紙の本
美しい日本語の調べに酔う妙味
2006/05/02 04:48
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の中から「歌行燈」について言及することとしよう。
「歌行燈」は、二つの過去(老人達に語る芸者お三重の過去と、うどん屋に語る門附の喜多八の過去)が同時進行しつつもゆるやかに次第に急峻な流れとなってくりひろげられるのである。
二人の老人は能役者の恩地源三郎と小鼓方名人辺見雪叟。
門付けに落ちぶれたのは源三郎に勘当された甥の喜多八である。
芸のできない芸者(ただ能を一差し舞えるだけ)のお三重。
喜多八に辱められ憤死した按摩の宋山。これらの人物の過去をからめて能楽「海士」の秘曲に乗せて鏡花は能楽の序破急にあわせるごとく言葉の調べの極みを尽くすのである。
「肩に綾なす鼓の手影、雲井の胴に光りさし、艶が添って、名誉が籠めた心の花に、調べの緒の色、颯と燃え、ヤオ、と一つ声が懸かる。」
「緑の黒髪かけて、颯と翳すや舞扇は、銀地に、その、雲も恋人の影も立添う、光を放って、ともしびを白めて舞うのである」
…と、美しい言葉の調べはまさに鏡花の美。
能楽の序破急にのり言葉の調べの美しさはその極みに達するのであるが、本書の主題は「芸」。
芸の至高、深み、恐ろしさ、法悦を言葉に尽くした先にあるもの、それが本書であろうか。
美しい日本語の調べに酔う妙味を味わせてくれる鏡花の傑作中の傑作。
※解説で吉田精一氏は「歌行燈」の素材について:
宝生九郎、と天才的な門人瀬尾要との関係を視野に入れつつも、鏡花の叔父、宝生流の名手松本金太郎と作中人物恩地源三郎は宝生流家元、九郎の人柄を加味して練り上げたものだろうとしている。
2005年2月7日付けの中日新聞芸能欄に「歌行燈」のモデルと題するコラムが載っていたので一部を付しておこう。
「主人公の転落の能楽師恩地喜多八には、数人のモデルがいるとされてきた。その一人が明治中期、宝生流シテのホープから失墜した木村安吉である。名古屋の能楽の歴史に詳しい能楽師筧鉱一さんによると廃藩後、尾張藩士から能楽師に転身した木村治一の息子安吉は、深い仲となった日本舞踊の師匠にタブーを破り仕舞いを教えて破門。能楽界から追放されたという。
ある日、素人謡会に呼ばれた安吉が端役ながら「そこのき候へ」の一句を謡いそのすさまじさに並み居る連中が震え上がったという。後に能楽界に復帰するも不遇の内に早世したという。
投稿元:
レビューを見る
泉鏡花、名前からして読んでみたくなる作家。
『高野聖』と『外科室』が好き。
どっちも不思議でエロい印象。
彼は独特の作風。
投稿元:
レビューを見る
「歌行灯」は、私の地元、桑名が舞台!「高野聖」は言わずと知れた傑作中の傑作。直接的でないが、震えるほど濃密なエロスを堪能できる。今の人はこういうのはもう書けないのだろうか・・・。
投稿元:
レビューを見る
言葉が難しいので読みにくいですが、話としてはとてもおもしろいです。読みやすさの面からあえて星2つにしました。
投稿元:
レビューを見る
描写の言い回しが美しさを意識してんのかきどってて、私はあんまり好きじゃなかった。場面がわかりにくいし。高野聖はその文調が幻想的な内容にあっていたし、おもしろかったが、後は流した。
06/10/9
投稿元:
レビューを見る
何て美しい!!
・・・・・内容は何だか怖くって苦手なのですが・・・・美しい言葉、文章、それだけで満点がつけられる作品だと思います。
投稿元:
レビューを見る
綺麗な文章です。最初は読みづらいと思ったんですが、慣れてくるとこの文章がまた官能的でたまりませんでした。歌行燈、大好きです。
投稿元:
レビューを見る
高野聖はよく出来ていた。文章が個性的なので最初はとっつきにくいが慣れれば良さがみえてくる。日本グリム童話的でいいんじゃないでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
面白いです。幻想的な描写がすごく長けていて、思わず泉鏡花ワールドにどっぷり。
まだこの本は現実世界寄りですが、描写そのものがファンタジー。お化けや空想世界なら泉鏡花、という感じですかね。
一番面白かったのは、高野聖。お化けのお話ですが、リアリズムがあって良かったです。山奥に絶世の美女がいて、獣たちが美女につきまとったり、蛭が突然主人公の全身に吸い付いてきたり……。語り口調で少し分かりづらいところがありますが、それでもリアリティ帯びています。
泉鏡花の作品は長編作品が殆どらしいので、これを機にもっと読みたいですね。
投稿元:
レビューを見る
三年前挫折したこの本に今なら立ち向かえる!多分。と意気込んで読んでみました。高野聖に蛭の大変グロ気持ち悪いシーンがあるのを忘れていて心の中で阿鼻叫喚しながら読んでおりました。いやー面白かった、のはいいんだけど本当に読みづらいったらないよ!今は一体何の話をしていて、誰が主語で何が目的語なのかわかりゃしないとです。事典の校外読んで初めて理解したぜというのも、実はあったり……先生もやっぱり読みにくいだろうねえと仰ったし。しかしそれに目をつぶれば何という幻想世界。男女の恋愛もきゅんとくる。儚いほどに美しい世界を作った鏡花はやっぱすげいなあと思うのです。
投稿元:
レビューを見る
美しさの中に潜むグロテスク。
マザコン文学と言われようが鏡花が好きです。
「歌行燈」のラストのどんでん返しはもうミステリの謎解きも真っ青です。
投稿元:
レビューを見る
読むのに超時間かかった…! これは現代文じゃなくてほとんど古典だよ! 訳文で読めばよかった…!
妖しすぎてひき込まれます。山奥に足を進めていく描写も妖しいけれど、山奥に住む女が妖しすぎて怖いよ。
歌行灯が、思っていたよりずっと面白かった。というより、悲しくて心に残った。
投稿元:
レビューを見る
鏡花先生の文は今の私にとって、まだ理解しがたいですが、今度はただその格別な趣を覗き、些かなイメージをとってみました。 それにしても途中にすごく感動していました。 その女に対する美しく侘しい世界の描写、ユーモアの会話、生き生きと読者をその書かれた場に素早く深く連れていき、そこで色んな謎の様な体験を歴々と味わわせて、とても面白いです。 これからもまた読み返し、新しいコメントを作り上げたいですもの。
投稿元:
レビューを見る
高野聖は結構よかった。雰囲気のでている怪談らしい怪談。ただ全編通して古い作品だからなのか文体が特徴的だからなのか非常に読みにくい。
投稿元:
レビューを見る
特徴的でありながら美しい文章が織り成す、現実感の希薄な幻想的物語。
星が四つなのは私の理解がその素晴らしい世界観に追い付けないからです。
再読する時には読解力を上げていたいものです。