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目眩を起こし倒れる小兵衛。長男を斬殺された田沼意次。最終巻を前に不安が湧き起こる。
2012/04/02 18:40
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投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
前巻「剣客商売〈14〉暗殺者」で、泰然自若が魅力の秋山小兵衛が、我が子を心配するあまり、心を乱してしまった。
そんな小兵衛に、常に強かった父が弱くなってしまったような悲しさを覚えながらも、「弱気になろうと、ヒステリックになろうと、小兵衛は小兵衛」と自分に言い聞かせたところだった。
それなのに、いきなり目眩を起こして倒れてしまうとは。
小兵衛は夢を見ていた。
死んだ妻・お禎が現れ、昔のままのおだやかな微笑みを浮かべている。
やがて小兵衛に向かって手招きを始めた。
「そこへ来いというのか?もう、そろそろ、行ってもよいが……」
そこで小兵衛は目を覚ました。
夢の内容をおはるに語り終えるや、
「夢だろうが何だろうが、死んだ御新造さまに渡すものですか!!」
おはるは、むきになって怒り、両の拳で、小兵衛の胸板を叩き続けた。
と、小兵衛は得体の知れぬ目眩に襲われ、手足の知覚を失い、横ざまに倒れた。
いくら小兵衛が九十過ぎまで生きると知っていても(「剣客商売〈3〉陽炎の男」に収録の【兎と熊】より)、亡き妻の手招きを受けたあと、いきなり目眩を起こして倒られたのでは気が気でない。
しかしそれも、小川宗哲先生の、
「六十六歳で、ようやく老人の身体に向かいつつあるしるしを見たと申すは、いや、お若い、お若い。小兵衛さんの先は長いわえ」
という見立てのおかげで一息ついた。
ところで。
体調が悪かろうが、何だろうが事件に巻き込まれるのは、剣客の宿命。
「今日いちにち静かにしていれば、あとは、いつものとおり暮らしてよい」
という宗哲先生の言葉に従い、小兵衛は横になり、眠り始めた。
どれほど経ったか。
目を覚ました小兵衛は、裏手の物音に気づいた。
覗いてみると、侍二人が物置小屋をぶち破ろうとしている。
目眩を起こしていても、そこは秋山小兵衛。
たちまち二人の侍を撃退してしまった。
物置小屋から出てきたのは、かつての小兵衛の弟子・井関助太郎と、見知らぬ四、五歳の子供だった。
何事かと問う小兵衛にさえ、助太郎と子供は事情を話さない。
実は、助太郎も、友人だった助太郎の父・平左衛門も、これまで個人的なことは一切話したことがない。
また小兵衛も聞こうとしない。
しかし、小兵衛と助太郎父子は心の通い合った交流を重ねてきた。
そういうこともあり、小兵衛は何者かから狙われた二人を守ることとなった。
やがて、この事件を追ううち、助太郎と子供が襲われた理由、そして小兵衛にさえ語らなかった助太郎の過去が明らかになっていく。
この巻は、この井関助太郎と子供にまつわる事件の一部始終を描いた長編作品。
いきなりの小兵衛の目眩に驚かされたが、それほど心配はいらないようだ。
なんといっても、小兵衛は二十番斬りを見せるのだから。
それよりも気になるのは田沼意次だ。
若年寄の要職にあった意次の長男・意知が、城中で斬られ、死んでしまったのだ。
そして、日ごと強くなる意次への非難。
秋山父子は田沼意次との関係が深いだけに、この事件が剣客商売の世界に、どのような影を落とすか。
剣客商売も、残るはあと一巻「剣客商売〈16〉浮沈」のみだ。
新たな不安が沸き起こりつつ、この巻を読み終えた。
* * *
本巻の巻頭には、以前飼っていた猫・たまが現れ、新しい主の危機を小兵衛に教える番外短編【おたま】を収録。
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中学校時代から何度も読み続けている池波正太郎もの。
たぶん一番最初に読んだのがこのシリーズ。
食べ物に対する興味も、江戸時代の言葉、作法も全てこれで覚えた。
読まないと人生損だぜ。
同じ時期から池波正太郎が好きだった人を人だけ知っている。
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おたま
二十番斬り(特別長編)
目眩の日
皆川石見守屋敷
誘拐
その前夜
流星
卯の花腐し
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お家騒動に絡む長編。小兵衛が年相応の(?)目眩を感じた所から物語が始まる。そろそろ剣客商売シリーズも終盤を迎えた。10.12.23
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20120714 シリーズも終わりに近い。小兵衛の老いが実感される。人と共にあるシリーズだからこそなのだろう。さすがに小兵衛の歳を越すことはないだろうがまだ繰り返し読みたい。
20141015 又、読み直してみて前回気にしなかった少しづつが気になって来た。やはり作者と主人公の関係は重なるようだ。
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剣客商売シリーズ15作目
得体の知れぬ眩暈に襲われたその日、小兵衛は、恩師・辻平右衛門ゆかりの侍、井関助太郎を匿うことになる。
井関は手負いで、しかも曰くありげな小さな男の子を連れていた。
小兵衛にすら多くを語らぬ井関に、忍び寄る刺客の群れ。小兵衛は久しぶりに全身に力の漲るのを感じるのだった。
一方、江戸城内では、三冬の父、田沼意次が窮地に。
前作から1ヶ月後くらいのお話です。
小兵衛は66歳。口では弱気な事を言っていても小兵衛に限って…と思っていたら、今までにない眩暈でこの物語は始まる。
宗哲先生によると、「ようやく老人の躰になった」とのこと。
ほっとされられたのも束の間、大きな事件が小兵衛に降りかかる。
でも、その事で小兵衛の眼が輝きを取り戻したのも事実で、なんだか複雑な心持ち。
今までも大きな力と相対してきた小兵衛だけれど、今回は九千石の旗本。そのお家騒動に巻き込まれた形である。
詳しい事も知り得ぬままに、小兵衛の頼みなら、と何も聞かずに働いてくれる人たちがいる。それと同時に「侍」と呼べる人たちがどんどんいなくなっているのもこの時代。
小兵衛をして、「もはや武家の世は終わりじゃ」と言わしめるほど、武士の世界は腐りきってしまった。
幕府解体までまだ80年余りあるのに…。
残すところあと一冊になってしまった剣客商売シリーズ。
一冊読み終わるごとに寂しい気持ちになります。
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ますます老いを感じる小兵衛。
しかし、剣はますます鋭さを増しているようにも見える。
もうちょっと殺陣のシーンが長くてもいいのになとも思いますが、
このホドホド感がいいのでしょうか?
最後の剣客との戦いも読者の想像にお任せするような書き方。
田沼意次の権勢にも陰りが見え始め物語が収束していく感じを残念に思いながら読み進めました。
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時代小説。「剣客商売」シリーズ第15弾。短編1作と長編。
「おたま」 かしこい猫がいたものだ。
この剣客シリーズで何作か猫の話があるのだが、小兵衛やおはるが猫好きなのかどうか食い違うような気もする。
「二十番斬り」
昔の弟子、井関助太郎が小兵衛宅へ逃げ込んでくる。連れていたのは豊松という小さな男の子。二人を追ってくる者たちからかくまうが、助太郎は仔細を言わない。
一方、三冬の父、意次は時代の流れにて窮地に立たされる・・。
冒頭で「やっと老人の体になったしるし」の眩暈に襲われた小兵衛。
シリーズはこの巻で終わりのよう。
この後の小兵衛や大治郎たちはどう生きたのだろう。分からないけれど想像するのは楽しい。しかし寂しい。
(かと思ったら、16もありました。得した気分です)
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秋山小兵衛 66歳 おはる 26歳。
立ちくらみがする年頃となった。
井関助太郎が 豊松という子供を携え
小兵衛の家にやってきた。
井関助太郎の父 井関平左衛門は 同じ門下生だった。
その因縁から 助太郎を助けようと 獅子奮迅の努力をする小兵衛。
小兵衛が 老人になったと感じ
先妻のお貞が 夢で出迎えにくるようにまでなった。
66歳。そのチカラを 発揮する。
剣客商売も終わりに近づく。
作者と小兵衛の年齢が近づくことで、
老いることへに抗う姿が見える。
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シリーズ第15弾。
頭に「おたま」という短編を登場させ、「二十番斬り」は読みごたえのある長編です。秋山小兵衛も年齢を重ね、読み進むうちに読者に不安も・・・。でも、小兵衛はさすがスゴイ剣客です。
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田沼意次が活躍したころの江戸時代中期に、剣術ひとすじに生きた剣客父子の活躍を描いた池波正太郎の代表作の一つ。
主人公が若かった頃に関わった人物が登場する事件を解決していくが、その一方で老中の田沼が窮地に追い込まれていく時代背景も描いている。シリーズの中で読み残していた15巻をようやく読み終えた。
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本書に収録された最初の一編「おたま」のほのぼのとした話から一転、特別長編「二十番斬り」はハラハラの連続だ。まず、小兵衛の身体的な不安(目眩)。次にかつての門弟と連れの幼児、大身旗本の家老、側用人の暗躍、三冬の父でもある田沼意次絡みの騒動と、まさに次々と起きる出来事に小兵衛の焦りが読者にも感染する。終盤で旗本抱え屋敷で十九人を斬って倒した様は、テレビ時代劇の殺陣を見ているようだった。解説も全て読んで読了としているが、常盤氏に影響されて小兵衛の目眩が著者・池波氏の体調不良ではと思ったのは書いておかねばなるまい
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ミステリー要素もあり面白く、1日で読み切った。ただし、すべての謎が明らかになるわけでないため、読み終わった後にもやもやした感じが残る。
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おたま 猫かわいい
二十番斬り 長編。最終回っぽい雰囲気。以下二十番斬り
目眩の日
皆川石見守屋敷
誘拐
その前夜
流星
卯の花腐し
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剣客商売15作目。
小兵衛さんが、身体的にもメンタル的にも老いてきた感じがして、とても寂しくなるスタート。
次の作品が最終話だと分かっているので、もしや。。。と、心配をしながら読んでいたが、途中から、いつもの小兵衛さんになったので、安心した。
と言っても、1桁台の作とは違うけど。。
作を重ねる毎に、侍の時代の終焉が顕著になってくる。
それに伴い、小兵衛さんの憂いも深まる。
さあ、次作は最終巻。