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紙の本
幕末動乱期のはじまりをアイロニカルな視点で活写!
2008/02/25 22:53
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
随分と物騒なタイトルであるが、本書はその題名通り騒然とした幕末の幕開けを描いている。時期としては、徳川幕府がアメリカと和親条約・通商修好条約を次々と締結し、それが攘夷派の憤激を呼び、時の大老井伊直弼が登城途中に襲われ殺害されるという天地驚愕の事態が起きた時代、元号で言えば嘉永から安政年間までが対象となっている。
本書の特色は、当時の時代相や、為政者の置かれた状況や苦悩を確かな史料に拠りつつも独自なアイロニカルな視点で幕末日本に迫ろうとしていることである。特に著者のアイロニカルな視点が冴え渡っているのは、歴史の大きな渦に巻き込まれ退場を余儀なくされた為政者たちを描いているところである。例えば、当時、老中首座にあった阿部正弘がアメリカの執拗な交易要求に強いストレスを受け病を発し短い人生を終える件では、「かって水もしたたる美男子で大奥の女官の胸をときめかせた昔の面影が消え失せ」「絵に描いた幽霊みたいで夜中にあったら差し向かいで話すのも恐いくらいであった」というさる大名の証言を紹介し、阿部老中の鬼気迫る晩年を伝えている。
また、日米修好条約調印を朝廷に奏請する任に当たった老中の堀田正睦については、「肥満体で丸顔、唇が厚く、眼が小さいうえに団子鼻ときていてとても殿様には見えなかった」という同時代人の記録を引いたうえで、老練な京の公家たちに散々愚弄される哀れな有様を乾いた筆致で描いている。
さらに、本書のキーパーソンである井伊直弼については、藩主の十四男であり、本来であればどこかの寺院の住職になって静かに生を終えるところを、偶然が重なり幕府大老にまで昇りつめ、前半生の辛い人生から培われた暗い性格が禍いして安政の大獄というテロを引き起こし、最後は自らもテロに斃れるという皮肉な運命を辿ったという醒めた見方をしている。
本書は、このように時の為政者たちの無残な末路がエピソード豊かに描かれているが、同時に当時の時代相がしっかり描かれているところも読みどころの一つとなっている。それは、台風・大地震といった天変地異に見舞われた江戸の住民たちの苦悩、開国に伴う物価高で乏しい収入を直撃された下級武士や庶民の窮状振り、そうした生活苦を忘れたかのように六十年に一度という富士女人解禁に沸く江戸庶民の富士登山の有様などの描写によく窺える。
著者はこれまでにも『江戸人の昼と夜』『江戸のヨブ』をはじめとして幾多の幕末に関する書物を著している。それは、幕末と現代日本社会の動きが極めて似ており、幕末を描くことはそのまま今の日本を論じることに繋がるということにあるらしい。著者のこのような姿勢が、アイロニカルな視点も手伝って本書を単なる「幕末もの」を超えたユニークな書物にしている。
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