電子書籍
何か限界を感じる
2022/02/20 10:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:allemande - この投稿者のレビュー一覧を見る
「華麗なるギャツビー」の語り手と同じく、この執事は信用できない語り手の類。傾聴すべき点もまああるが、自己満足、見栄っ張りで、後で振り返ると結果的にはまっとうだった(自分の父や解雇されたユダヤ系従業員を守ろうとした同僚、欧州の中で四面楚歌の米国人大使、車の故障で寄った村で声高に発言する意識高い系の男)を見下し、一方で時代遅れの密室の貴族外交を繰り広げて結果的にナチスを利することになったご主人様にはひれ伏し、最後までそれに気づかない。自分を守りたい潜在心理で、恋の誘いもスルーするが、未練はある。全知全能の語り手でも私小説的な語り手でも、後知恵的に全てを悟った告白者でもなく、あくまで弱く愚かな生身の1人の人間として描出する。これは、ちょっと考えてみれば後々うまくいかなくなることが分かるようなポピュリズムの信奉するような人々を、リベラルな知識人がただ軽蔑するだけでは何も動かない、というイシグロの主張と重なる。話の進め方には余談、雑談の類のアネクドート、脱線話(aside)が満載で、このジャンルの傑作、チェコのハシェクの『兵士シュシュヴェイク』シリーズを思わせる部分もある。
そしてテレビの連続ドラマの脚本のように、話が退屈になってくると、すかさず結末が気になる挿話(suspension)を入れてくる。また小説全体としても(上の内容に関係する)人物に再開するというクライマックスに向けて進めることで、読者が執事やその主人の俗物ぶりに辟易して途中で投げ出さないような仕掛けになっている。
ただ、このような計算があまりに露骨で作為的で、伏線の張り方も、この世の力学(心理的なものでも運命的なものでも不条理でもなんでもよいが)ではなく、ただストーリーを読み続けさせるためだけに張っているという作為が見えすぎて、次第に鼻についてくる。それでも途中でやめると気持ち悪いから最後まで読むが、ストーリーは何とか回収・収斂させている割に、浅すぎて何も残らない。今まで気づかなかった世界や人生の断面が自分の中に侵入してきたようなショックが何もない。結局、執事を1人の弱い人間として描いてはいても、プロットの駒にしか見えず、あまり「自分も結局は同じかも」とも思えずに、今度は読者が結局全知全能の語り手になっているだけのように思える。
執事Jeevesもののウドハウスにしても、アネクドート型のハシェクにしても、そこで語られるおバカすぎる話や策略を通じて、人が逃れられない悲しみや一時的な喜び、人の命など何とも思っていない愚かな貴族たちや国家や社会の不条理(カフカ的な)、書き手の叫び、というものが隅々にまでこだましている。一方、この話にはそれがない。イシグロは、不完全な語り手として突き放してこの執事を描いたつもりかもしれないが、実はイシグロ自身がこの執事と同種の自己満足の語り手になってしまっていて、それに気づいていないのではないか、と強く思わずにはいられない。この執事が自分に欠けていると自覚しているウイットがなく傍観者的であるのも共通している。
確かに最後まで読者に読ませる力はあると思うが、一方で小説を勉強中の作家が一生懸命プロット表や人物相関図を作り、いったん書き終えてから前に戻って伏線を張りにいくなどの生硬な作為性が目立ち、目指しているものの古めかしさを感じる(ジョイス的な小説がよいというのではなく、たとえば鴎外はこ小細工のできない『渋江抽斎』を題材を自らに課しても、次のページを読ませる筆力があった、という差)。
投稿元:
レビューを見る
ホントは英語で読まなきゃいけなかったんだけど。でも大学が選んだとは思えないほど優れた話だった。執事さんばんざーい
投稿元:
レビューを見る
品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。
投稿元:
レビューを見る
簡単に云えば、短い旅に出た老執事が
その道すがら自分が館で過ごしてきた古き良き時代を回想する…
といった内容なんですが、
その中に自分の仕事に対する誇りや女中頭への淡い恋愛感情、
イギリスの美しい風景なんかが表現されてて
イギリス好きのあたしには堪らんです。
映画も良かったし。
投稿元:
レビューを見る
購入日不明。5月30日読了。老いた執事がこれまでの人生を振り返るお話。これ映画みたいけど,主演がアンソニー・ホプキンズて…怖くない?
投稿元:
レビューを見る
大物貴族に執事として仕えたスティーブンスンの回想。第2次大戦前に彼が自負していたものは崩れ去ったのか、残ったのか。新しい主人のもとで彼が追及する執事の品格とは何なのか。映画のアンソニー・ホプキンスもよかったけど、この本の中に住むスティーブンスンも素敵です。いつか原書に挑戦したい1冊。
投稿元:
レビューを見る
失われつつある伝統的な英国、とあるが、日本人のためかピンとこず。淡々とした情感は素敵だが、少々退屈かも。でも、痛烈な風刺小説として読むとにわかにどきどき。著者が日系人だし。
投稿元:
レビューを見る
執事とは。萌えーなんかじゃないんです!奥深いもんなんです!切ない中、最後に救いどころを設けるあたり、作者の力量を感じました。なんちって笑
投稿元:
レビューを見る
おもしろかったー。読み応えあり、ひさびさに本の世界に入り込みました。本のシチュエーションというより、物語に漂う感性のようなものが自分の頭の裏あたりに入り込む感じ。腑に落ちるということはないからこそ、おもしろい。
投稿元:
レビューを見る
美しい情景とともに、主人公の切ない想いが胸に迫る。哀愁漂うけど爽やか。心が洗われるような読後感でした。
投稿元:
レビューを見る
イギリスの名家に勤める執事、スティーブンが元同僚と会うために旅にでる。その間、思いをめぐらせる。
伝統的なイギリスと本の裏にあるが、その通り。
でもって、この主人公が執事としては優秀なのかもしれないが、人間としては面白みがさっぱりない。さっぱりないんだけど、だんだんシンパシーを感じてくる。
カズオ・イシグロ、上手い!
「品性」という言葉がポイントのように出てくる。品性が失われた時代に、あえてこれを問うという、手法は古めかしいが切り口は斬新なのである。
つまり、古い皮袋にいれた新しいぶどう酒か…。
村上春樹が、「わたしを離さないで」を絶賛していたのが、納得。
さっさと、文庫になってくれるといいんだがな。
投稿元:
レビューを見る
ほんとうに幸福だった。第一次大戦から第二次大戦にかけてイギリスの高名な紳士に仕えた執事が、自動車で旅行をしながら回想をめぐらす話である。完璧で美しい台詞や言い回し(原文は英語だが)、当時のイギリスの文化、旅行中の風景など、執事の人柄を表すかのように、どれも骨太な美しさがある。これまでの仕事に対する誇り、雇主に対する愛、その2点に縛られていたからこそ成就することなく、気付くことすらなかった女中頭への想い。自信と、後悔と、郷愁と。過不足無く、絶妙なバランスで成り立った世界があった。「浮世の画家」と同様、とても丁寧に描かれていて、小説を読む喜びがじわじわとあふれ出るような、まさに傑作。読了後、「この小説を読んでいる時、私は幸福だったんだな」と泣きそうになった。ほんとうに幸福だった。
投稿元:
レビューを見る
ブッカー賞受賞作。イギリス人の執事を主人公に、日系の作家がここまでこまやかな作品をかいたことが大いに話題となった。人間は歳をとると、選択しなかった人生について、あれこれと思いをめぐらすものなのかもしれない。人に仕えるという職業に生き甲斐を感じてきた主人公が、人生の黄昏に思いおこす、ささやかなときめきがせつない。
投稿元:
レビューを見る
ダーリントン・ホールの執事、スティーブンスが現在の主人であるファラディの車を借りて旅をし、その間に昔のことを思い出す。信頼できない語り手の技巧を駆使し執事として己を抹殺せざるを得なかった男の半生を描いた傑作。
投稿元:
レビューを見る
映画が先で、ようやく読んだが、良かった。ただし、これは主人公の一人語りなのか日記なのか、どちらでも変な気がする。