紙の本
鬼平外伝の材料は尽きない?
2014/01/19 21:27
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波正太郎が描く江戸時代の名を成した盗賊の話である。中村吉右衛門が演じるテレビの鬼平犯科帳の中には原作にない話がかなり登場する。熱心にテレビ版を見ている方は気が付いているかもしれない。とくに最近、ケーブルテレビ局が『鬼平外伝』と称して鬼平が登場しないドラマを制作し、放映している。
この吉右衛門や鬼平外伝で取り上げられている原作が本書に在る。池波がいろいろ書きためたもののようであるが、それを「にっぽん怪盗伝」として整理したもののように見える。したがって、鬼平ファンならばどこかで読んでことがあるかもしれないと思わせるのである。
本書にある「正月四日の客」、「白浪看板」、「熊五郎の顔」などは外伝で使われたものである。「江戸怪盗記」は似た話が鬼平犯科帳にも登場していた。「市松小僧始末」、「四度目の女房」、「鬼坊主の女」、「金太郎蕎麦」などはテレビ版鬼平犯科帳の中で登場したものである。
ここに出ていなければ『江戸の暗黒街』の方であろう。鬼平犯科帳はそれほど裾野が広いわけである。テレビ版では、本書や江戸の暗黒街に登場する話には、鬼平自身が付け足しのように登場するが、小説には出てこない。それゆえの外伝なのであろう。
「市松小僧始末」では、大女とすりの夫婦が主人公である。テレビ版では大女は元女子プロレスラーが演じていた。それに続く「喧嘩あんま」、「ねずみの糞」はやはり同じ主人公の続き話である。これなどは小説だからこそできる工夫ではないか。
鬼平犯科帳の本編文庫本24冊同様、本書も短編集できわめて読みやすい。鬼平犯科帳ファンならば、鬼平は出て来ずとも楽しめる一冊である。まだ鬼平絡みで隠れている作品があるような気にさせるのが本書である。
池波正太郎が鬼平を書いていて、調べをしている最中に発見した怪盗、逸話などから発送したものを書き溜めたのかもしれない。そう考えると、まだまだ材料はあったのかもしれない。
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『鬼平犯科帳』を読んでいて、もう少し盗人側に焦点を当てた話はないものかと思い、見つけたのが本書。
本書に収録されている話は、
「江戸怪盗記」、「白浪看板」、「四度目の女房」、「市松小僧始末」、「喧嘩あんま」、「ねずみの糞」、「熊五郎の顔」、「鬼坊主の女」、「金太郎蕎麦」、「正月四日の客」、「おしろい猫」、「さざ浪伝兵衛」の12篇。結構ボリュームがある。
「江戸怪盗記」は『鬼平犯科帳』でも登場する「葵小僧」の話。続く「白浪看板」の「夜兎の角右衛門」も『鬼平』に登場する。また、この話と最後の「さざ浪伝兵衛」に少し登場する盗人としては「蛇の平十郎」がいる。捕り方よりも盗人に焦点を当てているため、盗人個人の心情がよく描かれている。同じ盗人でも、指導の仕方でこうも変わるものか。
「市松小僧始末」から続く3篇はみな市松小僧・又吉とその妻・おまゆに関わる話。情が深いというのが、こういう行為にも反映されるものか?と思われる程の出来事が用意されている。しかし池波さんの話に出てくる女性は豊満な方が多い。とくに市松小僧の話は、妻を亡き母と重ねている部分が描かれる。男性はマザコンと聞いたことがあるが、そうだろうなと思う。妻に母のぬくもりを求めることも無理もないと思うのだ。
「喧嘩あんま」での、又吉の「人と人の気持というものはなあ、血のつながりでどうにかなるものじゃねえよ。…」という台詞は読んでいて心地よく響いた。
「鬼坊主の女」と「金太郎蕎麦」も微妙な部分がつながっている。そして「金太郎蕎麦」と「正月四日の客」も蕎麦つながりで、名代の蕎麦屋が登場する。読む時間を間違えると辛い。
読んでいて若干消化不良だったのが、「おしろい猫」。栄次郎があまり悪漢に思えず、したたかなお長のその後が非常に気になった。おそらく切ない結末が待っているのだろうけど。
全体的に楽しめたが、人情味のある大盗人の活躍を描いた話を読んでみたいと感じた。
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初めて池波正太郎の本を読んだ。人の描写が艶かしいというか、生々しいと言う感じがして引き込まれる感じ。そして主人公たちの中に流れる矜持・プライドというものが、悪党であろうとも気持ちがよく感じられた。これを期に鬼平シリーズでも読んでみようかな。
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鬼平犯科帳 番外編。
といっても、全てが鬼平犯科帳番外編ではなかったが。
江戸怪盗記は、鬼平犯科帳ででてきた、葵小僧の葵小僧視点のお話。
全編が、怪盗側の視点で書かれていたが、なんとも言えない哀しい人生が語られているものも多くある。
人生、悲喜交々。。
なぜか、読むのに少し時間がかかったけれど。。
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著者みずから「悪漢(ピカレスク)小説」と銘打った短編集。世の中の裏街道を歩く人間たちの、生き様/死に様、成功/破滅のコントラストが、鮮烈に描き出されている。ちなみに、火付盗賊改方が登場するつながりか、本書に収められた短編の大半は、ドラマ版『鬼平犯科帳』にて映像化されていたりする。
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火付盗賊改方に取り締まられる側の盗賊が主の短編集です。
火盗といっても鬼平が登場したのは『江戸怪盗記』1作でした。
やや拍子抜けしたものの、他の短編も面白かったです。
盗賊の葵小僧に盗みに入られただけでなく女房を犯された日野屋。それも一度のみならず二度も。また来年も来るという。不安に思った日野屋は親しくなった隣の近江屋に泊まってもらうことにするのだが…。
意外な展開と鬼平の裁きがかっこいい『江戸怪盗記』。
金の入った包みを拾いながらも実直にそれを持ち主に返した女乞食。
「乞食というものは、人のおあまりをいただいて暮らしているんですよ」だから、わりと拾いものを返すという。
その心意気に感心した《夜兎の角右衛門》はその女に鰻を御馳走する。
そしてその女の片腕がないのは、己の“はたらき”の際、手下が三ケ条の掟を破ったからだと知り…。
自身の理を通した角右衛門の潔さは盗人ながらかっこいいと思いました。
『四度目の女房』『市松小僧始末』は豊満な女房の話で、母親に包まれているような気持ちで安心できるのでしょうね。安らぎを求めるのでしょうか。
『市松小僧始末』『喧嘩あんま』『ねずみの糞』には大店の娘ですが巨体のおまゆと掏摸の又吉が登場します。
いろいろとあった後に彼らは夫婦になり幸せに暮らしますが、又吉がふとした出来心から掏摸をしてしまい、お縄になるところでおまゆが取った行動は…。
おまゆのおかげで成長した又吉と因果応報の話が楽しめました。
因果応報といえば『さざ浪伝兵衛』。
伝兵衛が初めて人を殺したのは伊之助という男だった。
初めて殺した人の亡霊に悩まされる先輩を笑っていた伝兵衛だったが、火盗に追われ泳いで逃げる際、己の足を掴む伊之助の顔が見えて…。
『おしろい猫』は女の執念というか、女は怖いと思わせる話でした。
木綿問屋の若主人におさまった平吉は、ふとしたきっかけで幼馴染のお長と関係をもってしまう。
お長から子が出来たといわれた平吉は、同じ幼馴染の仲の栄次郎に仲介を頼むのですが…。
猫の鼻におしろいをつけて、という思わせぶりがかえって怖い話です。
どこか悲哀があったり、生身の人というのを感じさせてくれる短編集だったと思います。
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池波正太郎氏の作品では、やはり悪漢小説がなんていっても面白い。
悪漢というから情けがない悪人ばかりでなく、役人といっても悪い奴らもたくさんいる。
作品なかで、『なにをいやがる。人間の顔は一つじゃねえ。』とのセリフがある。現代と違い、取り締まる方も、情けがあり、お目こぼしをする江戸時代の方が、住みやすそうに見えるのは、僕だけだろうか。
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江戸の世に蔓延る悪漢たちに焦点を当てた短編集です。
読後に知ったものですが、こちらはドラマなどにもなった鬼平犯科帳の作者様が書いたものとのことで、鬼平(長谷川平蔵)を初めとする火付盗賊改方を敵方に置いた、悪漢やその周りの人々の視点で話が展開します。
鬼平が登場するのは12編のうち1編のみです。
作者本人もピカレスクと称するように、悪役・悪人の物語が詰まった一冊ですが、悪漢の視点で進む物語というのは、また正義の側から進む物語とは違う魅力があって、気付くとしっかり引き込まれてしまいました。
悪漢には悪漢の考え方があり、流儀があり、ルールがあり、矜持があり、どうしようもない奴だと思う者もいれば情に厚い奴だと思う者もいる。慎重な者もいれば行き当たりばったりの者もいる。とてつもない成功を収めることができる者もいればある日突然転落して命を落としてしまう者もいる。
江戸の世の、ある意味ではとても人間味のあふれる世界に触れた気がします。
悪人を取り締まる方も、火付盗賊改方は町や藩をまたいで活動することのできる特別警察みたいな立ち位置ですが、お上に判断を仰ぐ間を持たず裁くことができるところに情状酌量やお目こぼし、お情けといった人間味のある処断が入る余地があったのだろうなと思います。
特権があるからこそ、それを振りかざして何でもかんでもでっちあげるような人もあったりしたのかもしれないですが……現代よりも江戸の方が窮屈ではなさそうだと、思ってしまったり。
どの話も、そして真相は藪の中、とでも言うように登場人物たちには知る由もないところで誰かが生きていたり死んでいたりする、というところがまたリアルで、ニヒルなところだったと思います。
自分の目の前にいるその人が本当はどんな人かなんて、結局のところ誰にもわからないものなのでしょうね。どんな人でも、いくつもの顔を持っているものなのだろうから。
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池波正太郎氏の傑作短編が12編も入った「怪盗伝」。巻頭の2編「江戸怪盗記」、「白浪看板」には、池波氏が有名にした長谷川平蔵が登場するが、まだ「鬼平」と呼ばれるまでにはなっていないのが興味深い。どの作品も、人の世の哀感を滲ませる傑作集。
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随分前にテレビドラマで鬼平犯科帳の外伝「四度目の女房」を見て以来ずっと心に残っていたので原作を読んでみた。
「四度目の女房」だけしっかり見て、あとはサラッと読もうかなと思っていたけどとんでもない。全ての短編が素晴らしく、時代小説といえば古いもののイメージだったのが、新しい刺激を受けるばかりの一冊だった。
短編といえど短編同士で人間関係に相関があることから群像小説でもあり、視点が変われば掏摸(すり)も商人も大盗賊も、全く違う顔を見せる面白さがある。
全ての短編で根底に「情」というテーマがあって、それは愛情だったり憎悪だったりするけど、池波さんが書く江戸の「情」は現代のそれよりもっと濃いように思われる。情が人を殺すし、情が人を生かしている。悪人が情で人を生かすこともあるし、善人が情で人を殺すこともある。