紙の本
知的遊戯
2010/06/05 08:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古今東西、妖怪の類は数知れず。百鬼夜行だけでも100の魑魅魍魎が跋扈する。ただ、彼らは架空という前提をみんなが理解しているからこそ、生き生きとした存在になるのではないだろうか。ホラー映画に登場する彼らの躍動的な姿に生物学的考察など不必要だ。しかし、本書は架空生物に対して、生物学的見地から取り組んでしまった。それも含み笑いを誘うような生真面目さで。
本書の基本スタンスは「予測不可能な機能の創造と、予測可能な構造の応用」(135頁)である。例えばタイトルにあるろくろ首。首が伸びるろくろ首の場合、首が伸びるシステムが予測不可能な機能で、これを筋肉細胞の可能性から“実在性”を示して見せた。筋肉細胞の研究成果が、予測可能な構造の応用ということになる。この基本スタンスは全16話を通して守られる。そして、予測可能な構造を示すため、まずそれぞれの架空生物に関わるであろう生物の身体の解説からはじまる。
さて、全16話は5つの章にまとめられている。解剖学、免疫学・発生生物学、生化学・分子生物学、細胞生物学、生態学という柱を立て、それに則して架空生物の分析が試みられている。
『平家物語』のぬえや『ギリシア神話』のキマイラの場合、異なる生物の集合体である点を注視している。『平家物語』で源頼政が退治したぬえは、頭が猿で手足は虎、胴体が狸で尾は蛇という姿態の怪物である。鳴き声が鵺(ぬえ)-現在のトラツグミ-に似ているということが、その名の由来という。この怪物の生体的問題点として、筆者は免疫システムをあげている。つまり、異なる生物の部位同士が攻撃し合うのではないかという観点から議論を出発した。そして、考察である。考察では免疫寛容の説明から入る。免疫寛容とは「異物に対して寛容になる現象、すなわち異物が体内に侵入しても免疫反応が起こらない現象」(58頁)とのこと。ぬえの免疫システムを統括しているのは、狸の胴体部分の「キメラ線」という特殊臓器、ということにして筆者は考察を進める。4種の生物部位は、胎児段階に免疫反応を起こす、とする。その前提で免疫寛容を考慮してまとめていく。ぬえの話は、当然免疫学の章に収められているが、その他の生物についても章のタイトルに則した視点からの分析を試みている。
本書あとがきには「知的な遊戯とアカデミズムの取り合わせが絶妙」という評価を得たと記述されているが、同感である。昨今、新書に取り組む出版社が非常に増えた。いまやタレントやスポーツ選手までもが著者として新書を刊行するようになった。ただ、裾野が広がった分、知的満足度が低い本も多い気がするのは私だけだろうか。そんな昨今の状況下、本書は“知的な遊戯”を心から楽しめる貴重な作品と言える。新書の内容に対する許容範囲が広がった結果として、本書が誕生したのかもしれない。新書の裾野が広がったことは、あながち悪いことばかりではないらしい。頭の体操として一読をおすすめしたい。
電子書籍
着眼点に惹かれて
2021/01/21 22:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読書灯 - この投稿者のレビュー一覧を見る
吸血鬼ものの小説が書きたくて、資料になるかと期待して購入。目当ての吸血鬼のところは、ちょっと期待はずれだった。吸血鬼が灰になっても再生できるかどうか科学的に検証してみようという内容だったが、結局「ムリでしょ」みたいな結論になってしまっていた。せっかくこういうタイトルの本なのだから、そこは無理矢理にでもこじつけて欲しかった。
そのほかの部分は、まあ読み物としては面白いんじゃないかな。
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(未読)これを本屋さんで見かけて、本当に読みたいと思ってしまいました(ろくろ首の首はなぜ伸びるのかってきかれたら、私はそりゃ幽霊だからって答えるしかないんですけどね)、とにかく読みたい一冊。
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妖怪のカテゴリに分類しているものの、内容は生物学。妖怪や伝説上の生き物を生物学的に考察している。知的な遊び心を満たしてくれる1冊。
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本屋で平積みにされていて少し立ち読み(笑)。色々な妖怪を生物学的に追究してます。空想化学読本みたいな感じかな。
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ドラキュラはどうしてお日様の光で灰になってしまうのか?ろくろ首の首はどうして伸びるのか?…そんな空想生物たちの体の構造の謎を生物学的に論じた本。こういう一見何に役に立つんだって話を真面目に研究しちゃうセンスは大好きです(笑)
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ドラキュラが実は光合成をしているから日に当たると一気に灰になる等。
科学読本みたいな感じ。でも、やっぱり無理やり感があるかな。
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面白い事は、面白いんだけど物足りない。作者はもっと馬鹿になるべきだと思う。もっと開き直ってとんでも理論をつけて欲しかった。
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新書って難しそう……なんて思ったら損します。個人的には、「吸血鬼―太陽の光が当たるとなぜ灰になるか」がツボ。
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考えたことがありますか??
ろくろ首の首が伸びる方法を。
飛頭蛮が耳で飛ぶ仕組みを。
ケンタウロスの体の中身を。
そんな疑問に生物学的見地から考え追求した1冊!!
「そーゆー事だったのか!!」
ロマンがあなたを待っています。
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副題は「遊ぶ生物学への招待」
中は解剖学・免疫学・生化学等に分かれいます。対象となる生物(?)は、表題にあるろくろ首からケンタウルス、吸血鬼にカオナシ等々多岐にわたっており、たいへんマジメに遊んでいます。つまり遊びながら学べるのです。
こういうのを教科書とまでは言わないけれど、副教材あたりに使ってくれると理科離れが減るのかも…?
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「ろくろ首の首はなぜのびるのか?」
著者 武村政春
サブタイトル通り生物学の知識でジョークを楽しむ一冊
空想の生物を現行の生物学によって考察しています
キチンとした知識を持った人が書いたものは
どんなジャンルの物でも面白く読めるなと思う
参考文献が数多く載っているので
生物について調べるとっかかりに大変便利なのでは
この中で紹介されている「鼻行類」に凄く興味を惹かれます
生物学に興味があるとより楽しめるのでは
もしくは妖怪が好きな方に
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[ 内容 ]
ドラキュラはなぜ日光で灰になってしまうのか。
モスラはどうやって呼吸しているのか。
人と魚が合体して人魚になる過程、カマイタチの鎌の成分、カオナシが食べた生物の声になるメカニズムとは-。
古今東西の「架空生物」の謎を最新生物学で解き明かす。
読み進むうちに頭が柔らかくなること間違いなし。
仮想と現実、冗談と本気、奇想と学問が大胆に結合した「遊ぶ生物学」。
[ 目次 ]
第1章 遊ぶ解剖学(飛頭蛮-耳はどのように翼として機能するか ケンタウロス-人間の胴体はどのように馬からつながったか 豆狸-陰嚢はどのように広がったか)
第2章 遊ぶ免疫学・遊ぶ発生生物学(ぬえ-キメラはどうして生き残ったか カオナシ-食べた生物の声をどのようにして出せたか 人魚-ヒトと魚の体はどのように融合したか)
第3章 遊ぶ生化学・遊ぶ分子生物学(吸血鬼-太陽の光が当たるとなぜ灰になるか カマイタチ-前肢の鎌はどのようにして出来たか 皿かぞへ-井戸から出てくる皿はなぜ九枚か)
第4章 遊ぶ細胞生物学(ろくろ首-首はどのように伸びたか オオツキヒカリ-植物はどのように透明になったか 赤えいの魚-魚はどのように巨大化したか 目目連-障子にどうして目が出来たか)
第5章 遊ぶ生態学(カワリオオアゴウツボ-魚はなぜ泳ぐのをやめたか モスラ-ガはどのように巨大化したか 蜃-ハマグリはどのように気を吐くか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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友人から借りました
ファンタジー? 学術書?
真面目にふざけた本。
もはや、どれを信じたらいいのか。
とれももっともそうに書いてあるから。
人魚を、受精卵の細胞分裂から追いかけたり(イラスト入り)、免疫の説明を真面目にしたあと「キメラ」の狸遺伝子が「免疫」を騙すとかいう話が。
すごい、奇書ですね。
妖怪のほかにも、最近の映画、千と千尋の「カオナシ」とかの分析も。
あまりにも、緻密に描かれていて「気持ち悪い」というところもある。詳しすぎて「難しい」ところもある。
娯楽本になりきれてない気もするが、妖怪類をここまで真面目そう(?)に分析した本はなかなかないだろう。
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読書の秋ですね! こんなに読むのがはかどるのは久しぶりです。副題は「遊ぶ生物学への招待」。かなり遊んでます。架空の生物を、単にあまり確認されていない生物であるとして、どういう機構ならその生物が存在できるか、そして何々出来るかっていうのを生物学的に考えてみるのです。著者はシュテンプケの『鼻行類』に影響を受けたようです。ちなみに『鼻行類』の存在を知ったのは、たなぞう によってです。まだ読んでませんが。よくみると、各章が「遊ぶ分子生物学」「遊ぶ生態学」などのようになっていて、全部読むと生物学にどんな分野があるのかが分かし、色々な話題が盛り込まれている。テロメアとか、アポトーシスとか。だから構成としてはすごくよくできているのだと思うけど、残念ながら僕にはあまり面白くなかったんですね。生物学の勉強にもならないことはないのだろうけど、読んだそばから忘れていく気が・・・。著者が医学部出身なので、ラテン語は得意なんでしょうか。 調べないと意味が分からない学名があったけど、ラテン語の辞書は持ってないのでまたの機会に。