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26 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

<ミステリにして純文学>

2010/05/16 08:45

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:CAM - この投稿者のレビュー一覧を見る

私はこの小説を翻訳と原書を併せて4回は読んだ。良い作品というのは何度でも読み返したくなるし、読み返すたびに何らかの新しい発見や収穫があるものだ。それは小説だけでなく、映画(ビデオ)でも言えることである。良い作品というのは、各所で物語の細部が連繋し、補強し、響きあい、テーマを変奏し続けていく(本書についての池上冬樹解説)ように構成されているからであろう。

 巻末の池上冬樹解説では、小林信彦、結城昌治、遠藤周作等の諸氏による本作についての最上級の賛辞が挙げられている。たとえば、小林信彦によれば「この小説は<ミステリにして純文学>という奇蹟をやってのけた稀有な例」ということである。本書はスパイ小説の傑作とされているようで、ストーリーそのものの興趣もないわけではないが、劇的なストーリーが展開されるわけではない。本作は、題名が示すように、恐怖、不安、愛、信仰、忠誠というような人間的要素を追及する物語であり、読者に対して、国境とは何か、「国」を裏切るとはどういうことなのか、といったテーマを問いかけている。

 また、遠藤周作は「グリーンのそれ(小説)を広げ、そのうまさ、その情感にみちた文体に圧倒される。私のそれは何と乾燥しているだろう」と述べている。遠藤周作はこの引用部分ではグリーンの文体について言っているのだが、作品、文体の真価を本当に味わうためには、翻訳ではなく原文にあたるべきであろう。

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