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紙の本
藤沢周平の人となりが伝わってくる、落ち着いた語り口で小説と同じ呼吸で読めるエッセイ集。
2010/05/25 19:26
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和五十年~六十年代にかけて、さまざまな誌面に書かれたエッセイをまとめた作品。
落ち着いた語り口に小説と同じ呼吸で読むことができるエッセイなので、藤沢作品が好きな人には違和感なく読める。
内容は、過去のこと、身の回りのこと、郷里のこと、読書日記、歴史上の人物のこと、自身の作品のこと、俳句のこと、など多岐に渡り、藤沢周平ファンでなくとも存分に楽しめる。
いくつかのエッセイでは、店の人でなく店自体を言うのに”床屋さん”、”本屋さん”、”歯医者さん”など、”さん”をつけて語っており、藤沢周平の温厚な人となりが伝わってくるようである。
どれも魅力的なエッセイばかりだが、『碁の個性』、『読書日記』、『ミステリィ読書日記』、『芝居と私』に、特に興味を持った。
『碁の個性』では、著者が出場した週刊ポスト主催の囲碁大会において、対局した相手の碁の個性を述べている。
その対戦相手のなかでも目を引いたのが星新一。
対戦相手の中にこの名前を見たときに、私のお気に入りの作家二人が相対しているのだ、という感動が沸き起こった。
という感情とともに、SF小説と時代小説、未来と過去、ドライとウェットなど、作品の作風やジャンルが正反対とも言える二人が顔を合わせている思うと、本来出会うはずのない二人が出会ったような奇妙な感覚も覚えた。
生まれた年は一年違いなので、顔を合わせていてもおかしくないのだけれど、彼らの作品ばかり読んでいると、まるで著者の住む世界が違っているような錯覚を感じてしまう。
『読書日記』、『ミステリィ読書日記』では、読んだ本についての簡単な概要や感想などが述べられており、読書好きの著者の嗜好や本に対する所感が楽しめる。
『芝居と私』では、先日読んだ「橋ものがたり」にまつわるもので、著者曰く『目立たない地味な小説集「橋ものがたり」』が芝居化された、喜びと新鮮な感動が綴られている。
藤沢周平ファンならお勧めです。
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