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紙の本

今日は国士、明日はスパイ

2019/01/21 23:35

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る

瀬島龍三中佐の「幾山河」を出した産経新聞の編集委員が書いた本。産経は瀬島中佐の生前は「国士」のように持ち上げていたのに、故人になれば手のひらを返したように30年間、相も変わらぬ瀬島批判を繰り返す保阪正康の後に追ってこき下ろす姿は「死人に口無し」と卑劣さすら感じる。実際に瀬島龍三が「影の参謀総長」だったら、文中にあるようにシベリア鉄道でチェキストに毒殺されるかもしれないモスクワへのクーリエの任務を任せるのだろうか?所詮は捨て駒程度の存在だったのではないか?
 戦前の外交は外務省と軍との二元体制(もっと言えば陸軍と海軍との三元体制)なのに、瀬島がソ連にクーリエとして派遣された事に触れてクーリエを「外務省の役人がする仕事」という半藤一利の発言を引用している。岡田啓介は予備役の海軍大将、迫水久常は大蔵官僚、そして瀬島は参謀本部作戦課とバラバラなのに、姻戚関係だけで、あの陸軍と海軍がバラバラに戦争をしているような官僚的な枠を越えて任務を与えられるらしい。
 瀬島は2・26で殺された松尾傳藏大佐の娘と結婚しているので、岡田啓介の義理の甥に当たるが、彼が「わざわざ定期的に岡田と情報交換していたことを持ちだしているが、これは岡田、迫水と瀬島が係累を基本とするインナーサークルを形成して、自らが権力の最上層部で国を動かしていたことを問わず語りに示している」と書くところを見ると、戦時中は岡田啓介が「権力の最上層部で国を動かしていた」とでも思っているらしい。瀬島龍三のような毀誉褒貶が甚だしい人物の虚像化は好悪双方から進んでいたが、虚像化が進み過ぎると岡田啓介海軍大将が総理大臣経験者とはいえ、あまりにも主観的だ。保阪正康でも、ここまで変な事は書いていない。産経の記者らしくソ連防衛の為の組織に成り下がったコミンテルンが世界征服を企むショッカーのような闇の組織であるかのように書いている。
 モスクワ特派員経験者でロシア語が出来るのに「スターリングラード」に改名される前はツァリーツィンという名前だった事を知らないし、「北鉄(北支鉄道)」という正体不明の路線が出て来たが、中東鉄道(当時で言う「東支鉄道」、本文の別の箇所にある「北満鉄道」)だとすぐには気がつかなかった。まさか「北満」と「北支」が同じだと思っているのではないだろうか?
 こんな事を書いていると、いくら小野寺信・百合子夫妻が優れた情報参謀と強力な協力者であっても、他の記述の馬鹿馬鹿しさに影が薄くなる。
 NHKのドラマの原作となった本だが、ちらりと出てくる瀬島龍三は本願寺派の門徒代表で、製作に関わった訓覇圭プロデューサーは祖父が大谷派宗務総長で同朋会運動の創始者、父親が大谷大学の学長で、「あま」の製作統括だから、鈴鹿ひろ美こと薬師丸ひろ子が小野寺百合子の役で出ているのと併せて、見ていて変な気持になった。「昭和天皇実録」昭和27年10月18日条に岡田啓介の葬儀が「本願寺築地別院」(今の築地本願寺)で執り行われた事が記されているから、戦時下で「権力の最上層部で国を動かしていた」という岡田啓介も本願寺派の門徒だろう。

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2013/02/11 10:21

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2013/01/27 22:25

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2013/10/08 19:57

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2020/09/16 19:06

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2022/09/26 21:14

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