昔もそしてこれからも変わらない夜市の存在とその意義を、十分に堪能したい作品である。ホラー大賞の選評では一様に展開の巧みさを褒めているが、それよりも私は 『夜市』 の存在そのものの考え方が素晴らしいと思う。

■ 風の古道
こちらも同じく古道の設定が確立している。古道に属するモノは決して外の世界に持ち出すことができない、という大原則。そして魑魅魍魎だけが行き交う古道に、なぜか自由に出入りすることができる外の世界の住民である人間がいる。彼らの多くは人格異常者で自分の殺人の記録を名誉として持ち歩いている危険な男が出てくる。

現代にはびこる、心に闇の部分を多く持つ人間をこうした古道に出入りする人間として描いたことで、理解しがたい人の心の闇に迫ろうとしたのではないだろうか。

主人公はふとしたことから古道へまぎれこむ。彼の旅路を手伝ってくれるのは古道で生まれ育ったという青年。彼自身の存在が古道の中にも人情があることを教えてくれる。

食うか食われるかの世界にも人情はあるのだ。そしてどんなに願っても叶えられないこともあるのだ。だからこそ古道の外で人は、一生懸命生きるのだろう。

この一冊ですっかり恒川作品のとりこです。ヤングアダルト世代にもオススメ。

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電子書籍

傑作ファンタジーホラー

2021/09/26 23:13

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:なのはな - この投稿者のレビュー一覧を見る

『夜市』と『風の古道』の中編二本収録されていましたが、いずれもファンタジーホラーの傑作でした。特に『夜市』における運命の残酷さ、選択の厳しさが際立って印象に残りました。運命の奇異は『風の古道』にも顕されていて、恒川光太郎さんの書くテーマの一つになっているのかなと思いました。ホラーではあるのですが、むしろ人間の生き方に深く迫った作品のような気がして、怖いというより考えさせられる余韻が残ったような感じです。両作品ともに名作と言って良いと思います。

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紙の本

異世界に迷い込んだ

2021/03/14 14:20

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:はなこさん - この投稿者のレビュー一覧を見る

最初に読んだ恒川さんの作品。恒川さんのファンとなるきっかけになった。
ゾッとするような怖さではなく、何となく温かみのある、懐かしいような不思議な気分にさせてくれる。
読後目が覚めるというか、異世界に迷い込んでしまう。

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紙の本

秋の夜長に、この一冊を!

2020/09/19 12:36

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

「ラストがとても感動的だった」と勧められるままに、
なんの予備知識もなくこの本を手に取った。
そうして、最初のページから心つかまれました。

読後に知ったのは、10年以上も前に日本ホラー小説大賞を受賞し、著者にとってはデビュー作だということ。

これがデビュー作!!!
しかもくくりがホラー小説!!
驚きました。

学校蝙蝠が「今宵は夜市が開かれる。」と、町をぐるりと回りながら告げていくシーンで物語は始まります。

この夜市に出かける20代の男女二人。
男性の方には、この夜市にどうしても行かなければならない理由があった。
誘われて一緒に出かけた女性にとっては不思議で不気味な事ばかり。
読み進めると、パズルがどんどん完成していくような感覚を憶える。

辛すぎる過去を引きずって、
どうしようもない生い立ちの悲しみや恨みに立ち向かう…。

作品から立ち上る圧倒的な情景のリアル感におののきながら、
一気に読み切りました。

「やがて夜市は完全に遠い秋の夜の夢になる。」

秋の夜長に、こちらの一冊、今度は私からお勧めします。

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電子書籍

日常生活の非日常

2019/05/30 11:41

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ビーンズ - この投稿者のレビュー一覧を見る

日常にある風景、いつもの道が、別の世界と繋がっていたら、と想像力をかきたてられます。あっという間に作者の世界に連れていかれる感じがしました。
冒険的でありながら、哲学的な部分もあり、メルヘンのようなホラー。ホラーと呼ぶほどは怖くないんですけどね。でも人間の欲望って1番のホラーかも。。
3〜5人くらいしかでてこないので、登場人物を覚えるのが苦手な人にも良いです。中学生の息子も読んでいました。
ぜひ読んでみていただきたい一冊!

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電子書籍

幽獄の世界

2018/09/09 00:16

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る

『夜市』
ある道を境に通じる異界の闇市。
条件を揃えなければ脱出はできない。それ自体は目新しいものではないが、巻き添えになった彼女、そして過去を引きずる兄弟の葛藤には読ませるものがある。

売られてしまった弟は自身の様々なものを贄にして市を出る。白痴の老体として扱われて過ごした日々。
ありがちな才と引き替えに、弟を売った兄が過ごした葛藤の日々。そして両者の邂逅。
若干、独白に依りすぎる感もあるが、情動を丁寧に紡いでおり、どうしてか作り話には聞こえない説得力がある。
恐らく、この市は生きてうごめいている。店主も客もただ翻弄されるばかりだ。

『風の古道』
市が生きているのなら、こちらは道が生きている。
確実に存在しているが、私達には見えない道。夜市と同様に、登場人物を閉じ込める檻の役しかしていないようでいて、なにかの意思の存在をうかがわせる。

実際、入口を見つけた中には、気ままに出入りして猟奇犯罪に用いている人物もいる。些細な事で人を殺め、その安い正義感に酔う人物。
こうした気の触れた人間を描くのが実にうまく、秀逸である。

他作でも意思を持った生きる道は、人物を好き勝手にもてあそんでいる。

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電子書籍

幻想譚の名手

2018/05/25 18:32

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:しゅらいく - この投稿者のレビュー一覧を見る

ホラーのレーベルから出ていますが、内容はダークファンタジー….というか幻想譚です。見事です。短編二作品が収録されていて、どちらもオススメです。『風の古道』を評価されている方が多いようですが、私は『夜市』の方が好みでした。どちらも傑作なのは間違いないと思います。
これからもこの作家を追い続けようとも思いました。和風ブラッドベリーと言っても良いような、幻想譚の名手でしょう。

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電子書籍

他に類を見ない作品

2017/09/13 11:32

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:しん - この投稿者のレビュー一覧を見る

表題作の「夜市」も、「風の古道」も、他の作者の作品では味わえないような独特の雰囲気を醸し出しています。文章は簡単で、別に美しい表現とかを狙ったわけではなさそうなのに、自然と目の前に情景が浮かんできます。意外な展開とちょっぴり切ないエンディング。空想と現実の入り混じった世界は、一度踏み込んだら病みつきになりそうです。

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電子書籍

夜市

2017/01/12 23:22

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あちゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る

面白くて一気に引き込まれた。この世界と違う世界を隔てるものはちょっとしたことなのかもしれないと思う。久しぶりに満足。

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紙の本

読まずにいたことを後悔

2016/01/17 23:56

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ジャンボ - この投稿者のレビュー一覧を見る

第12回(2005年)ホラー小説大賞受賞作。
恒川光太郎さんの名前と作品名は知っていましたが、ホラー小説が苦手なので今まで手を出さずにいました。

実際に読んでみると、ホラーではなくファンタジー。
しかも、ライトノベル様の安っぽいものではなく、文学性の高い上質なファンタジーでした。
レイ・ブラッドベリの『何かが道をやってくる』を思い出しましたね。

同時収録されている「風の古道」も秀逸。
現実世界とほんの少しずれた所にある「異界」に迷い込んだ少年たちの物語ですが、そのラストは哀しく寂寞としているのに、どこかおぼろげな光を感じるものでした。

これまで読まずにいたことを激しく後悔。
しばらくは恒川作品にどっぷりとハマりそうです。

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紙の本

流れるように恐怖の心を描く

2012/01/31 19:29

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る

今宵は夜市が開かれる。
夕闇の迫る空にそう告げたのは、学校蝙蝠だった。

この魅惑的な文章で始まる『夜市』
この中篇は第12回日本ホラー大賞を受賞しました。
ホラーと言っても、この物語は「異界への道」、スプラッタと混同しないで欲しいのは
この物語でこわいのは、「帰れないかもしれない」ということです。
帰れない、ということは、もともと居場所があるのを前提に帰れないことに恐怖を覚える。
大学生のいずみが、高校の同級生だった祐司に誘われて夜市に行く。
岬の森の中に、なんでも売っているという店が並ぶ。それを告げたのは、学校蝙蝠だ、と祐司は
言う。
行ってみるとそこは、異形の者たちが異形の者を価値観全く関係なく売る店が、森の中に
並んでいる。その風景を描く、作者の色の使い方と闇の描写がさりげなく、しかし、しっかりと
色づいています。
「ほのかな青白い光に、闇が切り取られていた」・・・そんな夜店。

 お祭りの夜店かフリーマーケットのつもりで、ついてきてしまったいずみは、その夜市に
とりつかれてしまったような恐怖を覚える。
それは、この夜市では「何かを買わないと帰れない」という掟がある、ということでした。
何故、そう親しくもない祐司は自分を誘ったのか、一人で行かなかったのか、その理由を
知っていずみは、最初は疑問、そして不安、心配、そして恐怖にかられます。
いきなり怖いものが出てきて「怖い」のではなく、おかしい、おかしい・・何故?がこわい、に
次第に変化していく。

 昔、子どもの頃の祐司は同じ夜市に行ってある物を買った。しかしその代金はお金では
なく、かけがえのないものを失うことになった。
帰れない、失ってしまった、いなくなってしまった・・・残酷な描写よりも、淡々とした夜市の
暗闇の様子を描きながら、じわじわと「先の見えない恐怖」が取り巻いて行く様子が実に
リアルであると同時に幻想的に描かれています。
そこに作者の言葉の抑制というものを感じます。過激な描写、露骨な描写は一切ださずに
異界という「アナザーワールド」を創り上げ、また、その中で謎がとかれていく展開でありながら
中篇という長さでもって、鮮やかに、さっぱりとレモンを切った時の新鮮な酸味を残すような
後味でもって、さっと切り上げる。

 同じく異界ものとして、書きおろしの中篇『風の古道(こどう)』もふとしたことから、異界へと
足を踏み入れてしまった少年の物語ですが、この物語も「帰れない」恐怖と同時に、
異界でしか生きられない者たちの哀しみも描いていて、意外な展開と少年の心の葛藤を
描いています。

 この物語はあくまでもふざけることなく、飾ることなく、しかし、他の誰も真似できない世界を
発想の転換という方法だけで創り上げました。そしてそこには、抑えに抑えた負の感情を
感じるのです。
負の感情をただただ、垂れ流しにするのではなく瓶詰めにして、そして美しいという所まで
昇華させている、その言葉の選び方、使い方、流し方・・・大変、流暢な物語とも言えます。

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